Official 髭ダンスおじさん

先日、何気なくテレビを観ていたら、髪の毛が茶髪のくるくるパーマで、ファンデーションを塗り過ぎたせいか肌がやけに白く輝き、やたらと耳がでかくなって、変なフリルがついたGジャン姿の、要するに「個性的なおばあちゃん」と化していた

加藤茶

が出ていた。

正直、なんだか見ていて痛々しくて、すぐにチャンネルを変えようとしたのだけど、盟友・志村けんとの馴れ初めを振り返り始めたから、そこから釘付けになって全く目が離せなくなってしまった。

僕が大人になってからは、正直、残念なエロオヤジだな～という冷ややかな視線しか送ってこなかった二人だったけれど、僕の人生であんなにも腹を抱えて笑ったのは、後にも先にもドリフターズのこの二人のコントしかなかったのもまた疑いようのない事実なのだった。

例えば、

「志村、うしろ、うしろ！」

とブラウン管（ソニートリニトロン）越しに弟と二人で絶叫したのも一度や二度じゃない。

あと僕の記憶が正しければ、股間に白鳥の頭をくっつけるという歴史的偉業を世界で初めて成し遂げたのも確か志村けんだったはずである。

そして、僕にとって白眉なのは、赤いレンガの壁をバックにタキシード姿のヒゲオヤジの二人が踊りながら無声コントを繰り広げる「ヒゲダンス」である。
本当に僕が今までテレビで見た中でも断トツでスタイリッシュなコントだった。

あと、これは僕と同世代以上の人なら大概知っている事実だろうけど、実はこの二人、最初にブレイクしたのは、加藤茶の方だった。

「あんたも好きねぇ〜。」

日活ロマンポルノやストリップ劇場が全盛期だった1970年代中頃、ピンクの照明を浴びながら、あやしいストリップポーズを取る、という今ならBPO（放送倫理・番組向上機構）から一発でレッドカード退場を食らうだろう際どいギャグで、天下を取った加藤茶。

一方の志村けんはと言えば、当時はまだドリフターズの付き人に過ぎず、舞台にすら立てていない。

しかし、その数年後、オリジナルメンバーの荒井注の脱退で、志村に千載一遇のチャンスが巡ってくる。

というか、志村の才能に以前から一目置いていた加藤がリーダーのいかりや長さんに対して彼をドリフに入れることを強く推薦していたという事実を、僕はこの番組で初めて知った。

そして、ドリフ加入直後は年長者だらけのメンバーへの遠慮もあったせいか、パッとしなかった志村だったが、加藤の絶え間ない励ましもあり、数年後、あの東村山音頭の大ヒットで、名実ともにドリフの顔に成長する。

僕が物心ついたのもちょうどこの頃だったから、僕にとってもドリフの主役といえば紛れもなく志村けんだった。

もちろん加トちゃんも嫌いじゃなかったけど、彼はあくまで志村のサポート役的なイメージが強かったかな（彼自身がその役目を積極的に買って出ている印象すら受けた）

でも、今思うと、何よりもドリフはあの二人の掛け合いが面白かったんだ、ということがよく分かる。

そして、いい年した大人たちが、百円ハゲのカツラ被って半ズボンをはいて全力で悪ふざけしている姿が子供の僕には何故だがたまらなくカッコよく見えたのだった。

ちなみに、あのヒゲダンスは、加藤から「舞台の上で喋るのにもう疲れてしまった・・・」と告白された志村がそんな彼のために発案したというエピソードもこの番組で初めて知った。

喋れなくなった相方のために喋らなくていいコントを考案するという志村の純粋な優しさが胸を打つエピソードだけど、当時はそんな事情など誰も知る由などなく、ただただ二人の姿を見ながら抱腹絶倒していた、という事実にはとても大切なメッセージが込められているような気がする。

しかし、分かっちゃいるけど、僕は昔からこの手のバディ小咄にめっぽう弱い。

他人は決して立ち入れない当事者同士にしか分からないキラキラと輝くピュアな絆に激しく憧れの気持ちを抱いてしまうからだ。

例えば、加藤は明らかに志村の登場によってドリフの主役の座を奪われたのだから、当然、心中おだやかではない、すなわち、志村に対して何かしらのわだかまりや嫉妬の感情があったのでは、と邪推する人は多いと思う（というか僕自身がそうだし）

実際、その番組でも、インタビュアーが加藤に対して

「志村の才能や人気に嫉妬を感じなかったのか？」

というストレートに意地悪な質問をしていた。

しかし、加藤は、本当に涼しい顔を浮かべながら、

「嫉妬はまったく感じなかった。」

と即答していた。

それどころか

「だって、僕が彼を選んだんだから。」

とむしろどこか誇らしげな顔をして語っていた姿がとても印象的だった。

一方で、番組の後半には、その加藤に選ばれた側の志村の本心も明らかにされる。

今から約20年前に受けたある雑誌のインタビューで、志村はふとこんな本音を漏らしていたのだ。

「僕がこうやって今いるのは、すべて加藤さんのおかげなんです。」

この志村の思いをずっと加藤は本人からも他の誰からも聞かされないまま、志村の死後に初めて知ったという。

そーゆーシャイなあん畜生的なエピソードもたまらないよね。

あと、僕が知っている志村と加藤は、それこそ二人が全盛を誇った『８時だよ！全員集合』の中でしかなかったけれど、その後も人知れず二人がたまに会ってはコントのネタのアイデアを出し合うという関係を長年続けていたという事実も知れて良かった。

まぁ、若い人にはまったくピンとこない昔話だろうけど、そんな志村と加藤が作ったナンセンスな笑いで何度も爆笑できたという体験は、大人になった自分にも何気に大きな影響を与えているような気がするんだよね。

うん、未だに僕の中には、ヒゲダンスをしている二人が生きていて、だから、どうしようもなく辛いことや人間が嫌いになることがあっても、ヒゲをつけた志村と加藤から

「僕も君も人間なんて所詮みんなアホなんだから、そんな辛気臭い顔なんかせずに、とにかく笑っていればいいんだよ」

と言われているような気がして、おかげで完全な闇落ちから何度も免れたと思うからだ。

そんな僕が近々、始めたい趣味は、実は落語だったりするのだけれど、そこにヒゲダンスも加えてもいいかな、と思い始めている。

まあ、ヒゲダンスはひとりではできないというのが難点だけどね。

というわけで、絶賛、相方募集中です！