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【歌詞語り】西田敏行「もしもピアノが弾けたなら」

西田敏行さんが亡くなられました。体調面が優れない、ということは伝えられておりましたが、まだまだ名作を生み出してくださる、と思っていただけに、76歳での逝去は早すぎます。

西田さんが残した作品は枚挙に暇がありませんが、ここではドラマ「特捜最前線」でのご活躍を挙げておきたいです。テレビ朝日系列で1977年4月6日から1987年3月26日まで放送されていた刑事ドラマなのですが、西田さんは第1話から約2年にわたり、高杉陽三という、人情味に溢れる刑事役を好演されました。

筆者は、かつてよく再放送されていた、この「特捜最前線」を好んで視ておりましたが、その中でも第23話「女と刑事の子守唄」という話がとても印象的でした。うろ覚えなところもあるので、詳細は割愛しますが、高杉刑事が電車の中で犯人(赤座美代子さん)を追い詰めるのですが、捜査の過程で得も言われぬ「情(男女のそれなどではなく、一人間・一刑事としての)」が相まっております。しかし遂には自らと女性の手をハンカチで覆い、その下で静かに手錠をかけるのです。この「覆ったハンカチの下で手錠をかける」という所作自体もそうですが、その刹那、何ともやるせない表情を見せるのも「非情の犯罪捜査に挑む、心優しき戦士」を体現した、西田さんにしか成しえないであろう演技が、今でも心に残っております。

そしてもちろんこの名曲も。

西田敏行「もしもピアノが弾けたなら」
発売年:1981年
作詞:阿久悠
作曲:坂田晃一

もしも ピアノが弾けたなら
思いのすべてを歌にして
きみに 伝えることだろう

雨が降る日は雨のように
風吹く夜には風のように
晴れた朝には晴れやかに

だけど ぼくにはピアノがない
きみに聴かせる腕もない
心はいつでも半開き
伝える言葉が残される
アア アー アア….
残される

「もしもピアノが弾けたなら」作詞:阿久悠

「ピアノがない」とはいうものの、もし「ピアノ」があって、かつ弾けたとしても、「思いのすべてを伝える」ということはきっと叶わず、「ピアノがない」ことを一種の「言い訳」にした「不器用な男性」を象徴的に表現した名歌だと捉えています。

阿久悠さんご自身は、男性の「頑固さ不器用さ」に「願い」を託すべく、「ピアノが弾けたなら」という表現を選んだようで、かつ以下のようにも述べられております。

「ピアノ」は、ピアノであってピアノでない。少しばかり器用なサービス精神と解釈してもらってもいい。一言でいいのになあと思いながら、その一言を呑みこんでしまういじらしい男が、ちょっと前の時代まではいたのである。
(中略)
ぼくはこの作詞で、その年の日本作詩大賞をもらったが、その時の西田敏行の歌唱は絶品だったと思っている。

阿久悠「愛すべき名歌たち」

また一人名優を亡くしてしまった悲しみは尽きません。
改めてご冥福をお祈り申し上げます。


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