テレビワイドショー信者の「世直し」幻想と現実の選挙結果
2025年某日——とあるテレビのワイドショーを欠かさず視聴し、政治の「真実」を知っていると信じる男がいた。彼はテレビ番組のコメンテーターの言葉を鵜呑みにし、まるで自身が社会正義の代弁者であるかのように語る。「この国を変えるんだ!」と熱く語る彼の姿を取材した。
「結局、財務省が悪いんですよ。政治家は財務官僚の操り人形。だから俺たちが監視しないといけないんです!」
彼は語気を強めた。しかし、その「監視」とは、ワイドショーで紹介されたスキャンダルをSNSで拡散し、気に入らない政治家を「こらしめる」ことだった。
しかし、彼が信じていた「世直し」とは裏腹に、現実の選挙では予想外の結果が待っていた。国民民主党が議席を伸ばし、与党が過半数を割る事態となったのだ。
「な、なんで!?俺たちの正義の声は届いたはずなのに…」
彼の顔には困惑の色が浮かんでいた。テレビのコメンテーターが予測した「政権の安定」は崩れ、国民民主党がキャスティングボードを握る展開になったのだ。
「これは財務省の陰謀だ…!」
彼はそう呟くと、再びワイドショーを見つめた。彼の「世直し」は、次なる話題へと向かっていく
この男性(仮名:池田氏・50代)は、毎日テレビのワイドショーを欠かさずチェックしているという。特に政治関連のコーナーは「唯一信頼できる情報源」だと語る。
「政治家のスキャンダルは全部財務省の陰謀だ。積極財政を主張する議員が狙われてるんだよ!」
そう話す池田氏は、最近の某議員の不倫報道を例に挙げ、「こんな露骨なタイミングでスキャンダルを出してくるのは、積極財政を潰したい官僚どもの仕業」と断言する。しかし、証拠はあるのかと尋ねると「テレビがそう言っていた」と返すのみだった。
ワイドショーの影響と現実の乖離
「ワイドショーは真実を報じている」と信じる人は少なくない。特に昼の情報番組は視聴者層が広く、政治的な話題を取り上げることで影響力を持っている。しかし、テレビ番組の多くは視聴率を優先するあまり、センセーショナルな報道になりがちだ。専門家の中には「ワイドショーの論調は極端に振れやすく、現実の政策議論とは乖離している」と指摘する者もいる。
政治学者の田中氏はこう語る。
「財務省がすべての政策を裏で操っているというのは、陰謀論に近い発想です。もちろん財務官僚の影響力は大きいですが、政策決定には多くの要素が絡みます。テレビで簡単に語られる話は、大抵、政治の一部しか切り取っていません」
世直しの先にあるのは……
池田氏は「俺は国民のために戦っている」と胸を張る。しかし、実際には職を失い、家族とも疎遠になったという。現在はSNSを通じて「同志」を募っているが、フォロワー数は決して多くはない。「世直し」の道は険しく、孤独なものだ。
ワイドショーを信じること自体が悪いわけではない。しかし、それだけを頼りにしてしまうと、世界が極端に歪んで見えることもある。池田氏の姿は、「情報を疑うこと」の大切さを我々に示しているのかもしれない。
テレビのワイドショーを熱心に視聴し、それを元に政治の未来を語る男がいた。彼の名はA氏(50代・無職)。自宅のリビングに置かれた古びたテレビの前に陣取り、毎日数時間にわたり情報番組をチェックしているという。
「テレビを見ていれば、すべてが分かるんです。今、日本を救えるのは誰なのか、悪いのは誰なのか、全部報道されているじゃないですか」とA氏は力説する。
彼の主張は明快だ。
「自民党はもうダメだ。でも立憲も信用できない。今、国民民主党やれいわ新選組が伸びているんです。彼らこそ減税を掲げる真の政治家。消費税をゼロにしてくれるなら、どんな政党でも応援しますよ!」
しかし、彼の情報源はワイドショーとSNSのみ。新聞も読まず、政府の公式発表や経済指標には関心がない。「専門家がテレビで言ってたんだから、それが正しいんですよ」と言い切る。
記者が「テレビはスポンサーや報道方針の影響を受けることもあるのでは?」と尋ねると、「そんなの陰謀論ですよ!テレビ局が間違ったことを言うわけがない」と反論された。
A氏のようにワイドショーを唯一の情報源とし、それを基に政治を論じる人々は少なくない。だが、情報の偏りや誤解を生むリスクもある。彼の「世直し」への情熱は本物かもしれないが、果たしてそれだけで社会を変えられるのか。
記者は取材を終えた後、A氏がまたテレビの前に戻る姿を見つめながら、一つの疑問を抱いた。「彼が本当に見ているのは『世の中』なのか、それとも『作られた物語』なのか」——。