毒親 第7話 毒親の囁き
第7話 毒親の囁き
数日後、リナが職場に出かけ、カイがユイと過ごしている時、突然、玄関のチャイムが鳴った。インターフォン越しに見えたのは、予想もしなかった人物!リナの母・美和だった。彼女がここを訪れることなど滅多になかったため、カイは戸惑いを隠せなかった。
「…どうぞ、お入りください」ためらいがちに招き入れると、美和は冷ややかな微笑を浮かべ、カイを見据えた。
「リナは出かけているのね。でも、あんたがいてくれてちょうどよかったわ。少し話がしたかったから」
美和の突然の訪問が、カイの心に波紋を広げていた。リビングで美和と向き合いながら、カイはただならぬ緊張を感じていた。彼女の冷たい視線は、家の中のあらゆるものを値踏みしているかのようだった。
「元気そうね、カイさん」と、美和が皮肉っぽく微笑んだ。
「ええ、お陰様で」とカイが穏やかに返すと、美和は鼻で笑うようにして、家の中を見回した。
「しかし、ずいぶんと質素な暮らしをしているのね。リナがそんなつまらない家で、満足しているとは思えないけれど?」
その一言でカイの胸に怒りがこみ上げたが、冷静さを保とうと心を落ち着けた。「リナがここで穏やかに過ごせていることが一番だと思っています。家族にとって何より大切なものは、安心できる場所ですから」
しかし美和は、冷たくカイを見据えながら言い放った。「安心?それはあなたの勘違いよ。リナには強さが足りない。彼女には、もっと厳しさが必要なの」
「美和さん、リナはもう大人ですし、私たち家族として彼女を支える覚悟で一緒にいます。もうほっといてくれませんか!」とカイは静かに返した。
だが、美和の冷たい瞳は少しも揺るがず、唇に冷たい笑みが浮かんだ。「カイさん、あなたも何もわかっていないのね。リナは今でも母親の言うことを聞くべきだし、従わなければならない。あなたがどう思おうと、それが私たち家族のあり方なのよ」
カイはその言葉に、リナがこれまで背負ってきた「家族」の形の重さを改めて感じた。リナが子どもの頃から味わってきた支配と恐怖、その痕跡が今も彼女の中に深く根付いていることが、痛いほど伝わってくる。
「リナが今の自分であるために、何を犠牲にしてきたか、美和さんはわかっているんですか?あの子が今も苦しんでいるのは、過去の厳しさが原因です」とカイが真剣に言葉を投げかけたが、美和は一切の反応を示さないままだった。
「リナは甘えすぎているのよ。私が厳しく育てたからこそ、ここまで生き延びてきた。それがわからないあなたに、リナを任せて安心できるわけがないでしょう?」と、美和は冷たく言い放つ。
カイはその言葉に怒りを感じたが、ユイがリビングの奥から無邪気に「パパ、遊ぼう!」と呼ぶ声が聞こえ、はっと我に返った。
「美和さん、あなたの言う『家族』と、私たちの『家族』はきっと違うんでしょうね。ですが、リナもユイも、私は全力で守ります。家族としての温かさも、あなたにはわからないかもしれませんが、ここには確かにあるんです」
美和は冷たくカイをみくだし、最後に低くつぶやくように言った。「家族のことをわかっていないのは、あなたの方よ。私がこの家を訪れたのは、リナを連れ戻すためよ」
美和のその言葉が、カイの中で静かな怒りと決意をかき立てた。
つづく