今朝の月 | #シロクマ文芸部
今朝の月……
どこかな月……
あった!
青空にぼんやり浮かぶ白く丸いものを確認すると、ユナは最寄り駅へと向かった。
出勤時、空を見上げて白い月を探すのが毎朝のルーティーンになっている。
深夜に黄金に輝いていた満月が翌朝に影を潜め空に浮かんでいる様子はまるで家庭内の自分のようだとユナは思う。
自動車部品を作っている小さな町工場で事務仕事をしている。
就職活動の際、大企業の面接に疲れ、気まぐれで応募したこの町工場は社長も従業員も人柄が良く、
ここで仕事をしたい!
と思い、特に誰に相談することもなく入社を決めたが、この小さな町工場に就職を決めたユナの両親は悲しみ、その後、家族関係もぎくしゃくしだした。
父とは半年も口を利いていない。
仕事は楽しいが、ユナが自宅で仕事の話題を口にすることはない。
毎日の退社後、自宅最寄り駅の駅ビル内をうろうろして自宅への到着を遅らせるようになったユナは、夜空に浮かぶ丸が少し欠けた黄金の月を見上げて思った。
家を出よう……
そう決めた途端、毎晩暗い気持ちで歩いていた夜道もなぜか明るく見え、とても愉快な気持ちになり、久しぶりに声を出して玄関のドアを開けた。
「ただいま!」
「おかえり!」
ユナは久しぶりに母の明るい声を聞いた。
(了)
シロクマ文芸部の企画に参加しました。
小牧幸助さん
いつもありがとうございます。