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路傍の春〜I have a good feeling〜
こんな曲でも聴きながら、お読みいただければ。
早春の日曜日、いつもの病院の帰りに、行きつけの古本屋を訪れ、蔵書の買取りをお願いした。
そのお店での本の買い取りは実はこれが2回目なんだけど、どうやら前回のラインナップが店主の心の琴線に触れたみたいで、割と親しげに接してくれるのが何気に嬉しかった。
換金の際にも、レジ越しに、今回、僕が売ったブツのひとつである「ゴーストワールド」の漫画のページをめくりながら、
「これ、いいですよね〜」と気さくに話しかけてくれた。
その流れで、あのスカーレット・ヨハンソンも出演していた映画版の話題になって、ソーラ•バーチやスティーブ・ブシェミと言ったまあまあマニアックな固有名詞がお互いに自然と出てくる感じがとても心地がよかった。
そして、この映画を店主は高校時代に観たらしいのだけど、すごく忘れられない作品だと言っていて、僕はそれに深くうなづきながら、
「そうそう、僕らみたいなオタクには、痛いくらい刺さる映画でしたよね」
と返した。
そしたら、その発言に対する店主の回答が自分的にはパーフェクトすぎて、思わず心がウキウキしてしまった。
そう、彼は胸にそっと手を当てながら、
「そうなんです。刺さって、そのまま今もずっとここに残っているんですよね」
と答えたのだ。
これこそ
まさにそれな〜!
というやつである。
ちなみに、この古本屋の店主は、新進気鋭のポップカルチャーの評論家としても活動していて、実は彼の著作のファンでもある僕は、彼と話しながら内心ドキドキもしているのだった。
もちろんそんなことおくびにも出さないけれど、そういう自分も含めて、
なんかいい感じやん
と思いながら僕は、そのお店を後にした。
そして、店を出るやいなや、僕はマスクを外して、路傍に転がっていた
春風
を鼻の穴を広げて思い切り自らの肺臓目がけて吸い込んだ。