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なんでもないふりして暮らしているボクらの、このなんでもなくない日常

昨日は、明日の引越しを控えて、家族3人で新居のお掃除に出かけた。

開栓したはずの水道が出なかったりというトラブルが発生したりもしたけど、14時前にはなんとかお掃除を終えた僕たちは駅前の大型商業施設のフードコートで遅めのランチを取ることにしたのだった。

その施設は今年、開業したばかりの施設だったこともあり、フードコートにあるお店も今まで見たことがないユニークなお店がたくさんあった。

「あ!牛肉のフォーの店がある!」

無類のフォー好きの妻が思わず声を上げる。

「いいじゃん。いいじゃん。これ食べなよ」

と僕も勧めたけど、人がたくさん並んでいるからと言って、彼女は、息子が食べたい小籠包のお店の行列に並んだのだった。

僕は心の中で、

「いつも君はそうだよね。いつも家族、特に息子のことを優先して、自分の事は後回しにする」

と呟いて、あまり並んでいないお店で自分の食事を買った後、彼女に勝手に牛肉のフォーのお店に並んで、フォーを注文したのだった。

そして、本当は彼女たちがテーブルに戻ってくるタイミングに出来上がるイメージにしていたのだけど、意外に早くできたので、僕は慌てて2人の元に向かい、

「やはりめっちゃ美味しそうだよ。伸びないうちに食べてきなよ」

と妻に告げて行列を並ぶのを変わったのだった。

けど、ゆっくり味わってきな、と言ったのにかかわらず彼女はもののの10分足らずで戻ってきた。

「えっ!早くない?」

「いや、とりあえず麺だけすすってきた。確かにめちゃくちゃ美味しかったよ。スープはあとでゆっくり堪能するから、あなたも残りのご飯食べてきな」

彼女はそう言って、また行列に並び始めた。

本当に君ってヤツは…。

そして、それぞれタイムラグがありながらも無事、昼食を済ませた僕たち。

その後、妻はガスの開栓の立会いのため再び新居に戻り、僕と息子は、家具の取り置きをしてもらっている古道具屋さんに向かった。

けど、別れ際、

「やっぱり寂しいな」

と呟いた妻の一言を聞き逃さなかった僕は、お互いのミッションが終わった後、途中の駅で待ち合わすことにした。

その待ち合わせの乗り換え駅で無事合流できた僕たちは、ホームにある待合室の椅子に座って電車を待っていた。

僕の右斜め前の席に座る彼女はさすがに疲れ果てていて、目を瞑ってウトウトしている。

その姿を見つめながら、まず

ベージュのワークマンっぽいジャケットとダボっとしたグレーのパンツの組み合わせが地味だけど、とてもオシャレだと思った。

しかし、よく見ると、そのグレーのパンツにはところどころ毛玉があったし、髪には白いものが混じっていて目尻には昔はなかったシワが刻まれていた。

僕は思わず

「キレイだな」

と心の中で呟いていた。

もちろん、そんな彼女もこの僕も周りから見たら、きっとなんでもない、どこにでもいるような中年夫婦にすぎないのだろう。

でも、今日だって、これまでだって、いいこともつらいこともいろいろあった、

そんな決してなんでもなくはない日常を過ごしてきた僕たちのことを

少しだけ誰かに自慢したい気持ちにこのときの僕はなっていたんだ。



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