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著者は何者?「木になった亜沙」
今村夏子氏の著作「木になった亜沙」を読みました。2020年発売。私がこれまで読んだ著者の作品は「とんこつQ&A」「むらさきスカートの女」「星の子」で、本作が4作目。本作の率直な感想は、著者は一体どんな思考回路を持っているのだろう…でした。事前知識を持たずに読み始めたのですが、全く先が読めず、呆気に取られる展開。ストーリー全体はあり得ない内容なのにも関わらず、登場人物の心情がリアルなので、読み終わりはほのかな切なさと、ゾクリとした怖さを味わえます。
本作は3つの短編から構成されます。各短編タイトルは表題でもある「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」。どの話も前提知識をできるだけ持たずに読んだ方が面白いと思うので、描写は控えます。どの話も共通しているのは、主人公が何かを追い求めている点。ある時点までは主人公に共感できる。でもふと気付くと、主人公もそれを取り巻く世界もひどく異常である事に気付く。ガラッと変わる場面もあれば、徐々に変わって行く場面もあり。過去の作品とも共通しますが、最初の日常的なシーンから予想外に変化していく展開には強く惹かれます。いきなり衝撃なのは「木になった…」、普通に怖いのは「的になった…」、世界の境目が曖昧な「ある夜…」。どれも独特の読後感でした。
Kindleで購入したのですが、おまけで著者のエッセイが読めました。著者は一体何者?と空恐ろしささえ感じていましたが、エッセイで描かれる日常は普通の方で安心しました。しかし執筆の際はどれだけ自分を掘り下げているのか…と想像すると、改めて作品を作る方の凄みを覚えました。脱帽。最後の村田沙耶香氏の解説はとても共感できました。また著者の作品を読むのが楽しみです。
彼女の小説の言葉でしか触れることができない「部分」が世界に、自分の中に、たくさん存在していて、自分がどこかでそれらをとても大切にしていることを思い出す。言語が、物語が、その「部分」に触れたとき、驚きと安堵が融合した、静かな震えのような感覚に包まれる。それは「奇妙」「不思議」という言葉では足りない喜びを読み手である自分に与える。
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