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毒親 第40話 新たなる波紋

第40話 新たなる波紋

カイはリナの病室を訪れるたび、彼女の静かな微笑みが胸を締め付けた。リナは日ごとにやせ細り、肌は透けるように白くなっていた。それでも、彼女の言葉には不思議な力があった。

「カイ……ユイのこと、お願いね。」
「そんなこと言うなよ。俺たちはまだ、一緒にやれることがたくさんある。リナはまだまだ大丈夫だよ。」

カイはリナの手を握りしめながら必死に答える。しかし、リナの瞳には、どこか遠くを見つめるような静かな決意が宿っていた。

その夜、カイが自宅に戻ると、リビングでサキがぼんやりと座っていた。
「サキさん、大丈夫?」
カイが声をかけると、サキは一瞬だけ微笑んだが、その顔には疲労の色が濃かった。

「お兄さん……お姉ちゃんのこと、心配だよね。でも……私、なんだか怖いの。」
「何が怖いんだ?」
「お母さんが……何か仕掛けてきそうで。」

カイは眉をひそめた。美和の行動はここ最近、さらに不可解になっていた。家族を心配するそぶりを見せながらも、時折見せる冷たい表情が引っかかっていた。

その頃、美和は一人自宅の書斎にこもり、サキの過去について調べていた。机の上には、サキのかつての交友関係や働いていた職場の情報が並べられていた。

「こんなことをして……本当に家族を守れるのかしら?早く何とかしないと、取り返しがつかなくなってしまう。」
一瞬、美和の心に迷いがよぎった。しかし、彼女はすぐにその思いを振り払った。

「いいえ……サキがいなければ、リナも、カイも元に戻れるはず。私は正しいことをしている。」

美和の手は止まることなく、次々と資料をまとめていった。その表情には執念とも言える険しさが浮かんでいた。

数日後、サキは買い物を終えて家に戻る途中、見覚えのない男に声をかけられた。
「あなた、サキさんですね?」
「え……そうですけど。」

男は小さな封筒をサキに差し出した。「これを渡すよう頼まれました。」

「どなたですか?…ちょっと待ってください。ちょっと…。」

サキが封筒を開けると、中には彼女の過去を示す証拠のコピーが入っていた。震える手で封筒を握りしめるサキ。心臓が早鐘を打つように脈打ち、冷たい汗が背中を流れた。

「……お母さん……?」

その夜、サキは誰にも言わず、自室で一人泣いていた。しかし、カイにその様子を隠すことはできなかった。

「サキさん、何があったんだ?」
「お兄さんには……ううん、何でもない。」

サキの態度に、カイはただならぬ気配を感じたが、彼女を問い詰めることはしなかった。ただ、彼女が抱えるものの重さを少しでも軽くしてやりたいという思いだけが胸にあった。

一方、美和は新たな計画を胸に秘めていた。彼女の視線は鋭く、言葉は冷たかった。
「リナが弱っている今がチャンス。早くサキを追い出さなければ…。」

美和の執念は、ますます激しさを増していく。そして、その闇は家族全員を巻き込む嵐となろうとしていた。


つづく

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