麦茶と江戸切子を調和させたペットボトルデザインの開発秘話
江戸切子をモチーフとしたペットボトルを見たことはあるでしょうか。アサヒ飲料のロングセラーブランド「アサヒ 六条麦茶」のペットボトルデザインを監修したのは今回私達が取材を行なっている堀口切子です。六条麦茶は江戸切子が持つ繊細な日本らしさを独自技術でペットボトルに表現したことが評価され、「グッドデザイン賞」「日本パッケージングコンテスト ジャパンスター賞」を2016年にダブル受賞いたしました。
なぜデザイン監修を堀口切子に依頼したのか、販売までにどのような苦労があったのかについて、当時六条麦茶の担当をしていた高橋さん・宮本さんにお話を伺いました。(記事内敬称略)
アサヒ飲料株式会社 マーケティング本部 宣伝部マーケティング本部 宣伝部
メディアグループ グループリーダー 高橋 徹(写真右)
アサヒグループ食品株式会社 食品事業本部 食品マーケティング部
課長補佐 宮本 雅美(写真左)
■親和性のあるデザインを。歴史的共通点に着目したデザイン作り
まずは堀口切子と一緒に行なったプロジェクトについて教えてください
宮本:当時、カゴメ社からブランドそのものの譲渡を受けて、六条麦茶をアサヒ飲料で販売するようになってから2.3年経過した時でした。譲渡を受けたものの、ブランドとしての存在感はちょっと薄れている状態だったんです。このままだとブランドとして花咲いて成長していくことがないので、何か1つ大きなきっかけが欲しいと考え、デザインのリニューアルを行うことになりました。
なぜデザインに江戸切子を使おうと考えたんですか?
宮本:麦茶は日本人にとって歴史のある食文化で、江戸を中心に民衆に広まったっていう背景を持っているんですね。本社(浅草)の位置関係から東京エリアで何か長い歴史のある、麦茶と親和性が深いものはないかと技術研究所の担当者と考えました。
そこで「江戸切子はどうですか」という提案があったんです。今は麦茶をペットボトルで直接飲んでいますけど、もともとは器やコップ・ガラスなどに入れて飲むものなので。改めて「飲み物」っていう原点にたどり着いた時に、器の世界をペットボトルに持ち込むという観点からも江戸切子が魅力のひとつになるのではと思いました。そこから江戸切子というテーマでワイワイ盛り上がりましたね。
堀口切子にデザインの監修をお願いしたのはなぜですか?
宮本:まずは「アサヒ飲料と垣根を越えて一緒に仕事をしていただけそうな方を紹介していただけませんか」と代理店の方に情報収集をお願いしました。その時、10人ほど伝統工芸士の方をピックアップしていただいたのですが、そのうちの1人が堀口さんだったんです。
どの方にお願いするか決めるにあたって、六条麦茶とブランド感がマッチしそうな方、そして伝統工芸と工業製品(ペットボトル)という世界の垣根を越えられる方、という2つの基準がありました。この2つ目のポイントが大きく、堀口さんであれば伝統工芸という側面を守りながら、私たちがこういう工業製品をやりたいっていうことを理解していただけるかなと感じたんです。さらに圧倒的にクリエイティブが魅力的でしたので、「できれば堀口切子さんがいいです」と代理店の方にお伝えしました。
当時から堀口切子は様々な世界の垣根を超えたプロダクトを作成していましたからね。その後、スムーズにプロジェクトは進行したのですか?
宮本:実は失敗は許されないような、すごく短い期間でやらなければならなかったプロジェクトだったんです。踏み外す事なく限られた時間の中で、どれだけ提案幅を持って社内に納得してもらえるようにするか、という時間制約に1番苦労しました。
本当に堀口さんのご協力があってこそですが、凄いスピードで課題解決をすることができたんです。工房にさえ行けば、堀口さんは何時間でも私たちのために時間を割いてくださりました。本来堀口さんは、「こういうデザインでどうですか」で仕事としては終わりなんです。ですが、どんな相談をしても私たちと同じ目線で考えていただけたんですね。
高橋:最初にご挨拶に伺ったときもすぐにイメージが湧いたみたいで、下絵もなく頭の中だけで図面を引いてボトル型のものに彫ってくださいました。「こんなイメージでどうですか」って。すごく速かった。
宮本:堀口さんの頭の中ではイメージができるんでしょうね。彫っていただいた時にデザイナーと技術研究所担当者も同席していたのですが、その場で2人が大体イメージがついたので、持ち帰って即座に設計の段階に入れました。短い期間でプロジェクトを終了させられたのは、全て堀口さんのおかげだと思っています。この人と出会えてよかったと思いましたね。
■今後の世の中にも残していくために。新しさを求め続ける堀口切子
プロジェクトを通して「堀口切子らしさ」を感じたエピソードはありますか?
宮本:堀口切子らしさは、「新しいものを作りたいと思う心」だと思います。それは別にガラスには限りません。新しいものを作ることは1番ハードルが高く、違う世界のものとコラボレーションするというのは難しいと思うのですが、そこの一歩を堀口さんはすごく楽しそうに踏み越えてくるんですね。
おこがましい話なのですが、私が「思いつきのデザインを入れたい」と堀口さんに相談させていただいたんです。それまで六条麦茶の要素は、中身とラベルにしかなかったので、六条麦茶のオリジナリティーも江戸切子で表現出来たらなと。ある程度設計が煮詰まってきたときに、「六条麦茶の大麦の絵を余白のところに切子で入れたい」という話をさせていただいたんです。そしたら、堀口さんが、「それもいいですね。こんな感じですか」ってイメージを掘ってくださったんですよね。この麦の穂のデザインは、江戸切子の世界では存在しない模様なんです。この穂が加わったことで、私たちの中では飛躍した感じで良いのができましたね。
高橋:当初はデザインを堀口さんにお願いするにもかかわらず、そもそも彫る容器がガラスではないので「江戸切子風」にしかならないがそれでも大丈夫だろうか、という心配がありました。ですが堀口さんは新しいことに取り組むことで江戸切子を広めたいという想いがあるので、快く受けてくださったんですよね。
宮本:堀口さんは「江戸切子は古いものではなく新しくもあるものとして、今だけじゃなく今後も世に残って欲しい」という想いを持っているので、いろんな活動をされてきていると思うんですよね。同じものだけを作り続けても残り続けることは困難なので、新しいことに挑戦してさらに400年残していこうという想いがあるんでしょう。
最後に、堀口切子の魅力を教えてください
宮本:単純に、堀口切子さんは堀口さんかなと思いますね。江戸切子の世界に限らず、もっと複合的に「この人とお仕事をしていると楽しいな」と感じさせてくれる魅力があります。一緒に仕事をしていて楽しいですね。本当に堀口切子の活動自体がすごく面白い。
あと堀口さんは、先を見られている方なので、圧倒的にスピードが速い。堀口切子は未来を見ているし1つの仕事をしている間に、もう次のことを始めています。そこもやっぱり堀口切子さんが堀口さんなので早いんですよ。だから面白いことができるのかなと思います。世の中の面白いことをスピーディーに発信している方だと思いますね。
■おわり
ペットボトルのデザインに江戸切子と聞くと意外な組み合わせのように感じますが、その裏には麦茶と江戸切子がいずれもかつて江戸時代に民衆へと広まったという文化的な共通点がありました。2つの伝統を壊すことなく調和させることができたのは、コーポレートメッセージにもあるように堀口切子が「伝統的で」あることを大切にしているからでしょう。
堀口切子は他にも様々な企業とコラボしていますが、彼らがなぜ多くの方から協力を依頼されるのか、その理由が今回の取材から見えた気がします。お互いのブランドの伝統を尊重する想い、そして2つを調和させることができるブランドの柔軟性にあるに違いありません。
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