まちかどガードパイプ図鑑
どんなものにもマニアがいるもので、本書の著者岡元大さんは10年以上もずっとガードパイプを撮り歩いている。ガードパイプとはつまり道路に設置されたパイプ製の柵なので、街を歩いては道端の柵をパシャパシャと撮る、それを10年もやっているなんて、敬意を表して言うが変な人でしかない。
一方そんなものには目を向けることもなくボンヤリ暮らしてきた私だが、のちに岡元さんと一緒に「ガードパイプ図鑑」をつくることになる。そのはじまりはなんだったか。
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2021年の夏、私は山形県を訪れていた。そして、車窓からぼんやりと街を眺めているとやたらさくらんぼを目にしたのだ。マンホール、欄干、街灯、側溝の絵柄まで、いたるところにさくらんぼ。
なんてかわいい街なの!と思っていると歩道の柵もさくらんぼモチーフだと気がついた。それもまたとびきりかわいい、実の部分を赤で、ヘタと葉の部分を緑で着色した超絶ポップな柵だった。これが私のファーストガードパイプ。
もしかしたら全国に同じようなご当地のおもしろい柵があり、集めたら図鑑にできるんじゃないかと妄想が膨らんだのを覚えている。調べてみるとすでに博士級の岡元さんの存在を知り、そこからガードパイプ本の構想が始まっていった。
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本づくりをするなかで岡元さんと話をしたり、一緒に街を歩いたりしているうちに分かったことの一つは、派手なガードパイプだけがおもしろい訳ではなく、特徴がないようなガードパイプにも実は個性があるということだった。
本書では約200種のガードパイプを紹介しているが、なかには一見おもしろみのないものもあるし、説明されてもよくわからないモチーフもある。しかし、そんなことを愛をもって語る岡元さんの生き生きとした姿が私は大好きだ。できるなら読者のみなさん全員本人と会って欲しいくらいだが、本にもその魅力がたっぷり詰まっているのでぜひご堪能いただきたい。
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さて、私のファーストガードパイプさくらんぼだが、今まで柵なんて意識もしなかった人間の視界に、なぜ入り込んだのか。それは「目立っていた」からである。ボーッとしていても目につくくらい派手だったのだ。
しかし皮肉なことに、そんな派手なガードパイプは劣化したら違う型に取り替えられてしまう絶滅危惧種だということも、本づくりによって知ることになった。現状の景観ガイドラインを調べてみると、ガードパイプなどの道路附属物は、落ち着いた色彩と景観に馴染むデザインが推奨されていたのだ。思い返せばさくらんぼガードパイプはまさにその逆をいっている。派手で目立っていたからこそ存在に気づけた訳だが、ガイドライン的には「煩雑な印象」と判断されてしまうらしい。
当たり前のように存在するものがそこに在るということは、実は当たり前じゃない。そんなことも考えさせられる一冊になった。
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ちなみに岡元さんのファーストガードパイプは東京都北区の北型だそう。漢字の「北」をそのままモチーフにした、これもまた絶大なインパクトを誇るガードパイプだ。さくらんぼと北型。どちらも本書でチェック、できればさらに現物を見て感動を共有してもらえると嬉しい。