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渡し船

本業を休んでから3週間近く経過した頃、身体に負担がかからない程度の単発短時間の仕事に入りました。
ストレスの少ないひとりで行う仕事内容が多いとは言え、広い倉庫内はすべての場所が扇風機が効いているわけではなく、退勤後も止まらない汗を拭いながら、近くの渡船場まで歩いていきました。

昭和30年代から運航している隣の区とを結ぶ渡し船は、川沿いに建つ複数の会社で働く人達にとって欠かせない足になっているそうです。
最終便の10分前に待合スペースに付き、既に泊まっている船をスマホで撮りながら待っていると、出航ぎりぎりに操縦士が現れました。
渡し船の中は自転車が乗れる仕様になっている関係か座席のないがらんどうの状態で、ちょうど操縦席の壁を隔てた裏にある救命胴衣を入れてある場所が長椅子の役割を果たしていました。
船客は私ひとり。

暗い船内を影絵のように動く出航側の待ち合いの灯り。
それから船は高速で走り、5分も経たないうちに向こう岸に着きました。

そこでも最終便を待つ人がいましたが、バスの少ない地域だからかそちらでは複数人が列をなしていました。

それにしても一度は休日の日中にでもゆっくり巡りたいと思っていた渡し船を、平日の夜にふいに思い立ったように利用することになるとは。
市の職員が明かりを消し、船着き場を閉める準備を速やかに行う中で私も小走りで見慣れた工場街の中へと向かっていました。
こちら側の複数の会社でも働いたことがあり、私にとってはむしろ本業よりも馴染みのある土地になりつつありました。

自分の予感は的中することが多く、なんとなくだけれど、きっとこの土地とこの先深く関わっていくのではないかと思えました。

夕食(外食)は何にしようか考えながら、賑やかな駅前へと続く橋を渡りました。
その小さな橋の真上を横切るように、先ほどまでいた埋め立て地を結ぶ大橋が白い灯りを照らしていました。

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