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哀しいホスト 第18話 ミサの過去についての回想、彼女がクラブママになるまでの道

第18話 ミサの過去についての回想、彼女がクラブママになるまでの道

ある夜、ミサが静かにベッドから起き上がり、窓の外を見つめていた。月明かりが彼女の顔を照らし、その横顔には何か考え込んでいるような静かな影があった。

「ミサ、どうしたんだ?」

俺が声をかけると、ミサは振り返って微笑んだが、その表情はどこか遠くを見ているようだった。

「昔のことを少し思い出していたの。銀座で働き始めた頃のこと……」

そう言いながら、彼女は俺の隣に座り、静かに話し始めた。

「銀座に初めて足を踏み入れたのは、もう何年も前のことよ。あの頃、私は何も持っていなかった。ただ、自分を変えたくて、何かを掴みたくて都会に出てきたの」

ミサは20代前半で銀座に来た。都会に夢を抱きながらも、現実は厳しく、すぐに仕事を見つけることもできなかった。最終的に夜の世界に足を踏み入れたのは、生きるために仕方がなかったという。

「最初の頃はただ必死だった。右も左も分からないままホステスとして働き始めて、毎晩お酒を注いで笑顔を作って……でも、本当の自分を見せることはなかったわ」

銀座のホステスの世界は美しく、華やかに見えたが、その裏には激しい競争と厳しい現実があった。新しいホステスが次々と入ってきては、若さや魅力で勝負をかけてくる。ミサもまた、その波に飲まれそうになりながら、何とか自分の居場所を作ろうと必死だった。

「常連のお客さんがつき始めた頃から、少しずつ自信を持てるようになったの。でも、それも一時的なもの。銀座では誰もが次の新しい魅力を求めていたから、私は常にプレッシャーと戦っていたわ」

ミサは客を喜ばせるために、笑顔を絶やさず、疲れた心を隠して働いた。ホステスとしての成功は、彼女にとって一つの目標だったが、それだけでは満たされなかった。

「ホステスとして成功することに限界を感じ始めたのは、その頃ね。若さだけで勝負するのには疲れてしまった。それで、私はもっと長く自分の力で生きていく方法を考えるようになったの」

そこで彼女が見つけたのが、クラブママとしての道だった。自分の店を持つことで、ホステスではなく経営者として銀座に立つ。ミサはその決断を固め、資金を集め、信頼できるスタッフを見つけ、店を開くために奔走した。

「クラブを持つのは簡単じゃなかったわ。お金を借りるためにいろんな人に頼ったし、信用を築くために多くの犠牲も払った。だけど、どうしても店を持ちたかった。私自身の力で、何かを成し遂げたかったの」

ミサの声には、当時の覚悟と苦労がにじみ出ていた。彼女は多くの壁にぶつかりながらも、自分の夢を諦めることなく戦い続けた。

そしてついに、彼女は自分のクラブを持つことに成功した。だが、そこからが本当の戦いの始まりだった。

「クラブを持ってからも、楽になることはなかったわ。経営の難しさ、お客さんやスタッフとの問題、何度も潰れそうになったけど、私は絶対に諦めたくなかった」

ミサは毎晩遅くまで働き、店を守り続けた。彼女のクラブは少しずつ評判を得て、常連客が増えていった。しかし、その過程で、彼女は大切なものを失い始めていた。

「私がクラブを守るために必死になっていた時、気づいたの。私は、いつの間にか自分の心を置き去りにしていたんだって」

彼女は店を成功させることに夢中になり、気づけば孤独と戦う日々が続いていた。誰にも頼れず、自分一人で戦うことが当たり前になっていた。

「キクさんと出会った頃、私はもう限界だったのかもしれない。だけど、あなたと一緒にいると、自分を取り戻せるような気がしたわ」

ミサはそう言って、俺を見つめた。彼女の目には、かつての孤独とは違う温かさがあった。

「ミサ、今はもう銀座の世界を背負わなくていいんだ。俺がいる。これからは一緒に生きていこう」

俺はそう言って、彼女の手を握った。ミサは静かに微笑み、俺に寄り添った。

「そうね……もう一人で戦わなくていいのよね」

ミサが銀座で戦い続けてきた過去は、彼女の強さの証だ。しかし、今はそれを乗り越え、俺と一緒に新しい人生を歩むことを選んでくれた。銀座での苦労があったからこそ、今のミサがいる。そして、そのミサと共に歩むことが、俺にとって何よりも大切なことだった。



つづく

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