2度目の就職の話 【薬局編 ⑥】
桐島さんとふたりきりだった薬局に、院長の紹介で週2回のパートタイマーの大学院に通う女性、蒔田さん(仮名)が入られました。
私より3つ年上でしたが、可愛らしい顔立ちのとても丁寧な挨拶をされるかたでした。
私が彼女に挨拶を終え、いつもの椅子に座ると、受付と薬局の間の扉が開きました。
蒔田さんの椅子がないことに気付き、上村さんが持ってきてくれたのでした。
「どうぞ。」
笑顔の上村さんに、
「ありがとうございます。」と丁寧に答える蒔田さん。
相手は年下なのだから、ありがとうございますまでは言わなくてもいいんじゃないか…それとも言ったほうがよいのだろうか、私は自分が入社したときとは違う上村さんに一瞬戸惑いましたが、こういうやりとりが普通にできる人だということを彼女の雰囲気を見て一目で分かったのでしょう。
その後のバイト先でも、似たようなことが私には多々起こりました。
今思えば年下であろうと先輩ということで相手を立てたほうが人間関係はスムーズにいくものだったのです。
蒔田さんは私にもとても優しく、そしてピリピリした薬局の空気を和ませてくれました。
彼女が出勤する週2回のほんの数時間が、私には何よりの楽しみとなりました。
ある日、薬局の制服がピンクのワンピース(※)から薄いグリーンのワンピースに変わることが決まり、それに合わせて院長が3人に白いレースのポケットチーフをプレゼントしてくれました。
院長はこの病院の中で一番若い産婦人科医師で、性格は穏やかで紳士でした。
私は突然のサプライズが嬉しくて、包み紙を開けてすぐに胸ポケットにポケットチーフを入れました。
薄いグリーンの地にとてもよく映えるデザインでした。
その翌朝のこと、私はまたもや桐島さんからの叱責をくらうのです。
「ハンカチのの包み紙、その段ボールの上あたりに放って帰ったでしょう。普通は捨てるか持ち帰るものよ。」
蒔田さんが来られてからも何も変わらず、その後も叱責される機会は増えるはかりで、私の中で再び休みたい病が芽生えていったのでした。
※ピンクのワンピースの制服が後に配属となる検査科の制服となります。