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2度目の就職の話 【薬局編 ④】

「困るわよね。」
桐島さんがため息をつきました。
私が分包機を使って分包した錠剤の個数に過不足がありました。
旧式の機械のため、ロール状のグラシン紙に分包されていく段階で錠剤が飛んでしまうといった事も考えられますが、気を付けるには越したことがないのです。
なお、出来上がったものは薬剤師である科長か桐島さんがチェックするので間違えて患者様の手に渡ることはありません。

その様子を見てまた受付がざわついていました。

「それからね。」
桐島さんが口を開きました。
「患者対応の合間とかにお茶を飲むのは構わないけれど、カウンターの真下の見えない場所にコップを置いてちょうだい。」
私は動揺しながら答えました。
「はいはいはい、分かりました。」
「はいはいはいってそんな連続で言われると馬鹿にされてる気がするわ。」
他の職場でも指摘されましたが、あ、はいとか、はいはいはいとか、緊張でつい答えてしまうことがあります。
自分の中ではチックのようなもので治すのは難しいのですが、当然相手には伝わり辛く、申し訳ないという気持ちがあっても、表情や話し方で表すことも難しかったのです。

その数日後、前科長が退職しパート薬剤師が入社するまでの間、桐島さんと少しの間ふたりきりの薬局となりました。

ある朝出勤すると、桐島さんが開口一番、
「あなたいつも自分がお茶を飲んだマグカップを洗わずに帰るのね。昨日、岩橋さんがもうあの子はいつもこれだからと呆れながらも洗ってくれたのよ。」
そう言われ、自分が残業のときに使ったマグカップを毎日放置して帰っていたこと、私の代わりに誰かが洗ってくれていたことを改めて意識しました。
けれど、岩橋さんにお礼を言う勇気はなく黙ったままでいたのでした。

お茶当番は受付の3人が交代で行っていました。
ある日、桐島さんにあなたも手伝ったらと言われ、10時のお茶の時間にみんなの飲んだあとのマグカップを回収した上村さんの横に立ち、無言で手伝いました。
しばらく様子を見ていた上村さんですが、「なんで泡のついたコップを洗ったコップの横に置くのよ。どいて、邪魔。」と、身体をぶつけてきたのです。
私は気のせいではなく彼女に嫌われていることに気付き、無言で後ずさりするのでした。

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