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三浦しをん まほろ駅前多田便利軒

この小説は、気張った心を優しく解いてくれる。
東京のはずれの大きな町”“まほろ市””。まほろ駅前で、ひとり便利屋を営む多田啓介のもとに、高校の同級生・行天春彦が転がりこむ。高校時代、教室でただ1回しか口を開かなかった、ひょろ長い変人だ。ペットあずかりに子どもの塾の送迎、納屋の整理…ありふれた依頼。しかしながら、それぞれの闇を抱えた個性豊かな来客に二人の日常が動かされる。そんな話である。

多田と行天の凸凹バディものでもあり、寄せ集め家族ものでもあり、人情ものでもある。
それぞれの登場人物ごとに小説が書けるのではないかと思うほど、深刻な闇を抱えながら、彼らは、日常をどうにか生きている。そんな暗くなりそうな描写を、人間臭さで打ち消している。
多田と行天のトムとジェリーのような会話。
実際にいたら、面白いけど困るような登場人物。
明らかに、出てきすぎな喫煙シーン。
この小説からでしかないと得られない栄養がある。


小説を彩る言葉たち

登場人物全員が、深刻な事情・喪失を抱えている。これらを解決していくストーリーなのだが、全てに優しさがある。人間臭い彼らにどこか愛着を持ってしまう。
いつのまにか、彼らの行動・言葉に、読者までもがハッとさせられ、彼らの優しさに包まれている気がした。
そんな言葉たちを紹介したい。

幼い頃に小指が切断された行天は、こんなことを言う。
「傷はふさがってるでしょ。確かに小指だけいつも他よりちょっと冷たいけど、こすってれば直にぬくもってくる。全てが元通りとはいかなくても、修復することはできる」

フランダースの犬がハッピーエンドか?という会話。
「あのアニメ、ハッピーエンドだと思うか?」
「思わない。だって、死んじゃうじゃないか。」
「死んだら全部終わりだからな。」
「生きてればやり直せるってこと?」
「いや、やり直せることなんかほとんどない。」

由良公に煙草の煙を吐く行天の一言。
「美しい肺を煙で汚したまえ、少年よ。それが生きると言うことだ。」

「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福ってことはないと思う。」

母親に愛されなかったこどもに対して、お前の愛されたい形で親は愛してくれなかったと言いながら、お前はお前が望むように人を愛するチャンスはあると、真面目な顔をして諭す多田。



これらの言葉たちが、私たちの背中にそっと手を添えてくれる。
喪失を抱えた全ての登場人物が、彼らのコミュニケーションを通して、それらは元通りにならないと言う現実を受け止めながら、修復していく。

最後の一文が、最も印象的にこの小説のテーマを伝えてくれる。
(ぜひ読んでいただきたいので割愛。)

私なりに、この小説を一言で言うと、行天の小指だ。
ぜひ読んでいただきたい一冊になっています。







この小説のテーマを考えたのだが、依頼主によって大きく異なる。
母の愛情を欲する小学生。いぬが

私のこの小説で、ドキッとした言葉たちを紹介したい。

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