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詩を書く人

 オーランド、360年の時を生きたオーランド。一篇の詩を詠むために生まれてきたとでもいうかのような、オーランド。
 その一篇の詩を書き上げられた事に心から安堵したオーランド。
あなたのポケットには常に詩を書き留められるよう、小さな筆記具がありましたね。その小さなノートもペンもあなたにとってはとても大きな課題であり難題だったのでは…

 生まれてくる時代も性別もあなたが選んだのか、選ばされたのか、死すら訪れないあなたの生に、あなたは誠実であろうとしました。そして、少年らしくうぶでした。
 あなたが書きたかった詩をあなたが手にした瞬間、あなたは解放されました。ポケットは空になり、私はその事に安堵したのです。
 オーランド、人は誰しも理想の自分を生きてるとは限らない。
 オーランド、男も女も身分もなく、時代も国も国境もなく、老いも若いも健康も障害も病もなく、ただ生きるだけだったとしたら、あなたは詩を書く事にこだわったでしょうか。
 恋すら知らずに?あの樫の木の木漏れ日の中、芝生に寝っ転がる悦びを知らずに生きるだけだったとしたら…
分からないな…


 オーランド、詩の締めくくりはどんなだったのかしら、想像しようとしてもあなたの俯いた姿がちらついて、あなたが幸福感を得られたのならそれでいいやと、想像するのもやめてしまう。オーランド、樫の木の詩を書き上げられて、よかったね。
そんなあなたに私は恋をしました。芝居の中の宮沢りえに恋をしたのか、オーランドそのものに恋をしたのか、どちらでも構わない、そんな些細なこと。これを書いている今、遠くに雷が響いています。
 あなたの詩に、雷という単語は出てきますか?
 あの日以来、私自身もオーランドの世界と平凡な私自身の日常が何層にも折り重なって、鳥の囀りに耳を澄ませては、心が軽くなる日を味わっています。

   ありがとう、オーランド

PARCO劇場「オーランド」
栗山民也演出
宮沢りえ主演

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