花瓶の中身
娘が小学生の時のことだ。
玄関に、花瓶を置いていた。沖縄に行った時に買ってきた、琉球ガラスのかわいい花瓶だ。どっしりとした円柱状で、白をベースに、カラフルな模様が入っている。花を飾らずとも、花瓶だけでもかわいい。
ある日、ふと花瓶の方に目をやると、花瓶の中に何か入っている?中を覗くと、セミの抜け殻がたくさん詰まっていた。花瓶の半分近くありそうだ。どうやら、娘が集めたものだった。学校帰りや遊びに行った時、セミの抜け殻を見つけたら、持って帰り、花瓶に入れていたらしい。
私も子どもの頃、セミの抜け殻が好きだった。(今も好きだ。)セミだけでなく、ヘビやザリガニなど、脱皮した物を見るのが好きだった。薄くて、透き通っていて、きれいだと思った。きれいな形のまま古い皮を脱ぎ捨て、新しく生まれ変わる様子に心躍ったものだ。ヘビの抜け殻を見つけた時は、嬉しくて持ち帰り、大事にして、時折眺めていた。目のところや、鱗の一つ一つまできれいに抜けているのを見るのが好きだった。「風の谷のナウシカ」に出てくる王蟲の抜け殻も憧れだった。大きさは違うが、王蟲とセミの抜け殻に、近いものを感じていた。
実は子どもの頃、私もセミの抜け殻を集めて、勉強机の引き出しに入れていた。これも遺伝…?
(私は引き出しだったけれど、娘は花瓶か…。)
娘の気持ちはよくわかる。それからは、私もセミの抜け殻を見つけたら、持って帰り花瓶に入れていった。セミの抜け殻で満タンになった花瓶は、花がいけられることなく冬を迎えた。別れは、いつの時か来るものだ。その冬、夫の希望で、集めたセミの抜け殻たちとはお別れすることになった。ゴミとなった抜け殻たち…。何に価値を置くかは、人によって違うものだ。