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毒親 第84話 迫る別れ

第84話 迫る別れ


リナの容態は日を追うごとに悪化していった。

食事はほとんど喉を通らず、水を飲むことすら困難になり、話すことさえも辛そうだった。

それでも、リナはユイの前では無理に笑顔を作った。

「ママ、今日は痛くない?」

ユイはリナの手を握り、心配そうに顔を覗き込む。

「……うん、大丈夫よ。」

リナは微笑んで見せたが、その手の力は日に日に弱くなっていた。

サキとカイは、そんなリナの姿を見るたびに胸が締めつけられた。

「先生、あとどのくらい……?」

サキは主治医に尋ねた。

医師は静かに息をつき、低い声で答えた。

「……正直に申し上げます。リナさんは、もう長くはありません。」

その言葉に、サキは全身の力が抜けるような感覚に襲われた。

「……そんな……」

「あと、数日……もしかすると、今日かもしれません。」

カイがサキの肩を支えながら、医師の言葉を受け止めようと必死に耐えていた。

別れの時は、すぐそこまで迫っていた。


その夜、リナはベッドの上で静かに天井を見つめていた。

「サキ……カイ……」

か細い声で二人を呼ぶ。

サキとカイはすぐにリナのもとへ駆け寄った。

「お姉ちゃん、何か欲しいものある?」

「……ううん、ただ、そばにいてほしいだけ……」

リナの手を握ると、その温度は驚くほど冷たかった。

「サキ……カイ……本当にありがとう。」

「お礼なんて、言わないでよ……!」

サキは涙をこらえきれず、リナの手をぎゅっと握りしめた。

「私、まだ……お姉ちゃんと一緒にいたいよ……!」

「……私もよ。でも……」

リナは穏やかに微笑んだ。

「私は、幸せだった。」

「お姉ちゃん……」

「カイと出会えてユイが生まれて…………サキと、こうして最後まで一緒にいられて……」

リナの声は次第にかすれていった。

「だから……大丈夫よ……」


その時、ユイが小さな足音を立てて部屋に入ってきた。

「ママ……?」

「ユイ……」

リナはゆっくりと手を伸ばした。

ユイはその手を握り、泣きながら顔をうずめた。

「ママ、どこにもいかないで……!」

「ユイ……大好きよ……」

リナの指が、そっとユイの髪を撫でた。

「ずっと……ユイのこと、見守ってるからね……」

「ママ……!」

ユイの小さな手が、リナの指を強く握りしめる。

サキもカイも、ただ泣きながらその光景を見守っていた。

リナの瞼が、ゆっくりと閉じられていく。

「……ありがとう……」

最後に、そう呟くように言うと

リナの手から、そっと力が抜けた。

「ママ……?」

ユイが不安そうにリナの顔を覗き込む。

「ママ、ねえ……!」

サキがリナの手を握りしめる。

「お姉ちゃん!ねえ、返事してよ!」

カイも、涙をこらえながらリナの肩を揺さぶる。

しかし

リナの魂は、静かに旅立っていた。


部屋の中に、嗚咽の声だけが響いた。

ユイは泣きながら、リナの腕の中にしがみついていた。

「ママ……行かないで……!」

「ユイ……」

サキは、ユイを優しく抱きしめた。

「ママは、ずっとユイのそばにいるよ。」

「……ほんと?」

「うん。ママはね、これからもユイのことを見守ってくれるよ。」

ユイは涙を拭いながら、小さく頷いた。

「ママ、また会える……?」

サキは微笑みながら、ユイの頭を撫でた。

「うん、きっとね。」

ユイはリナの顔をじっと見つめ、そっと手を重ねた。

「……ママ、ママ大好きだよ。」

サキもカイも、言葉にならない思いを抱えながら、リナのそばに寄り添い続けた。

リナの顔は、穏やかで、まるで、ただ眠っているかのようだった。


つづく

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