月曜から夜更かししないボクたちへ
もう半年くらい前の話だけど、家族と3人で浅草六区あたりをブラブラしていたら、突然、マイクを持ったお兄さんに話しかけられた。
「「月曜から夜更かし」というテレビ番組の取材班なのですが、今、少しお時間よろしいでしょうか」
特段、急ぎの用事もなかったので、僕は、コクリとうなづいた。
どうやら妻と息子は恥ずかしいから断って欲しかったらしく、インタビューが始まるなり、僕のそばから離れて行った、らしい。
らしい、というのは後で二人から聞かされて分かったからで、僕はそんなことにもちっとも気づかないくらい、お得意の身振り手振りを使った大げさな立ち回りで
何とかわざわざ時間を割いてくれたこの人たちの期待に応えられるように
必死に自らのエピソードトークを話したのだった。
確か「最近、あったいいことは?」的なトークテーマだったと思う。
それに対して、僕はとんかつだけじゃなく素揚げのカニも乗っかった特別なカツカレーを食べた話をしたのだった。
「素揚げのカニが乗ってるカツカレーってすごくないですかあ!」
とほとんど口角泡飛ばす勢いで話す僕とは対照的に、お兄さんの反応は冷静、いや、明らかにちょっと引いていた。
そのつれない反応に動揺した僕は、咄嗟に
「今日も実はカツカレー発祥のお店に行きたくて浅草に来たのですが、閉まってました!」
と続けたのだけど、お兄さんの苦笑いはさらに引きつってしまった。
た、確かにこれでは単なるカツカレー大好きおじさんじゃないか・・・。
しかし、お兄さんもプロだからまだ諦めない。起死回生を狙ってこんな質問をしてきた。
「先ほど素揚げのカニの乗ったカツカレーを自分へのご褒美として食べたと仰ってましたが、どんないいことがあったのでしょうか?」
そうなのだ。僕はその日、ワークショップの講師をやって、それがとてもいい感じで終えられたから、ついつい嬉しくなって、このカツカレーを自分へのご褒美として食べたのだった。
だから、その話を自分的には、本当に嬉しそうに話したのだけど、どうやらこれも彼ら的にはパンチに欠けたらしく、もはやダメ元といった表情で、最後にインタビュアーの彼はこんなことを聞いてきたのだった。
「今までの人生でもっともスポットライトを浴びた瞬間は?」
これに対しても、僕は何のひねりもなくそのワークショップのことを挙げたのだった。豆電球みたいな大きさかもしれないけど、確かにスポットライトを浴びましたよ、という説明好きで。
結局、これにて取材は終了で、当然ながら、その後、この僕の街頭インタビューが番組で放映されることはなかった。
そして、先日、友人にその話をなんとなくしたら、
「いやそれは話のチョイスがマズいだけで、他の話だったら、きっと放映されていたはずだよ」
と慰めて?くれたのだけど、彼が話す僕にまつわるいくつかのエピソードもまたやはりどれもテレビ的にはパンチに欠ける内容ばかりで、僕は思わず吹き出しそうになってしまった。
でも、まぁ、そんな風に、取り立てて人目を惹くような面白いエピソードもなければ、まばゆいばかりのスポットライトを浴びたこともない、日々地味で目立たない生活を送っているボクだけど、
だからと言って
決して幸せじゃないわけじゃないんだよなあ
なんて負け惜しみじゃなく思ってもいる。
例えば、昨日の夕方
駅前の銭湯に入ってから、家路をひとりで歩いていたときに、感じた風の心地よさ
とか
薄いグレーを背景に左から右に進む大きな雲の群れたち
とか
少しずつ夜の帳が下りてきて、輝き始める街灯や小さなお店の看板たち
とか
そんな何てことのないものたちをただ感じ見つめているだけなのに
こんなにも胸がいっぱいになっている自分が確かにいるのだから。
そして、そんな
取り立てて声高に叫ぶまでもないような
ほとんどの人からは見過ごされてしまうような
ちっぽけでふにゃふにゃとしてほとんどカタチのないようなもの
でも、自分にとっては
「確かなもの」
をこのnoteの世界でどうにか文字として定着させたい
というささやかな野望を僕は
闇夜に浮かぶおぼろ月夜に向かって
そっと心の中で叫んだのだった。