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認知症の連れ合いとの老後-透視術

洗面所の鏡に映る自分の顔をじっと覗き込んでいたら、夫がそばに来て
「どうしたの?」
「う~ん、髪形をボブにしてみたんだけど…」
「いい感じじゃないか。お前の行っている美容院、上手だよ」
「でもね、電車で見た人は、私と同じ位の歳で、とっても素敵だったのよ」
「お前、大事なこと見落としてるよ。顔、見た?その人美人だったろ?」
確かに、とは思ったけれど、黙っていたら
「腕のいい美容院なのに、なんで顔もなんとかできないんだろう。おっ、すごい殺気、危ねえ危ねえ」
「しめ殺すからね」
私がそういう前に夫は離れていった。
毎朝の早朝ウォーキングコースを川沿いの土手の小道(簡易な舗装がされていてフェンスがある)に変えた。歩く距離も500メートル弱にしたのに、ゆうに一時間は超えてしまう。
認知症独特のすり足状態の歩き方になってしまった夫はすぐフェンスをつかんでは立ち止まるのだ。
顔見知りになった人が、行き交う時に、
「毎朝、奥さんがついてきてくれて、いいですね。私なんか、女房が亡くなっちゃったもんだからうらやましいですよ」
すかさず夫が
「いやあ、いいのはこれだけですよ。料理はマズイし、顔はマズイし、あっちはダメだし」
「……いやあ」
と言って立ちすくんだその人に、私はぺこりと頭を下げ夫をせかした。コ●ナ渦でマスクをしていてありがたいと思ったのはこの時が初めてだ。
「ふみちゃん(夫の呼び名)、話す内容に気を付けないと。今の人驚いていたでしょ」
「別に、俺は事実しか言ってない」
私は、とっさに返す言葉が浮かばなかったが、この川に蹴り落してやろうかと思った。そんな体力がないのが悔やまれるが。
すると、夫はフェンスにつかまって下を覗き込み、
「この深さじゃ、落ちても大丈夫だな」
そう言いおった。
まぁ、確かに水深は膝よりずっと下だが。
認知症で、要介護3。
口の減らない夫に振り回されてる毎日だが、この時ふっとひらめいた。
”そうだ!次からは夫にジャンボ宝くじを買わせてみよう!”
うん妙案だ!暮れのジャンボが待ち遠しい。

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