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2度目の就職の話 【薬局編 ⑫】

「看護婦さん、これ本当に眠れるお薬なの?」
ご高齢の患者様の中には、看護師と似たデザインの制服を着た私をそう呼ぶかたが多々いました。
「え、これ、胃薬?」 
後ろで桐島さんがしっと合図をしました。

シートから出して分包された胃薬のカプセルをそのまま黙って渡せばよいと言われていたのですが、私は一瞬で状況を読み取るのが苦手なのです。 
「眠れる薬ですよ。」
危機一髪でしたがそう説明しなおして、患者様に薬を手渡しました。
(※現在は投薬の説明は有資格者のみが行うことが徹底されています)

そして、また別の日には、桐島さんの薬の説明を何度聞いても納得されない婦人科の患者様がいて、桐島さんが小声で、「更年期障害の薬です、と言って」と私に代わるように言いました。
私は一瞬大丈夫かなと思いながらも、
「更年期障害の薬です」と説明すると、患者様は複雑な表情をして無言で去っていきました。
「ありがとう。助かったわ。あまりにもしつこかったから。」
私は桐島さんがそう言うまで、彼女の真意を分からずにいたのでした。

このときはたまたま桐島さんの期待に合致したのですが、その後も桐島さんの考えていることが分からず、そして波長が合わないまま、相変わらず自身のミスも減ることはなく注意されるといったことが続きました。

ある日、私は桐島さんから重大なミスの注意を受けました。
「昨日、確認が終わったふたりの患者さんの薬をてれこに薬袋に入れて渡したそうね。どちらのかたもまだ飲んでいなくて、ひとりのかたが気付いて持ってきてくれたからよかったものの、気付かずに飲んで患者さんの身体に影響があればこの病院潰れるわよ。全くどうしてこの病院は新人が実地に入る前に研修を行わないのかしら。」

けれどこのミスは更に無責任で重大なミスを犯す前の序曲に過ぎなかったのです。


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