〈脳科学×ブランディング〉ブランドの統一感は必要?記憶とブランディングの関係性
こんにちは、ブランドクリエイトの王です。
このコーナーは、デザイナーとして日常業務の中に、
よく考えるとつい「なぜ?」と疑問とモヤモヤが芽生えてしまうことを、
脳科学の視点から自分なりに根拠を探究する記事です。
前回は、ブランドカラーがどのように人の心を動かすかについて、脳科学の視点から分析しました。(気になる人はぜひ読んでみてくださいね↓)
今回は記憶とブランディングの関係性について、少し深掘りしていきたいと思います!
ブランディングのプロジェクトを進める中で、デザイナーからこんな言葉を聞いたことはありませんか?
「うん…なんとなくは理解できるけど、なぜ統一感と一貫性がそれほど重要なのか、もっと詳しく説明してほしい」と、心の中で疑問に思ったことはありませんか?
実は、それは人間の記憶と関係あるのです。
記憶の種類
人の記憶は大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」があります。
短期記憶
短期記憶は脳の側頭葉にある「海馬」に保存されます。
海馬という名前は、タツノオトシゴに形が似ていることが由来です。
皆さんもなんとなく聞いたことのあるこの海馬は、記憶の司令塔ともいえる存在で、記憶の形成、空間認識、感情処理において重要な役割を担っています。
外からの視覚や嗅覚などの刺激は、脳の各感覚野を通じて海馬に集積され、短期記憶として保存されます。
保存された短期記憶を、「不要な情報」として消去するか、「重要な情報」として大脳皮質に転送し、長期記憶として保存するかを判断するのも海馬の役割です。
長期記憶
短期記憶が少量の情報を一時的に保持するのに対して、長期記憶は膨大な量の情報を保存することが可能です。
海馬が必要と判断した記憶は、「大脳皮質」というハードディスクのような場所に転送され、ゆっくり時間をかけて長期記憶として定着していきます。一度定着した長期記憶は、何年にもわたって保持される場合があります。
長期記憶は大きく「陳述的記憶」と「非陳述的記憶」に分類されます。
陳述的記憶は顕在記憶とも呼ばれ、具体的なイメージや言葉で内容を表現できる記憶で、以下の2つに分類されます。
一方、非陳述的記憶は潜在記憶とも呼ばれ、言葉で明確に説明することが難しく、意識せず自然に活用される記憶です。
さらに、非陳述的記憶は以下の4つに分類されます。
ブランディングと記憶の関係性
私たちの脳は普段の生活の中で、意識的に学習する顕在記憶に対して、実は周りにある何気ない情報を無意識的に収集し、学習しているのです!
例えば、通勤途中に目にする広告や信号機の配置、街中での人々の服装、駅の発車メロディーなど、これらはすべて無意識的に脳に取り込まれています。また、新しい職場で他人の表情や作法を観察し、それを無意識のうちに取り入れて順応していくことも、脳が行っている学習の一つです。
人間は一日の中で膨大な量の情報に触れています。その中で、実際に意識的に処理する情報はごく一部で、多くは意識していなくても脳内に蓄積され、潜在記憶として私たちの行動様式や判断基準に影響を与えています。
この無意識的な学習、つまり「暗黙的学習」は、ブランディングにおいて非常に重要な要素となります。
ブランディングは、消費者が意識的に気づかないうちに、特定のイメージや感情を自然に脳に影響を与えることが目指します。
暗黙的学習
暗黙的学習は、脳が収集した様々な情報を符号化し、自分なりの解釈や感情を与えたり、他の関連する概念と結びつけたりすることで、「連想ネットワーク」を作り上げるプロセスです。
ブランドのネーミング、カラー、書体、キービジュアルに登場するシーンや人物、CMのナレーションのトーンやパッケージのデザインなど、すべての情報が消費者の脳の中で無意識のうちに(勝手に)ネットワークを作り、ブランドイメージが形成されていきます!
「アップルはどんなイメージ?」と聞かれると、なんとなく革新的で創造性にあふれたブランドイメージが思い浮かびますよね。それも、すべてのブランド要素があなたに与えた感覚刺激を、脳の中で解釈し、関係性を結びつけることで形成されたものです。
ブランドイメージを強化する方法は?
それでは、どうすれば暗黙的学習を利用し、ブランドイメージやブランドへの認知をアップすることができますか?
いくつかのアプローチをご紹介します!
①暗示的なメッセージの活用
暗黙的学習の特徴の一つは、明示的な情報よりも暗示的なメッセージが無意識に受け取られ、自然に行動を促すことができる点です。
現在の社会では、消費者がマーケティングの販促手法などに対して疑念を抱きやすく、「何かを売りつけられる」という感覚に敏感です。これが強い場合、心理的な抵抗が生じます。
明確に言葉にしなくても、ブランドの世界観やストーリーなどを通じてブランドの価値観やメッセージを伝えることは、消費者がブランドやマーケティングに対して抱く抵抗心を和らげる効果があります。
ヘーベルハウスは、家族それぞれが自分らしく過ごす温かいシーンを描いたCMで、住宅そのものの物性ではなく、ブランドが提供する価値観やライフスタイルを暗示しています。
こうすることで、そのライフスタイルに共感や憧れを感じた消費者は、自然にブランドに対する好感や購買意欲が生まれます。
②繰り返しの露出とブランドメッセージの一貫性
暗黙的学習は、繰り返し同じ刺激に触れることで「連想ネットワーク」を強化することができます。
統一性のあるロゴ、カラー、世界観などのブランドメッセージを一貫して使い続けることで、無意識に記憶に残りやすく、消費者の潜在記憶にブランドを刷り込むことが容易になります。
誰もが知っているヤマト運輸を聞くと、どんなイメージを思い浮かびますか?
黄色い背景の上に親子猫のクロネコマークを思い出す人も、信頼感と親しみやすさのある企業雰囲気をすぐ頭に沸いてくる人もいるでしょう。
どちらも、ヤマト運輸が統一したブランド世界観と一貫性のあるメッセージを、長い間引き続き消費者に発信してきた効果です。
ここで注意していただきたいのは、暗黙的学習は無意識のうちに行われるため、一度形成されると簡単には変えられないため、意識的な説得よりも長期的で強い影響を与えることができるのです。
しかし、ブランドロゴやカラーなどの統一性が欠けてくると、連想ネットワークの形成が難しくなり、ブランドへの認知強化がしづらくなります。
さらに、例えば高級感を訴えるのに、ロゴやパッケージが安っぽいという一貫性のないブランド表現は、消費者の中に「認知的不協和」(矛盾)が生じてしまい、ブランドへの信頼性に悪影響を与えることがあります。
そのため、ブランドを構築する際には、ブランドの世界観やメッセージをよく精査した上で策定し、その後一定期間の中に一貫した発信を続けたほうがより効果的になります!
③すべての感覚刺激を図る360°コミュニケーション
最後に、視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚など、視覚以外の感覚を通じた学習は、潜在記憶に深く残ることも暗黙的学習の特徴です。
小売業では、実店舗で体験した接客や店内の内装、音楽などの雰囲気、通販サイトのUIUXもブランド体験の一環として、消費者の頭の中にブランドイメージの形成に影響を与えるのです。
ここでクイズです!
下記はどのコンビニの入店音でしょうか?
正解は….
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ファミリーマートです!
音を聞いた瞬間、あの緑と青を組み合わせたロゴや美味しいファミチキなどを思い出しますよね。これも視覚だけではなく、耳からの聴覚刺激をブランド体験をすることで、連想ネットワークを強化しているからです!
他には、例えば高級ホテルに入った瞬間、目にする暗めの照明や色使い、空気の中に漂う特定の香りも、ブランドが伝えたいメッセージの一つです。
消費者が触れるすべての要素(タッチポイント)を、ブランドイメージを構築する重要なパズルとして捉えることも、ブランディングを行う際にとても重要ですね。
いかがでしょうか。
ブランディングは、暗黙的学習の特性を活用して、消費者に気づかれないうちに感情や行動を誘導する手法です。
暗示的なメッセージの活用、繰り返しの露出や一貫性のあるメッセージ、360°コミュニケーションなどを通じて、ブランドイメージを潜在記憶に深く刻み込み、自然な選択や共感を引き起こします。
この無意識的な学習プロセスが、人の心を動かし、ブランドと消費者の間に強固なつながりを築く鍵となります!
ブランディングを行う際に、ぜひ活用してみてください。
また、クリエイティブ関係の仕事ではない方も、今度ブランドの広告やビジュアルを見た時に「これは暗黙的な学習のどんな特徴を活用しているか?」を分析してみても、案外面白いと思いますよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
もしブランディングやデザインに対し、「これはなぜ?」「これをもっと説明してほしい」などの疑問があったら、コメントをいただけると嬉しいです!
それでは、また次回をお楽しみに!