デートpart 2
18時、駅で待ち合わせ。どきどきしてたら17時に着いた。その場で待つには長すぎるから、近くの本屋で時間を潰す。
入り口付近では、読書の秋を盾に沢山本を売ろうとする意図が、僕を本棚の影から覗いていた。食欲やらスポーツやら読書やら、人間の生活の大きい部分を占める事柄を秋だけに背負わせるのは少しかわいそうな気がする。こういう負担が大きいから、近年の秋はどんどん短くなっている。他の頼れる季節たちにも協力してもらえれば、四季の時間的序列がなくなり、それぞれが対等の立場でいられるのになと思う。
時計を見る。17時36分。
少し早いけど駅に戻って君を待つことにする。
17時43分。一応トイレにも行っておこう。
17時49分。隣に20代後半くらいの男性がきた。多分誰かを待ってる。
17時51分。君がもう駅に着くらしい。
少し怖くなって、5分遅れると嘘をついた。
17時52分。君は改札を出て、近くの壁に寄りかかった。スマホを見ている。
18時。予定では会ってるはずだが、5分遅れなければいけないため、こもったトイレからは出られない。
18時4分。スマホを見ている君に話しかける。
僕「ごめん、遅れた」
君「わっ、びっくりした」
僕「ごめん」
こういうとき、服装を褒めるといいとネットで見たことがある。白い花柄のワンピースに着丈の短いデニムジャケット。ブラウンのニューバランスにフリルの付いた靴下が女の子らしかった。
僕「…。じゃあ、行こうか」
君「こっちの出口の方が近いよ」
店に着くまで、何かを話していた。何を話していたかは記憶にないが、盛り上がらなかったことは言うまでもない。
君「6時に予約した〇〇です」
店員「〇〇様ですね、お待ちしておりました。こちらご案内いたします」
予約してくれてた。何もしてない、なさけない。僕は君の後ろを小さくなって、こそこそとついて行く。
君「めちゃくちゃいい匂いするね」
僕「うん」
向き合って座る。君がジャケットを脱いで、座っている椅子にかける。ワンピースの袖口はパフスリーブだった。袖口からのぞくほっそりとした腕には、青い血管が透けていた。
君「私餃子は絶対食べたいんだよね」
僕「いいね」
君「あとはー、」
鎖骨の下あたりにほくろが見える。少し前のめりになってるのが、君の気分の高揚を示していた。
僕「小籠包とかは?」
君「おぉー。それも、頼んじゃお」
店員へ注文をする。全部言ってもらってしまった。またしても何もしていない、なさけない。店員が注文を繰り返してから、笑顔を残して去る。
君「…」
僕「…」
お互いが相手の思考を推測しようとしているような、なんとも居心地の悪い空気が堆積する。一週間前からイメージトレーニングを重ね、会話になる話題をネットで検索し尽くし、相手に良い印象を与えるための振る舞いをYouTubeで確認した後、心理学を応用した相手の気持ちの測り方も知っておいたが、現実を前に手も足も出なかった。
つづく