昨日、はじめて人に缶コーヒーをおごった
「それは結局、そちらではよく分からないから、自分で解決するしかないということなんですね」
「はい、分かりました。失礼します。」
ガチャ
「クソッ!」
電話を切った直後、小さくつぶやいたこの一言で、彼の苛立ちややるせなさが嫌というほど伝わってきた。
そりゃそうだろう。
社内の専門部署に助けを求めて、1週間放置された挙句、よく分からない、なんてつれない回答をされたわけだから。
まあ、優秀で、何より真面目な人だから、すぐに冷静で温厚な普段の彼に戻っていたし、きっと何とか自力でこの問題も解決するとは思うけど。
けど、きっついよなあ。
きっと、今、自分はひとりぼっちだ、って思っているだろうな。
何となく勝手にそう感じた僕は、気づいたら、エレベーターで1階に降りて、自販機で2本の缶コーヒーを買っていた。
そして、職場に戻り、そのミルクと砂糖入りのヤツとブラックの缶コーヒー2本を彼の前に差し出した。
「コーヒー飲めるなら、どちらか好きな方、選んでください」
「えっ!急にどうしたの?」
「い、いや。いつもこの重要なプロジェクト、ひとりで頑張っていただいているので。お疲れ様です、って意味で。」
「おお、ありがとう!じゃあ、ブラックで。知っているとおり、僕は腹黒いからさ(笑)」
「確かに(笑)じゃあ、どうぞ。」
なんて文字にすると、割とスムーズなやり取りに見えるけど、実際は僕も彼もなんだか照れ臭くて、目もちゃんと合わせられず、言葉遣いも妙にたどたどしかった(苦笑)
でも、彼がちゃんとコーヒーを受け取ってくれて、内心、ホッとしながら、僕は自分の席に戻った。
そして、それから約20分後、彼が僕の方に振り返って、
「今からこれ、いただくね。ありがとう。」
と改めてお礼を言ってくれたのだった。
でも、それに続いて
「これって、一階の自販機で買ったヤツかな?」
というとても分かりきった質問をしてきたから、一瞬何のことか分からなくなり
「え、えっーと」と言い淀んだ後、
「そ、そうです」
と僕は我ながらきょどった感じで答えたのだった。
けど、そんな風に、慣れないことをした人間、慣れないことをされた人間同士の、傍からみたら、典型的なシャイシャイジャパニーズなおよそ洗練とはほど遠いやり取りの中には、お互いを思いやる優しさがちゃんと込められているような気がして、なんだか心がホカホカあったかくなるのを感じた。
それは、きっと、彼に
「あなたはひとりじゃないよ」
と伝えたくて、やったこの気まぐれな行動を通じて、
僕もひとりじゃなかった
ってことに気づけたおかげかもしれない。