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毒親 第54話 追い詰められる選択

第54話 追い詰められる選択


サキは田嶋の冷たい言葉に心が震えた。彼がただの医師ではないことを改めて思い知らされ、胸の奥から恐怖が押し寄せる。

「私に何をさせたいんですか?」サキは唇を震わせながら問いかけた。彼女の中で、何かが叫び声を上げていたが、それを抑え込むのに精一杯だった。

田嶋は椅子に深く座り直し、薄笑いを浮かべた。「サキさん、私はただ、協力をお願いしたいだけです。あなたがリナさんを心から大切に思っているのはよく分かっています。その気持ちを利用したくはありませんが……もしあなたが私の計画を妨害するようなことをすれば、リナさんの治療がどうなるかは保証できません。」

「計画……?」サキは震える声で繰り返した。

「ええ、私の計画です。」田嶋は冷静に言葉を続けた。「リナさんには、私に借りがある。そして、その借りを返してもらうために、あなたの助けが必要なんです。」

「そんなこと……お姉ちゃんには何の関係もありません!」サキは必死に反論した。「お姉ちゃんは病気と戦っているんです。それ以上苦しめないで下さい!」

田嶋の目が冷たく光った。「それが現実です。リナさんを苦しめるつもりはありません。むしろ、彼女の治療を成功させるために必要な協力をお願いしているんです。サキさん、あなたが拒否するなら、私は他の方法を考えます。それが彼女にとって、どんな結果をもたらすかは分かりませんがね。」

サキは目を伏せた。田嶋の言葉には一片の優しさもなく、ただ圧倒的な支配力が漂っていた。

「……分かりました。」サキは小さく答えた。「でも、私はお姉ちゃんを守るためにできることしかやりません。あなたの言いなりにはなりませんから。」

田嶋は満足げに頷きながら立ち上がった。「それでいいでしょう。リナさんのために動くのなら、私もそれを尊重します。ただし、私の指示に従っていただけるのであれば、の話ですが。」

サキは拳を握りしめながら田嶋を見送った。病室の扉が閉まると、彼女は崩れるように椅子に座り込んだ。自分一人で背負うには重すぎる秘密と葛藤に、涙が頬を伝った。


一方、カイは美和と別れた後、頭の中が混乱していた。リナの病状や田嶋との因縁、そしてサキを巻き込むこの危機的状況、全てが絡み合い、彼の心を揺さぶっていた。

「どうすれば……」カイは運転席で頭を抱えた。

その時、スマートフォンが震えた。画面にはサキからのメッセージが表示されている。

「お姉ちゃんを守るために、話したいことがあります。私に時間をください。」

サキからの言葉に、カイは彼女の強い意志を感じ取った。田嶋の危険性を知ったサキが何を伝えようとしているのか!それを聞かなければならないと思った。

「サキさん……君も戦っているんだな。」カイは小さくつぶやき、車を発進させた。


その夜、カイはサキと会うために指定された場所に向かった。カフェの隅の席で待つサキは、どこか怯えた表情をしていたが、彼女の目には確かな決意が宿っていた。

「話してくれてありがとう、サキさん。」カイは静かに言った。「何があったのか、聞かせてくれる?」

サキは深呼吸をし、震える声で話し始めた。「田嶋が……私に言ってきたんです。お姉ちゃんの治療を盾に取って、彼の計画に協力するようにって。」

「計画?」カイは眉をひそめた。「具体的には、何をさせようとしてるんだ?」

「まだ詳しくは言わなかったけど……きっとお姉ちゃんに害を及ぼす何かだと思う。彼は……お姉ちゃんに復讐しようとしている。」サキは苦しげに顔を伏せた。

カイは拳を握りしめた。「そんなことは絶対にさせない。サキさん、俺たちは一緒に戦おう。リナを守るために、どんなことがあっても負けない。」

サキは涙を浮かべながら小さく頷いた。二人の間に生まれた決意の炎は、暗い影を払う希望の光となりつつあった。


家族を守るために動き出したカイとサキ。その裏で、美和もまた田嶋の行動を監視していた。彼らの運命は、これからさらなる試練に直面しようとしていた。


つづく

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