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ごはんの国の人でよかった
昨晩、痛めた腰を診てもらうために行った病院の帰り道で、うっかり歩道に空いていた穴に落ちて左足まで痛めてしまった。
その夜は腰のために処方してもらった痛み止めと湿布でとりあえず様子を見たのだけど、朝起きても左足の激しい痛みは治らなかった。
そんな左足を引きずりながら最後にはタクシーまで使って、なんとか会社にたどり着いたのだけど、あえなく上司に戦力外通告を受けた僕は急遽、在宅勤務することになったのだった。
そして、その家までの道のりを少し外れて、僕は昨日、行った整形外科に再び向かった。
「今日はあれをする予定だった、明日はあれをしなければいけなかったのに・・・」
そんな風に気づけば仕事のことで頭がいっぱいな僕の視界に突然、某丼チェーンの朝定食360円の看板が通り過ぎた。
思わず、安いなあ、と思って足を止めた。
というか、本当は足が痛過ぎてもう一歩も歩きたくなかった。
さいわい病院が開業するまでにはまだ20分ほど時間があったから、僕はここで朝ごはんを取ることにした。
早速、券売機でさっきの朝定食のチケットを買い、ドアから一番近いカウンター席に座って、店員さんにそのチケットを渡した。
すると、ものの数分もかからずに出てきたその朝定食の御姿を見て、僕は思わずヒデキ感激してしまったのだった。
だって、ごはん粒のひとつぶひとつぶがピンと立っていて、本当に美味しそうだったから。
そして、口に含んだら、見た目に違わず、本当にとても美味しかったし、ぷっくらと膨らんだお揚げさんが2つも浮かんだ味噌汁もやっぱり美味しかった。
この瞬間ばかりは、仕事のことも、他のわずらわしい生活のこともいっさいがっさい吹っ飛んでしまった。
そして、そんな僕の口からは、自然と
「ごはんの国の人でよかった・・・」
という言葉がついて出たのだった。
その後の病院の診断では、自分が想像しうる最悪の結果が待っていたんだけれど、それほど落ち込まなかったのも、きっとこのときのご飯とお味噌汁のおかげだったのかもしれない。
まあ、どんな状況になっても、結局、今までどおり、自分が出来ることを精一杯やるしかないんだよね。
そして、願わくば、いつの日か、シンプルで地味だけど、ちゃんとおいしくて、落ち込んでいる人の気持ちまで勇気づけてくれる、あのごはんみたいな人間になれたらいいなあ、と思ったのだった。