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イッツマイワイフ
今回の記事はこの曲を聴きながらお読みください。
「これ見て、見て」
と妻が話しかけてきた。
出してきたのは、個包装のおせんべいがたくさん入った大きな化粧箱だった。
「あれ?フィナンシェ渡すんじゃなかったけ?」
と尋ねると、彼女は
「ああ、あれは身近な人たちのヤツで、これは先生たちとかに配るヤツ」
と答えながら、「余るから、ちょっと味見しようよ」
とそのせんべいの個包装を渡してくれた。
そして、ふたりでバリバリ食べながら、なかなか美味いね、と自画自賛し合った。
僕の転勤で今月いっぱいでバイト先の大学を辞めることになった妻は、最後にお世話になった人たちへ渡すためのお菓子を準備していたというわけ。
しかし、その気合いの入れ方は尋常じゃなくて、フィナンシェもわざわざ都内の有名な行列店まで買いに行ったし、そのおせんべいもかなり悩んだ末に決めたものだった。
しかし、明日、全部持っていくとのことだけど、身長が150cmも満たない彼女が、大きなせんべいの箱二つとフィナンシェの箱を抱えて持っていく姿を想像して、大丈夫かなと心配する一方で、不謹慎にもちょっと笑ってしまった。
そして、翌日、無事、みんなにお菓子を渡せてホッとした様子の妻が、ちょっと嬉しそうにこんな話をしてくれた。
「◯◯さんって、体育会出身ですか?って言われたよ。テキパキ仕事をするから、そうかと思ったって」
まあ、僕と一緒になるくらいだから、彼女は全く体育会系ではないのだけど、とにかく仕事はとことん真面目にするタイプの人だから、そんな風に思われても不思議はないと思った(きっと家でリアルサザエなのはその反動でもあるのだろう)
しかも、彼女は今回の職場のことをいたく気に入っていて、時々、職場で遭遇した面白エピソードを楽しそうに話してくれていたから、いつも以上に仕事にも気合いが入っていたのだと思う。
だからこそ、最後にみんなに渡すお菓子にもこんなにもこだわったんだろうし、そういうことをしっかりできるところは、シンプルに人として素敵だし、自分も見習うべきところだなと改めて思った。
あと、ある意味、僕のせいで職場を辞める羽目になったのに、そんな僕に対して一度も愚痴を言うことなく、すぐに新しいバイト先を探し始める、そんなカラッとした性格にも正直、救われている。
そして、人生とは面白いもので、なかなか返事が来なかった彼女の新しいバイトの応募先から、まさにその夜に書類選考通過のメールが届いたのだった。
その瞬間、ここのところちょっと暗かった家の雰囲気もパッと明るくなったのだった。
今、自分が弱っているせいもあるけど、そんな彼女のこともっと大切にしないといけないな、と本当に思ったよ。