毒親 第48話 避ける絆
第48話 裂ける絆
カイの言葉が静まり返ったリビングに響いた。彼の冷静でありながらも揺るぎない決意が込められた言葉に、美和は一瞬口をつぐんだ。その手は微かに震えていたが、それでも彼女の瞳にはまだ諦めの色はなかった。
「家族が大切だと言うけど、サキの過去を知らずに本当に守れるのかしら?」美和が低く挑むように言った。
「過去が何だっていうの!」サキが声を張り上げる。彼女の中に抑えきれない怒りと悲しみが沸き上がっていた。「お姉ちゃんが苦しんでいるのに、なんでそんなことを掘り返して、私たちをさらに壊そうとするの?」
美和はサキの言葉を聞いても、態度を変えない。彼女は口元に薄い笑みを浮かべながら言った。
「壊す?違うわ、これであんたたちが家族としてどうあるべきか、本当の形が見えてくるはずよ。」
「そのために人のプライバシーを侵してもいいというんですか?」カイの声が鋭くなる。「それがリナのためだと本気で思ってるんですか?」
美和の表情が歪む。彼女もまた内心の葛藤を隠しきれないでいた。しかし、何かに突き動かされるように一歩前に進み、サキを睨みつけた。
「サキ、リナの妹だと言うなら、正々堂々と自分の過去を話してみなさい。そうしない限り、家族としての信頼なんて築けないわ。」
カイが「そんな過去の事なんかどうでもいいじゃないですか?言う必要なんてないよ、サキさん。それを聞いたとしても、何も変わらない!」
その言葉にサキは震えた。彼女の中で、過去の傷が暴かれる恐怖と、この家族を守りたいという思いが激しくせめぎ合う。カイはそんなサキの肩にそっと手を置いた。
「サキさん、無理に話す必要なんてないからね。」カイが優しく言う。「過去を話さなければ信頼が得られないなんて、そんなの家族じゃない。」
その瞬間、サキの瞳に涙が浮かんだ。カイの言葉が彼女の心を救ったようだった。しかし、美和はそれを見ても態度を変えない。
「そう言って、あんたもサキに騙されてるのよ。真実を知れば、そんな甘い言葉なんて簡単に崩れるわ。」
カイが「騙せるんだったら騙されてみたいものですね。美和さん、あなただって知られたくない過去の1つや2つはあるはずだ。そんな事をしても何も変わらないと思うけど…。」
美和がおもむろに封筒に手を伸ばそうとした瞬間、サキがそれを強く押し返した。
「いい加減にして!」サキの声が響く。「私の過去を知ったところで、何が変わるの?お姉ちゃんの病気が治るの?ユイちゃんが安心できるの?ただ壊すだけじゃない…!」
美和は目を見開いた。その言葉に一瞬たじろいだのだろう。しかし、彼女の中にある何かがそれを押し戻し、再び冷たい目をサキに向けた。
「それでも真実を知るべきよ。リナのために。」
カイが顔を真っ赤にして
「リナが今癌と闘っている時に、そんな事言えるはずないでしょう。病気が悪化してしまう。もうやめてください!」カイが声を荒げた。
「あなたがどんなに正当化しても、やってることはただの自己満足だ。リナが本当に望んでいるのは、家族が支え合うことです。今すぐこの家を出ていってください。そして合鍵を返してもうここには絶対に来ないでくれませんか!」
美和の顔が青ざめる。彼女はしばらくの間言葉を失っていたが、やがて震える手で合鍵を床にたたきつけた。
「……これで気が済んだ?」美和の声は怒りと失望で震えていた。
カイは黙って鍵を拾い上げ、その場を動かない美和に背を向けた。
「美和さん、これ以上家族を壊すようなことはやめてください。それがリナのためです。」カイの最後の言葉に、美和は何も返せなかった。
「覚えてなさい!」美和は捨て台詞を残して、家から出ていった。
美和が家を去った後、リビングには静寂が戻った。サキは崩れるようにソファに座り込み、涙をこぼした。カイはその隣に座り、優しく彼女の肩を抱きしめた。
「大丈夫だ、サキさん。俺たちで守ろう、この家族を。」
サキはカイの言葉に小さくうなずいた。彼女の胸の中にあった恐怖と不安は、少しずつ消え去り、代わりに小さな希望が芽生え始めていた。
しかし、その夜の出来事は終わりではなかった。家族の中に残された傷跡は深く、そして、彼らを待ち受ける未来にはさらに厳しい試練が待ち構えていることを、まだ誰も知らなかった。
つづく