【レビュー】 ナチュラリストの古典中の古典、ダーウィン、ファーブルを先導した名著。
「英帝国の揺ぐ日がかりにあるとしても、セルボーン博物誌一巻は変らざる金字塔として永遠に残るであろう」日本のさる著名な鳥学者がこのように言ったそうである。環境保存の重要性がますます認識されてきた今日における、フィールド・ナチュラリストやバードウォッチャーの古典中の古典、それが、本書、『セルボーン博物誌』だ。
アントロポセンという新たな地質年代が議論されている。激動の流れのなかで、私たちは失われゆく自然とどう向き合えばいいのか。著者ギルバート・ホワイトその人の、天才的観察眼とうつくしく、瑞々しい感性を通して、読み手は、自らのなかに眠る清水のような感覚を取り戻していくことだろう。
ウィルダネスは幻想である。ナチュラリスト、ホワイトが体験した、本書で記録されているような自然は、もはやないであろう。人類の力によって地球の景色は一変した。その力は、産業革命によって、いや、アントロポセンによってもたらされた。
では、ホワイトは何を残したのか。それは、自然と向き合う真摯な姿勢、生き物たちの、微細な変化や動き、表情に気づく、センス・オブ・ワンダーの精神であると思う。
ダーウィン、ファーブルは、本書に先導され、自然界の神秘に眼をひらかれた。それに次いできた、多くの人々の次には、あなたが続いてほしい。
【 この本は、神保町にまで求めにいき、入手しました。著者ギルバート・ホワイトは18世紀の博物学者です。原著には、図版はありませんが、私の持つ講談社学術文庫版の山内義雄訳には、「野間科学医学研究資料館」所蔵の「160部限定版」の図版が挿入されています。(本書解説参照) 】
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