【Management Talk】「日本発の世界ブランドを目指す」美容家電大手・ヤーマンが見据える未来
ヤーマン株式会社 山﨑貴三代
BtoCへの業容拡大によってブランディングの必要性を認識
別所:今年で設立40周年を迎えられたということで、本当におめでとうございます。まずは、企業としてこれまでどのような歩みを辿ってこられたのか、お話しいただけますでしょうか?
山崎:ヤーマンは、四十年前に設立した頃には、計測機器等を海外から輸入して、大手メーカーの工場や研究所、あるいは大学に販売するというビジネスを展開していたんです。そうしたなかで、現在、主力となっている美容・健康事業を手がける発端となったのは、当時取引先だったアメリカの会社が、美容関係の企業をM&Aし、日本市場への進出について相談してくださったことでした。輸入からはじまった美容・健康事業はその後、自社製品を製造・販売するメーカーとしての機能を有するまでに成長し、おかげさまで2012年には、東証一部上場までさせていただきました。
別所:もともとは全く別の分野の事業からはじまっていたんですね。
山崎:ええ。それで、本日のテーマである「ブランド」については、いままさに、会社を挙げて取り組みはじめているという段階なんです。と言いますのも、美容・健康事業も、当初は、業務用の製品を、サロンやフィットネスといった施設に卸すというビジネスだったからです。つまり、エンドユーザー様とは距離があった。そこから近年、業容拡大に伴って、だんだんとエンドユーザー様との直接の接点ができてきたため、ようやく、「ヤーマン」というブランドを確立させる必要性を認識することになったわけです。お恥ずかしながら、設立から四十年経ったいまに至って、ブランディングという課題に直面しているという現状です(笑)。
別所:BtoBとBtoCでは、ビジネスのあり方もかなり変わってきたのではないですか?
山崎:おっしゃる通りです。もともとBtoBを展開していた会社が、BtoCの事業をはじめるのは、簡単なことではありません。ただ、そもそも、当社がBtoCを展開するようになったのも、単に、販路や売上の拡大を目指してのことではなかったんです。「当社の製品をよりたくさんのお客様にお届けし、もっと認めていただきたい」という強い願いがあったからこそ、自然な流れでそうなったのだと思っています。私自身も個人的には昔から、他人任せにすることがあまり好きではないタイプで(笑)。「自分のことは自分で責任を持ちましょう」と常に考えているんです。そして、それは、会社でも同じで、結局、誰かが売ってくれるのを待っていたら、どうしても自分でコントロールできない部分がでてきてしまいますよね。やはり、自分の会社で作ったものを自分の会社で売るという形は、もっとも正々堂々とした態度だと思うのです。売れても売れなくても自分の責任ですから。もちろん、そういう意識を会社で浸透させるのは、ハードルが相当高いことではありますが。
化粧品の先にある「美しさ」
別所:そうしたなか、ブランディングに取り組まれるにあたって発せられたメッセージが、「美しくを、変えていく。」。この言葉に込められた思いについてお伺いできればと思います。
山崎:いま、「美しさ」と聞いて、まず連想するのは、化粧品という方が大多数だと思うのですけど、私たちは、その常識を変えていきたい、という強い思いを持っているんです。化粧品の先にある「美しさ」を創造するものとして、「美容家電」という存在を提示すること。それこそが、私たちヤーマンという会社の存在意義なのではないかと。化粧品業界は、日本国内だけでも2兆円を超える市場ですし、海外に目を向ければさらに巨大です。私たちはそのなかで、美容家電の市場を、一定のポジションとして確立させたい。そうした志を、「美しくを、変えていく。」というスローガンに込めています。
別所:美容家電で美しくなる、という。
山崎:日本では一般的に、大手の化粧品会社様が作った「ステップ」と呼ばれるスキンケアの手順が浸透しています。クレンジングをして、洗顔をして、化粧水を使って……という。ただ、日本では当たり前のように思われている「ステップ」も、グローバルスタンダードというわけでは決してありません。そんなにたくさん化粧品を使う必要があるんですか? という認識の国も海外には多くて。そういう国では、化粧品と美容家電が同じスタートラインに立つことができるため、非常に受け入れられやすいんです。
別所:大きな商機があるわけですね。
山崎:しかも、美容家電という小さな機械を作ることに関しては、やはり、日本メーカーは世界のどこよりも得意ですよね。現在のところ、世界中のあらゆる企業のなかで、美容家電メーカーとして確たる地位を築いているブランドはありません。つまり、この業界は、日本発の世界ブランドを生み出せる可能性を秘めた稀有な市場というわけです。かつて、ウォークマンでソニーが世界ブランドに変貌を遂げたように、ヤーマンも日本のブランドとして美容家電で世界に打って出たい。当社はそういう気持ちでビジネスに臨んでいます。
別所:海外展開は、現在どのような状況ですか?
山崎:当社としては、一カ国につき一社、現地の企業と組むという方針で展開しています。一緒にブランドを作って、広げていきましょう、と。美容業界は特にそうだと思うんですけど、やはり、現地の生活や習慣をよく理解していないとうまくいきづらいですから。本当に、国によって美の基準は違います。だからこそ、ローカル企業のパートナーととともに、どこに注力して、何を行うかを考える必要があるわけです。現在は、中国や韓国、東南アジアでも展開していますし、最近はロシアでローンチもしました。また、アメリカには、現地法人を置いて、グローバルブランドとして製品を発信しています。
お客様ご自身の人生がヤーマンによってどう変わるのか
別所:世界展開のお話は、聞いているだけでワクワクしてきますね。では、いったん国内の話に戻ると、具体的なマーケティング活動、ブランディング活動について、直近では、どのような予定があるのでしょうか?
山崎:国内ですと、これから先、年末にかけては、消費が活発になる時期でもあるので、いままさに、「美しくを、変えていく。」というメッセージを広く訴求するべく、テレビCMや、交通広告の準備を進めているところです。また、表参道でのイベントも予定しています。こうした展開はこれまで、当社としては手がけてこなかったので、ある種の挑戦として積極的に取り組んでいきたいと考えています。
別所:それも楽しみですね。そして、ブランディングということでいうと、最近では、製品やサービスの効能、スペックよりも、それにまつわるストーリーを語ることの方を大切にされている企業が多くなっているかと思います。美容家電の分野においても、お客さんの人生とヤーマンさんの関係を提示することはきっと重要ですよね。
山崎:まさにおっしゃる通りです。もちろん、メーカーですから、一つの製品を作ったときに、スペックを語ることも押さえておくべき重要な要素ではあるのですけれど、お客様目線からしたら、それだけでは足りないですよね。私だって、たとえば、冷蔵庫を買うときに、機能のディテイルを聞いてもなかなか頭に入ってきませんし(笑)。やはり、そういうなかで選んでいただくためには、心に響くブランドの価値をお客様に感じていただくことが必要で、そこにはストーリーが求められるのだと思います。
別所:私たちは、映画祭のなかで、企業のブランデッド・ムービーを特集する「Branded Shorts」という部門を運営しているとともに、動画の製作も手がけています。映画と広告のハイブリッドと呼ぶべきブランデッド・ムービーは、インターネットでも企業とお客様を結びつける重要な役割を果たしているのですが、御社は、ネット上ではどのような施策を行なっているのでしょうか?
山崎:インターネットの展開では、いま、SNSを中心に様々な媒体を活用して情報を発信していますが、メッセージを伝える、という段階まではたどり着けていないのが現状かもしれません。やはり別所さんのおっしゃる通り、ただ単に会社の歴史や商品の機能を語るというより、私たちや私たちの製品の向こう側にいらっしゃるお客様に、ご自身の生活とヤーマンの関わりや、ご自身の人生がヤーマンによってどう変わるのか、といったところまで感じていただけることが必要だと思います。素晴らしい動画ができれば、きっとすごく伝わりやすいでしょうし、たくさんの方に観ていただけるんでしょうね。
別所:実際に様々な企業さんが、ブランデッド・ムービーを製作し、その効果を体感されています。企業さんの思いが凝縮されて、なおかつ、物語性が高いブランデッド・ムービーは、視聴者に共感をもたらす力を秘めていますから。
山崎:面白いですね。やはり、こちらが伝えたいことを一方的に発信しても、共感を得るのは難しいでしょうから。まさに、美容は、共感できるブランドであることが求められているので、ショートフィルムは、非常に興味深いコンテンツだと思います。
別所:ありがとうございます。それでは最後に、ヤーマンさんの今後40年、そして100年に向けた抱負をお願いします。
山崎:先ほど申し上げた通り、当社は、日本のメーカーとして、世界に打って出られる可能性のある分野を手がけさせていただいていると自負しています。日本発のブランドとして、世界中のどこに行っても、美容業界で「ヤーマン」の名が存在感を発揮できるように、そして、お客様からより信頼と愛着を持ってもらえるように、さまざまなチャレンジをしていきたいと考えています。それは、売上やシェアの拡大といったことだけではなく、ずっと愛して、使い続けていただけるようなブランドを目指すことでもあります。その挑戦は始まったばかりなので、どこまで目標に近づけるか、日々懸命に取り組んでいきたいです。
別所:ありがとうござました。
(2018.10.9)