企業・事業のM&Aは経営学の基本問題-会社が存続するために必要・不可欠である生き残り方法-
※-1 問題提起-日本におけるパソコン市場の盛衰
本稿の題材は,標題に含意したごとき「企業経営が生き残っていくのための基本戦略」が「経営学の基本問題」の重要なひとつを形成する事実,すなわち,「企業経営が存続し発展していくためには必須となる」「企業・事業のM&A(合併と買収)」の問題は,社会科学としての経営学にとってそれが,はたしてどのように理論化されうるかという論点をめぐり,その予備的な考察に当たる議論をおこなうことになる。
本日のこの記述は,そうした話題というか問題意識を踏まえて,しかも日本の〔というよりは「日本の企業経営」全体をも客体視するための視点から〕パソコン市場をめぐる経営史的な事実展開をとりあげて分析・討究していくことになる。そのさい本稿がとりあげる問題史は「2010年代半ば」がその舞台となる。
だいぶ昔になるが,日経ビジネス編になる『会社の寿命-盛者必衰の理-』日本経済新聞社が1984年8月に出版されていた。この本はたいそう好評をもって迎えられた。
つぎに挿入する出版情報は,アマゾン通販を借りて参考文献の案内となっている。ここに紹介した時点において,古書での価格はすべて¥1!
つづいて「柳の下の泥鰌」とは全然ならずに,『〈続〉会社の寿命-衰亡招く “第2の法則” -』が1985年6月に出版されただけでなく,さらにその3冊目として『〈続々〉会社の寿命-強さの研究-』も1985年11月に出版されていた。
これら日経ビジネス編『会社の寿命』を話題にとりあげた3冊の本は「会社の寿命は30年か? 世の中に必要な財貨・用役を生産・販売する資本制企業の特性をどのように理解すべきか」という話題を,実業界に提供した。
さて,話題を本論に戻す。
当時の日本は,産業経済・企業経営がたいそう隆盛をきわめていた時代になっており,「ジャパンはナンバーワン( japan as number one )」とまで激賞されていた。
もっとも,今現在の2025年になった時期,ここではとくに,1975~1984年生まれの人「ロスジェネの世代」(「失われた世代」「氷河期世代」⇒「就職氷河期コア世代」)に属する「40代の人びと」にとってみれば,
バブル崩壊後に非常に苦しい就職活動を強いられた記憶が残る「自分たち世代の立場」からすると,自分たちが生まれた直後に公刊されていた日経ビジネス編になる「前段の本3冊」は,あたかも「他人の家(遠い外国!)での出来事」をとりあげている,としか感じられないかもしれない。
といったようなしだいが時代のなかで進行していたわけだが,ともかく今は昔,2025年に入った時点なりに,日本における産業経済・企業経営の問題を真正面からありのままにとりあげ,議論することが肝要であることは贅言を要しない。
以上のような問題意識を抱いてする以下の記述は,2010年代に起きた日本企業,それも電気・電子事業関連分野でも,パソコン国内市場をめぐる「経営史的な変遷事情」を回顧する内容となる。別に結論をさきにいうまでもないとはいえ,その進捗模様は日本企業側の敗退史として描かれる。
※-2「パソコン3社 事業統合-東芝・富士通・VAIO交渉へ 国内シェア首位浮上-」『日本経済新聞』2015年12月4日朝刊1面など
1)パソコン関連事情小史
まず,2015年12月4日の『日本経済新聞』朝刊1面冒頭記事として報道された,この記事から紹介する。
かつては,家電量販店内の商品配置でもいちばん優先されていたパソコン,つまりウィンドウズ95以来,しばらくつづいた時代の傾向からすると,いまではパソコンが電化製品のうちに占める割合はそれほどでもなくなった。
1990年代後半期には20万円くらい出さないとパソコンが買えなかったが,いま2010年代半ばに至っては5~6万円でも,うまく買えば3万円台でも,もっぱら文書作成およびネット関係の利用目的(ブラウザとメール)であるならば,なんら遜色のない仕様・性能をもちあわせているものが買える。
補注)この段落は〈いまの時期を2010年代半ば〉に置いて記述していたけれども,その後ほぼ10年が経った現在(2020年代半ば)でいうに,ここに説明されているとおりに「3万円台でも」,さらにいえば,SNS用の基礎的な用途向けであれば,それこそ中古のパソコンであっても,その3万円台の予算で必要かつ十分以上のものでも,容易に購入することができる。
現在の時点(2010年代)では,そうしたパソコンという製品は,企業経営側にとって格別に儲かる消費財ではなくなっていた。それでは,あまり儲かりしないこの「電脳」品物を,どのように生産・販売していけばいいのか。そのための戦略・戦術は,どのように具体的に樹立・展開すればいいのか,その要諦はなにか。そういった話題が,当該企業の立場にとっては,それなりに真剣に吟味すべき経営課題になっていた。
いま〔ここでは2010年〕から5年ほど前になるが,日経(nikkei) 『BPnet 』の「【パソコン編】 栄枯盛衰,パソコンメーカー戦国絵巻」と題した記事は,2010年7月12日の記事「最後 page : 7 / 7 」のなかで,日本構内におけるパソコン生産・販売史を,つぎのように回想していた。
これは,パソコン市場における価格形成秩序に大きな影響を与えた動向に触れた文章である。
☆ ネットブックを武器に台湾系メーカーが台頭 ☆
2000年以降,パソコンメーカーの軍事バランスは均衡し,冷戦の時代を迎えていた。ところが2008年,国内市場に突如,伏兵が現われる。安価なネットブックを武器に,台湾系メーカーが国内市場に宣戦布告をした。
補注)本ブログ筆者はその「2008年」という年を聞いて思い出したことがある。その2008年に(その何月だったかまったく分からないが),エイサーの小型パソコン(液晶付きのデスクトップ型であったが,最近多く売られているウルトラな小型ではなかったもの)を購入したな,というそのかすかな記憶だけだが,まだ残っている。
(この段落の内容に相当する記述内容が,さらに少しあとの段落に挿入される「補注」でも言及されるが,まずこちらの段落で書いてみた文は「本日:2025年1月4日の記憶」にもとづいたものである)
ところで,台湾系のパソコンメーカーとしてエイスースという会社も,日本ではよくしられているが,元々はエイサーが母体の企業であった。ともかくいま思い起こしてみるに,日本ではなく台湾系の企業から本ブログ筆者が初めて買ったパソコンだという事実が,いまごろにもなってだが,あらためて再認識させられた。
〔本文に戻る→〕 国内市場では,NECや富士通などが多種多様な品ぞろえで着実にパソコンの販売台数を積み重ねていくなか,一部のメーカーはパソコンの種別や販売方式別に勢力を拡大する作戦に打って出た。
ソニーや東芝は,ノートパソコンの領域でシェアを拡大。デルコンピュータ(現デル)や日本ヒューレット・パッカードなどの海外系メーカーは,直販方式でその存在感を増していった。
カテゴリー別のシェアが均衡したかにみえた2008年1月,台湾アスーステック・コンピューター(ASUS)がネットブック「Eee PC」シリーズを発売。7型液晶ディスプレイと Windows XP を搭載しながら5万円という価格が評判となる。
その半年後には日本エイサーが「Aspire one」で追随。一大ネットブックブームが到来する。当初,ネットブックの開発に及び腰だった大手パソコンメーカーが,無視できないと判断して後追いしたのは記憶に新しい。
補注)前段に触れた話題のさらに反復した記述となるが,ここで追加しておきたい事情説明もあったので,つぎに述べておきたい。
本ブログ筆者はその2008年,通常のデスクトップ型パソコン(最小型コンパクトサイズのその Aspire シリーズの一機)を,エイサーから購入していたことを思いだした。その後6年ほど使用したあと廃棄したが,使用感としては,まあまあのパソコンであった。
そのパソコンを購入した動機は,なんといっても安価であったことで,この条件が最優先された買い物になっていた。ただ,どうしても最低限,メモリーの増設が必要であって,このメモリーを刺すのに非常にやりにくかったという記憶も,よく残っている。
〔記事本文に戻る→〕 ブームの火付け役となったASUSなどの台湾メーカーは,これまでも海外を中心にパソコンを販売していたが,国内ではマザーボードなどのパーツメーカー,あるいはパソコンの生産委託先としか認知されていなかった。
それがいま〔当時まで〕では,デスクトップやノートの分野でも国内市場で攻勢を強めている。エイサーは,2009年の世界のパソコン出荷実績で米ヒューレット・パッカードと米デルに続き世界第3位に躍り出た。このシンデレラストーリーに一番驚いているのは,旧態依然の大手パソコンメーカーかもしれない。
註記)以上の記事のリンク先住所は,http://pc.nikkeibp.co.jp/article/basic/20100702/1025908/?P=7
出典)『日経パソコン』2010年4月26日号(執筆時の情報にもとづいており,現在では異なる場合がある)。
2)レノボという会社
以下に引用する記事のなかにも,IBM社のパソコン部門が切り離され,中国メーカーに買収されてレノボ(LENOVO)の商品名でいまも継続販売されてきたが,ただし,直近(当時の)における業績はよくないことが,つぎのような記事として報道されていた。
上記の報道は,国際的な事業経営として展開するパソコン部門が「為替の影響」によって,その業績を大きく左右される経済環境に関する背景事情も指摘している。この点はレノボ社だけの問題ではなく,いまの時代においては,国際企業の事業経営を囲んでいつも発生している,ごく当たりまえの外部経済要因である。
台湾メーカーが日本市場に参入してきた動向は,2008年ころにおける円・ドルの為替レートにも注目してみる余地があった。当時における円高の傾向は堅実な基調であった。同年年頭の1ドル対110円が年末には90円までなっていた。
ところがその後,安倍晋三政権が《余計なこと》〔⇒アベノミクスというアホノミクス〕を「試みた」おかげで,さらに1ドル80円くらいまで円高に推移していた為替の水準が,現在〔2015年12月4日〕は1ドルが122円台にまで上昇した。おかげでまた反面では,その後の経過となるが,日本国内への外国人観光客は今年には急上昇増加しており,一挙に2千万人の入国が期待されてもいるが……。
補注)この「10年前に書かれていた未来予測」は,すでに現実のものとなって現出してきた。訪日する外国人観光客は2024年になると,過去最多の3337万人を記録した。
ドル対円の為替レートはただし〔最近の相場のこと〕157円台,円の国際通貨としての価値は,前段に出ていた往事の水準に比べて,その数値の半分。海外からの観光客が増えて当然,その代わり,日本国内では貧民層がじわじわ増大中。
補注の補注)この本論の話題からいくらかズレる話題となるが,つぎの最新記事を紹介しておきたい。
3)『日本経済新聞』2015年12月4日の記事に戻る
東芝,富士通,ソニーのパソコン部門が独立したVAIO(バイオ,長野県安曇野市)の3社は,パソコン事業を統合する検討に入った。実現すれば,国内シェアで3割強とNECレノボグループを抜いて首位のパソコン企業が誕生する。会計不祥事を受けて東芝が進めるリストラを機に,日本のパソコン勢が生き残りをかけて結集する再編が動き出す。(関連記事企業総合面に)
3社は近く統合に向けた具体的な交渉に入る。〔2015〕年内にも基本合意し,来〔2016〕年4月に新体制を発足させたい考え。実現すれば国内のパソコンシェアで計3割強とNECレノボグループ(26.3%)を抜いて首位に躍り出る。
VAIOが存続会社となり,各社が出資して事業を移管する案が有力。関連する人員も移し,国内外で開発から製造,販売までを一体運営する案を軸に検討するもようだ。
補注)VAIOは現在,ソニーグループから排出された(いうなれば商況的なスピンオフ)かたちで独立させられた,パソコン事業だけを専門に生産・販売する会社である。
この「VAIOが存続会社となり,各社が出資して事業を移管する案」をもって,まったくの別会社同士のパソコン事業部門を統合させるため,つまり,それらの企業合併をおこなうための「具体的な交渉に入る」段階だと報道されていた。
日本語のウィキペディア版には当時すでに,こういう解説が記入されていた。VAIOに関する解説項目から引用しておく。
ソニーが1996年から2014年6月まで販売し,2014年7月からは切り離されVAIO株式会社に移管されている。VAIO社に移って以降も,ソニーの登録商標である。 2015年,東芝,富士通,VAIOの3社によるパソコン事業を統合する検討に入った。実現すれば日本シェア首位のパソコン企業が誕生する。
いわば,複数の異社・企業間にまたがった同種製品部門(パソコン製品の製造・販売事業)を,VAIO社を軸に,つまり,なかでも販売部門はこのVAIOがすでに独自に整備している基本の条件(企業経営体としての独立的統合性)を活用しつつ,各社(東芝と富士通とVAIO)のパソコン事業部門を合併する案が実現されそうだというわけである。
しかし,以上の合併話はその後不調に終わった。その結末は現状の業界事情のとおりであるが,「富士通,東芝,VAIO の3社統合の白紙撤回報道について~大河原氏,笠原氏,山田氏の視点」『PC Watch』2016年4月18日 06:00,https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/howtoreadnews/753649.html という記事がその結末について,識者3人に論評させていた。
〔記事本文に戻る→〕 東芝,富士通とVAIOの筆頭株主である投資ファンド,日本産業パートナーズ(JIP,東京・千代田)はそれぞれ3割前後を出資する意向とみられる。
東芝は〔なんといっても〕世界初のノートパソコンを世に送り出し市場をリードした老舗メーカー。現在も「ダイナブック」ブランドのノートパソコンが主力だ。富士通も個人向けの「FMV」ブランドやタブレット(多機能携帯端末)などをもつ。
補注)つい最近のことになるが〔なおここでは「2015年当時のこと」といいかえておく〕,筆者がネット上でしりえた範囲内の話題であった。これはウィンドウズ10発売以後に起きた事象である。
東芝のノートパソコンでも若干「型遅れになった」製品が,定価(メーカー希望価格)の2~3割で投げ売り的に販売されていた。またレノボは,メール・マガジンの連絡ではときどき受信するのだが,ときに4割前後までの割引販売を敢行してもいる。
実際に筆者が使用してきたレノボのパソコンのうち何台かは,そういう価格で購入したものもあったが,仕様のかかわりで,だいたい5万円台のパソコンで調達するようにしてきた。大型家電店頭で販売されてもいる,10万円以上から20万円くらいまでもあるパソコンなど買う必要性は,ほとんど感じられなかった(通販でもむろん同じ事情)。
〔記事本文に戻る→〕 東芝は中国・杭州の製造子会社や海外販社をもち,北米市場に強い。富士通は島根県出雲市やドイツに製造子会社があり,欧州市場が得意である。2014年7月にソニーが切り離して発足したVAIOもブランド浸透度が高く,根強い人気がある。
補注)VAIO製品(薄型のノートパソコンで2013年秋発売の製品)を実際に使用した体験は,本ブログがそれが短期間のうちに “ぶっ壊れてしまった体験談” として報告した。
米調査会社IDC(International Data Corporation)によると,2014年の世界のパソコン出荷台数は3億836万台。中国レノボ・グループ,米ヒューレット・パッカード(現HP),米デルが市場の約半分を占める。富士通と東芝,VAIOの3社のシェアは約6%で世界6位の米アップル(6.3%)に迫る。
〔記事本文に戻る→〕 東芝のパソコン事業の売上高は2014年度に6663億円だったが,白物家電などとともに赤字が続く。不適切会計問題が発覚した2009年3月期から2014年4~12月期のパソコン事業の利益水増し額は578億円にのぼり,事業の売却を含めた大幅リストラを検討していた。
一方,富士通はパソコン事業を来〔2016〕年春に分社すると10月下旬に発表済み。2014年度に470万台だったパソコン出荷実績は2015年度は420万台に減る見通し。
2社の事業とVAIOを統合することで間接費の削減や部品調達の交渉力を高める。3社は統合に向けてリストラ素案を作成中。統合効果が乏しいと判断すれば,白紙に戻る可能性もある。
補注1)パソコン市場はもはや「プロダクト・ライフサイクル」論の見地から判断するに,もう充分に成熟期に到達してきた。この段階になっているパソコン市場が,そうかといって,需要がなくなっているわけではない。
補注2)3社の統合話は前段で言及したように破談になっていた。現状(2025年)を観れば分かるようにご覧のとおりに,日本の主要パソコンメーカはひとまず健在(!)であるし,それ以外にも振興のメーカも登場してきた。
〔記事に戻る→〕 それゆえ,この段階を迎えた企業経営側が製品を供給するメーカーの立場から,どのように市場(マーケティング)に戦略的・戦術的に対応するか〔できるか〕に,問題の焦点が合わせられることになる。
製品(プロダクト)のライフサイクルについては,こう説明されている。後段に画像資料も添えてあるが,まず文章での説明。
商品が市場に投入されてから姿を消すまでの流れを表わす。もともとは,人生の経過を円環に描いて説明したものであり,商品を生物にたとえた表現に応用された。ライフサイクルは,「導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という4つの段階をたどる。
また,成長期を「成長前期」と「成長後期」に分けたり,成熟期と衰退期のあいだに「飽和期」をくわえるなど,5段階や6段階のサイクルに分類するケースもある。
ライフサイクルという考え方は商品だけではなく,情報システムや運用管理,改善計画など,最近では多くのビジネス現場で使われるようになってきた。
註記)https://kotobank.jp/word/ライフサイクル-9598 参照。
補注)「プロダクト・ライフ・サイクル」を描いた画像一例。
今回,「東芝,富士通とVAIO」3社間における日本のパソコンメーカー事業部門の合併話は,その成熟期と衰退期のあいだに現象してきた「飽和期」を,これからいかに乗り切り,対応していくかという「生き残り戦略」(strategy for survival)の具体策に関心が集まっていた。
だが,この話題は潰えたためにその後,各社のパソコン事業(部門)は,さらに独自なりの経営努力によって,未来に向かい持続可能な経営体制を再整備していかざるをえなくなっていた。
4) ここで話題を少し変えると,日本の銀行それも大銀行である都市銀行の合併史をかいまみても,昔であれば考えられなかったような銀行間の合併まで実現されていた。(なお,以下の記述内容は2015年当時となる)
何日か前,地元にある三井住友銀行支店の建物(の玄関や扉や壁のこと)の前をなにげなしに通ったとき,いままでまったく気づきもしなかった「社名の記載内容」に〈遭遇〉した。
この話題はすでに一昔も時間が経過しているものなので,くわしくは触れないでおくが,要は「同行の名称ロゴ」が,両行の合併以前とはかなり変わったという印象を強く受けたということであった。そのロゴの画像のみつぎにかかげておく。緑色を基調に使った点にも特長のひとつが評言されていた。
さて,以上の記述に参照し,議論もなにやかや足してきた『日本経済新聞』朝刊の記事は,当時〔2015年12月4日〕における報道であった。さらに本日の〔ここではその翌日の〕『日本経済新聞』2015年12月5日朝刊に移るとするが,こちらの2面に,つぎの記事が掲載されていた。
※-3「パソコン苦境,再生への一歩 東芝・富士通・VAIO事業統合交渉 成長戦略待ったなし」『日本経済新聞』2015年12月5日朝刊2面「総合1」
さきに断わっておくが,前段でパソコンの製品寿命(プロダクト・ライフ・サイクル)「経過論」に関する説明では,「成熟期と衰退期のあいだ」の「飽和期」に問題の関心が向けられたことを記述していた。こちらの記事は,その点をどのように説明しているか注意しながら読んでみたい。
--東芝と富士通,ソニーから独立したVAIO(バイオ,長野県安曇野市)はパソコン事業を統合する検討に入った。近く,具体的な交渉に入る。世界のパソコン市場は2011年をピークに減少へ転じ,現在は当時より約2割縮小した。
海外の大手は減収に苦しみながらも,リストラでなんとかしのいでいる状況である。統合が実現しても,まだ生き残りのスタートラインに立ったにすぎない。
東芝と富士通は〔2015年〕12月4日,3社の事業統合について「さまざまな可能性を検討している」とのコメントを発表した。東芝の4日の株価は前日比1%安。相場全体の地合い悪化に引きずられたが「実現すれば再建への懸念材料が1つ減る」(外資系証券)など構造改革の前進を評価する買いもあり,下げ幅は限定的だった。
富士通についても「改革の遂行力が弱かったので評価できる」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮本武郎氏)といったみかたが広がった。一時は5%高と,約4カ月ぶりの高値を付けた。市場は事業統合を基本的に好感している。だが,前途は楽観視できない。
統合すれば国内でシェア3割強を握る首位になるが,世界ではわずか4.2%。縮小する市場のなかで,米国や中国などの大手と戦っていけるのか。
調査会社の米IDC(International Data Corporation)によると,世界のパソコン市場は2011年に3億6382万台だったが,その後はスマートフォンやタブレットの台頭により減少し,2015年は約2億9000万台。新興国では低価格パソコンが売れ筋になり,利幅の低下が追い打ちをかける。生き残りをかけた大手の大規模なリストラが始まっている。
補注)若干おおげさな,たとえ話になるが,映画産業に対するテレビの出現による大きな影響を,ここで想像しておくのもいい。映画産業が消滅しているわけでないから,パソコン産業の現状を理解するうえでは,多少は参考になるはずである。
また,家電製品各種(洗濯機だ冷蔵庫だ空調機器だとか)も,ここでは参考になる製品系列だといえる。要するにいまでは,パソコン(デスクトップ,ノート,モバイル)もたいして儲からないただの製品系列群にまでなっている。
〔記事本文に戻る→〕 台数シェアで約2割と首位の中国レノボ・グループは8月,パソコン事業の縮小などを理由に,世界の従業員の5%に相当する約3200人の人員削減に踏み切った。
米ヒューレット・パッカード(現HP)はパソコンの不振などで2012年5月に2万7000人の削減を発表。その後も数回にわたり,削減計画を上積みしてきた。2011~13年に最終赤字だった台湾・宏碁(エイサー)は,製品の絞りこみや従業員の7%削減などで,2014年に最終黒字を確保した。
レノボのジャンフランコ・ランチ最高執行責任者(COO)は「いずれ3~4社が市場の大半を占めることになる」と述べ,再編の動きが活発になる可能性を指摘する。
補注)レノボは,中国だけでなく,日本からも製造・販売するのが自社のパソコンだと宣伝している。それはいわば日本製である特性(製品に関する信頼性)を強調する宣伝である。ネット上にはつぎのような文章もみつかる。
統合をめざす3社の関係者は,その狙いを「部品の調達力の向上」と話す。工場や販路の共同利用も進めるとみられる。だが,世界の大手に対抗するにはさらに踏みこんだ効率化が必要だ。
きびしいなかでもパソコンの売り上げを伸ばす米アップルのように,デザインやブランド力を磨き上げれば,成長に転じることだって不可能ではないだろう。統合後もやるべきことは山積している。(記事引用・終わり)
ある結論。「企業の合併や買収」はなにも,一定の会社・特定の製品が隆盛な成長期だけに起こる経済現象ではない。
以上の記述中にも示されていたように,それぞれ製品に関して固有に発生さざるをえない「成熟⇒飽和⇒衰退」期の各段階になっていても,それ相応にたいそう重要な課題となって突如浮上してくるかもしれないのが,「企業の合併および買収」(M&A;mergers and acquisitions)の動きである。
パソコン事業にも襲来してきたこの困難な時期を迎えてだが,製品ライフ・サイクルの特定段階での「ありよう=困難な課題」を,どのようにして乗り切っていくか,
あるいは逆張り的に奮励努力し,販売面においてこそかえって,盛り返せる製品として再生できるか〔いわゆる選択と集中の戦略的な効果を上げる目標〕などの問題は,
企業経営にとってみれば,いつの時代であっても必須となるべき基本的な政策課題である。
このあたりに関する経営理論的な認識方法(単なる実践の方法ではない学問的な理解)については,あらためてさらに記述する予定である。
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【付 記】「本稿」につづく記述,「続の1」はつぎのリンク先住所になる。
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