対話形式で学ぶ哲学 | 「世界はひとつ」じゃないんですか?
生徒
2024年の紅白歌合戦、盛り上がりましたね!星野源さんが歌っていた『ばらばら』って曲に「せかいはひとつじゃない」って歌詞があったんですけど、これってどういう意味だと思います?なんか深そうな気がして。
先生
ほう、面白い歌詞だね。「世界はひとつじゃない」か…。いい問いだよ。実はその一言、カントっていう哲学者の考えがすっぽり入るんだ。
生徒
カント?聞いたことはありますけど…偉い人ですよね?何をした人ですか?
先生
いい質問だね!カントは、「世界って本当はどうなってるんだろう?」っていう超シンプルだけど超大事な問いを突き詰めた哲学者だよ。で、彼の結論をざっくり言うと、「世界って、私たちが見ている世界そのものではない」ってことなんだ。
生徒
え、どういうことですか?見てるのに、それが世界じゃないって…。
先生
そうそう、そこがカントの面白いところなんだ。カントは「私たちが見ているのは世界そのものじゃなくて、頭の中で作った『認識された世界』だよ」って言ってるの。これをちょっと簡単に例えるとね…。
生徒
うんうん
先生
ほら、例えばスマホのゲーム!画面上ではかわいいキャラクターが動いてるけど、裏では膨大なプログラムが動いてるよね?
生徒
たしかに。キャラの動きとかアイテムとか、プログラムを知らなくても遊べますよね。
先生
そうそう!カントが言いたかったのは、「私たちが見ている世界(スマホ画面)は、裏側のプログラム(世界そのもの)を完全には見てない」ってことなの。つまり、「世界そのもの(カント用語で『物自体』って呼ぶ)は私たちには分からないけど、私たちが認識した世界(カント用語で『現象』)を通じて楽しんでる」って感じだね。
生徒
なるほど…ってことは、私が見てる世界と、先生が見てる世界も違うんですか?
先生
その通り!そこが「せかいはひとつじゃない」って歌詞にぴったり重なる部分だよ。カントの考えでは、人それぞれの頭の中に「その人だけの世界」があるってことになる。だから、君が見ている「赤いリンゴ」と、私が見ている「赤いリンゴ」も、完全に同じじゃない可能性があるんだ。
生徒
でも、それってちょっと寂しくないですか?誰とも同じ世界を共有できないってことですよね?
先生
そう思うかもしれないけど、カントは「共有する方法もあるよ」って考えてたんだ。それが「共通の認識の仕組み」。たとえば、「リンゴは丸くて赤いよね」っていう基本的な理解を、みんなが持つことで、同じように感じてるっぽくなる。これをカント用語で「統覚」って呼ぶんだけど、要するに「お互いに合意してることを土台にしようぜ」ってことだね。
生徒
あ、じゃあ「重なりあったところにひとつのものがある」って歌詞も、そんな感じですか?
先生
いい着眼点!カントの哲学を踏まえると、この歌詞は「人それぞれ違う世界(認識)を持っているけど、その認識が重なる部分が『共有できる世界』になる」って読めるね。たとえば、君が持ってる好きな映画の感想と、私の感想が重なると、「あのシーン良かったよね!」って盛り上がれる。これが「重なりあった世界」ってことじゃないかな。
生徒
なるほど。違う世界があるのも悪くないかも。いろんな世界があるから、重なる瞬間が面白いんですね。
先生
そういうこと!だから、「世界はひとつじゃない」って歌詞は、カント哲学の「物自体」と「現象」の違い、そして「統覚」の考え方までを含んでるかもしれないね。これを知ると、歌詞がもっと面白く感じるでしょ?
生徒
はい!なんか哲学って難しいって思ってましたけど、こういうふうに考えると日常に使える考え方ですね。
先生
その通り。哲学は日常の「なんでだろう?」って疑問から始まるものだからね。これからもどんどん疑問を持って、自分なりの答えを見つけていこう!
おわりに
「世界はひとつじゃない」という歌詞は、カント哲学の核心に迫る深い問いを投げかけているように思います。個々人が好き勝手な論調をぶつけあい、お互いの常識を押し付けあうような世界において、この問いを通じて、自分の見ている世界や他人の見ている世界について考えるきっかけを与えられたように思います。そして、違う世界同士が重なりあう瞬間こそ、私たちが「ひとつのもの」を見つけられるタイミングなのかもしれません。