昔の自分と喋っていた
先週末、とある事情があって、双子の弟が両親と一緒に上京してきた。
ちなみに弟は気づいたらすぐにひとりでどこかにいなくなるタイプだったから、勝手知ったる地元ならともかく、まったく土地勘がない場所だとやはり心配だから、僕はなるべくそんな彼に付き添うようにしていた。
そして、その週末はめちゃくちゃ暑かったのに加えて、彼は僕以上にめちゃくちゃ歩く人だから、一緒に歩いた僕は本当にシャツがずぶ濡れになるくらい汗をかいてしまった。
けれど、歩きながら、久しぶりに弟とたくさん話せたのはよかったと思う。
彼は、めちゃくちゃおっとりした喋り方をする関西人で、それはまさに彼の素朴で優しい人柄を表していた。
でも、そーゆー喋り方を聞いて、「こいつアホやな」と決めつける人もたくさんいるだろうな、とも思った。
というのも僕自身もそうだったからだ。
そうなのだ。
双子だから、当然、僕も昔は彼と同じような喋り方をしていたのだった。
でも、そののんびりとした喋り方のせいで、平気で僕のことを見下したり馬鹿にする人たちがいて、それが嫌で嫌で仕方なかった僕は、自分なりに早く喋る努力をしたのだった。
そしたら、その努力の甲斐あって、今では音声配信をしたら、なかなか渋い声ですね、なんて(自分としてはまったく想定外な感想を)言われるまでに声変わりできた(笑)
そんな僕は、その週末も、彼と一緒に訪れたカフェや和菓子屋さんで、ほぼ反射的に、弟が店員さんから馬鹿にされて嫌な思いをしないようにと、先回りして、いろいろと余計なことを言ってしまったのだった。
もちろんそのときは事なきを得たのだけど、自分の心にどんどんモヤモヤが溜まっていくのが分かった。
なぜなら、誰よりも、僕自身が、弟の喋り方を馬鹿にしていることに気づいていたからだ。
そんな自分のことをなんだか
すごく汚れちまった
と思ってしまった。
あれだけ嘘をつかず自分らしく正直でありたい
と思っていたのに、ね。
そんな風にずっと妙な罪悪感を抱いていた僕だけれど、長かった一日がようやく終わり、自宅に帰って、妻と息子と彼だけがいる空間に身を置いたとたん、自分の緊張の糸がスルスルッーと音を立ててほぐれていくのを感じた。
そして、そんな僕の目の前には、まるで鏡みたいに、
ホッと安堵の表情を浮かべて、そして、とても楽しそうに話しかけてくる弟の姿があった。
そんな僕らの様子を見た息子が
「◯◯さんってお父さんと喋り方そっくりだよねー」
と言っていて、思わず苦笑いしてしまったけれど、それ以上になんだか嬉しくなった僕は少しだけ泣きそうになっていたのだった。