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哀しいホスト 第20話 ミサがキクに隠していた秘密を打ち明ける、二人の関係がさらに深まる
第20話 ミサがキクに隠していた秘密を打ち明ける、二人の関係がさらに深まる
ミサとの生活が安定してきた頃、俺たちは穏やかで幸せな日々を過ごしていた。銀座の騒がしい日常からは完全に解放され、今では静かな家で互いの存在を大切にしていた。だが、ミサが時折遠くを見るような表情をすることがあり、その度に何かを抱えているような雰囲気を感じ取っていた。
その晩も、いつものように食事を終えた後、ミサはリビングで静かにソファに座り、どこか物思いにふけっているようだった。
「どうしたんだ?最近、何か気になることがあるのか?」
俺がそう聞くと、ミサは一瞬戸惑った表情を浮かべた後、深い溜息をついた。
「キクさん、実はずっと言わなきゃいけないことがあったの。でも、どうしても言い出せなくて……」
彼女の言葉に、俺は驚いた。何か秘密があることを感じ取ってはいたが、彼女がそれを話そうとするのは初めてだった。俺は静かに彼女の隣に座り、待つことにした。
「銀座で働いていた時のことなんだけど……実は、私には娘がいるの」
その一言に、俺は一瞬言葉を失った。ミサが母親だったなんて、これまで想像すらしていなかった。彼女は、続けて話し始めた。
「彼女はもう成人していて、今は独立してる。だけど、銀座で忙しく働いていた頃、私は彼女に何もしてあげられなかった。育てる時間なんてなくて、実家に預けっぱなしだったの。母親としての責任を果たせなかった私が、今さら親として何かを言える立場じゃないのよ」
ミサの声は、過去への後悔と罪悪感で重くなっていた。彼女が銀座で輝いていたその裏で、母親としての責任を果たせず、娘との関係を築けなかったことが、彼女にとって長い間苦しみの一つだったのだ。
「どうして今まで黙ってたんだ?」
俺は率直にそう尋ねたが、その言葉に非難の気持ちはなかった。むしろ、ミサがその秘密を抱えていた理由を知りたかった。
「言うのが怖かったの。あなたに私の過去を全て話したら、私がどれだけ酷い母親だったかが分かってしまうんじゃないかって……キクさんが離れていくんじゃないかって、ずっと心配だったの」
ミサの瞳には、不安と後悔が浮かんでいた。彼女は、自分が銀座で働くために娘との時間を犠牲にしてきたことを強く後悔していたのだろう。そして、その過去を俺に打ち明けることが、彼女にとってどれほどの勇気を必要としたかが、手に取るように分かった。
「ミサ、俺はお前の過去を聞いても、変わらないよ。どんな過去があっても、今のお前と俺が一緒にいることが一番大事だ」
俺の言葉に、ミサの瞳に涙が浮かんだ。そして、彼女は静かに頷きながら言った。
「キクさん、ありがとう。ずっとこのことを打ち明けられなくて苦しかった。でも、あなたがいてくれたから、今こうして話せる気がしたの」
ミサは、過去の重荷をようやく下ろしたかのような表情を浮かべ、俺に寄り添った。彼女の体が震えているのを感じ、俺は彼女をそっと抱きしめた。彼女がこれまでどれだけ苦しんできたか、その一端をようやく理解できた気がした。
「ミサ、これからは俺たちで新しい未来を作っていこう。お前がどんな過去を抱えていても、俺はずっとお前のそばにいる」
俺の言葉に、ミサは小さく頷き、俺の胸に顔を埋めた。しばらくの間、二人で静かに寄り添いながら過ごした。
その後、ミサは少しずつ娘との関係を修復することを考え始めた。彼女が娘との時間を取り戻すことができるかは分からないが、それでも彼女はもう一度母親として向き合う決意をしたのだ。
俺たちの関係は、この告白を通じてさらに深まった。彼女が過去を打ち明けることで、俺は彼女の苦しみや孤独をもっと理解することができた。そして、彼女がどれだけ強い女性であるかを改めて感じた。
ミサが隠していた秘密は、俺たちの絆を試すものだったかもしれないが、逆にそれが俺たちをさらに強く結びつけた。これからも彼女と共に歩んでいくことを、俺は心から誓った。
つづく