ヘリ空母(アマガエル)が正規空母(殿様ガエル)でなくて「なん」なのか?〔続・1〕
※-1「本稿〔続・1〕」を公表するさいの断わり
a) 本日のこの記述「ヘリ空母(アマガエル)が正規空母(殿様ガエル)でなくて『なん』なのか」を初めて公表した期日は,2013年8月24日であった。そして今日は,2023年11月28日になったが,
その間に,日本国防衛省海上自衛隊がいま改修作業を終えようとする元ヘリ空母は,これを本格的な空母(正規空母)に変身させて,当事者たちが旧大日本帝国海軍の思い出にも浸れる「大海軍の夢」をいくらかでも実現させうる段階になってきた。
だが,往事の海軍における空母はけっこうな隻数を保有してきた。けれども,21世紀にいまとなっては,在日米軍(正確にはアメリカ太平洋軍)の実質隷下にあるとみなして当然である「日本国自衛隊3軍」が,海軍(海上自衛隊)において空母を保有するといっても,
これを実際に運用するとなると,すなわち,それも「いざ,鎌倉!」という非常事態(有事の状況)が発生したとき,いかほどにどのような作戦上の活用ができるのか,素人のわれわれにはまだよく分かりえない。
ただ,海上自衛隊がヘリ空母をアメリカ海軍の指導も受けて,ヘリ空母という正規空母のまがいもの(ほぼ本物に近い出来だっただが)を事前に建造・進水させてから,この軍艦を本格的な正規空母に改修する工事をそろそろ終える段階に近づき,すでに海の上に浮かばせ動かしはじめている。
b) 現状,以上のごときに関連する日本海軍の最近事情になっているが,実は本ブログは10年も前から海上自衛隊が空母をまずヘリ空母という型式で準備したおき,これをさらに正規空母に化けさせたいという欲望(もくろみ)について,一定の関心をもって記述にとりあげていた。
その本格型航空母艦への改修工事は,安倍晋三の第2次政権になってからは,それこそ正々堂々にとりくみはじめる防衛省側の仕事になっていた。
敗戦後から78年も経った時点でそのように,旧日本海軍の足元には多少近づけたかのような「軍備増強の一環」について本ブログは,昨日(2023年11月27日)における「同名の記述」(もとは2014年1月中にすでに第1回目の記事)を公開していたのにつづき,
本日のこの続編「本稿〔続・1〕」(初出 2013年8月24日)を復活・再掲させるかたちでもってし,その経緯をしかも出発点付近の事情をあらためて吟味してみたい。
なお,10年前の同じ論稿だといっても,本日なりにあらためて,あちこちで適宜に補筆(そして補正)がなされている。
c) また,この「本稿〔続・1〕」の再述に入る前に,つぎの「太平洋(大東亜)戦争」突入時において,日米海軍はそれぞれ航空母艦を何隻ずつ保有していたかを説明しておきたい。
d) いちおう,太平洋戦争は「日本海軍の真珠湾奇襲によって幕を開けた戦争」と説明されている。日本海軍にとっては「計画的な戦争」である反面,米国にとっては「不測の戦争」となっていた。
日本海軍は開戦前から1942年内の竣工をめざし,空母の建造(既存艦船からの改装)を押し進めていた。開戦から1年以内に艦隊型空母4隻(改装中であった祥鳳,隼鷹,飛鷹にくわえ,開戦後に改装着手した龍鳳)を増勢させていた。
一方,「不測の戦争」であった米海軍は開戦から1年以内に1隻も増勢させられなかった。とはいえ,開戦時の「真珠湾奇襲ショック」によって米海軍が空母の大量建造に踏み切った事は論を俟たない。
註記)以上,「日米海軍の空母増勢推移」『GS資料コーナー』http://www.general-support.co.jp/column/columun02.html 参照,2023年11月28日閲覧。
【参考記事】 -太平洋戦争開戦後におけるアメリカの生産力の実力が反映された空母(とくに軽空母)の量産については,この記事が要領よく解説している-
以上の※-1の記述を受けて,これをつぎの※-2につなげる最近の記事として,以下の『YAHOO!JAPAN ニュース』に載った関連の解説を紹介しておきたい。
画像資料にして引用する。いちいち読まなくとも,ざっと見通すだけの参照で十分に思う。
※-2「 ヘリ空母が護衛艦というなら,虎は子猫である(1)」(初掲,2013年8月24日)
◎ 1隻の建造費 1200億円
-より高価・高性能をいつでも
求めつづける軍人の性癖- ◎
まず,軍艦を実際に運用させるには,いくら経費がかかるのかなどを考えることから記述したい。
1)「海自最大の「ヘリ空母」進水 護衛艦 いずも 全長 248m」『朝日新聞』 THE ASAHI SIMBUN DIGITAL,2013年8月6日
海上自衛隊の艦艇で最大となるヘリコプター搭載護衛艦(全長 248メートル,基準排水量約1万9,500トン)の命名進水式が2013年8月6日,横浜市磯子区の「ジャパン マリンユナイテッド」の磯子工場であった。島根県東部の旧国名にちなんで「いずも」と名付けられた。就役は2015年3月ごろの予定だ。
いずもは艦橋を右端に寄せ,艦首から艦尾までの平らな甲板がヘリの飛行場になる。計9機のヘリを運用できる「ヘリ空母」として,対潜水艦作戦などで艦隊の中心的な役割を担う。ヘリを搭載しない状態では,格納庫に陸上自衛隊の 3.5トントラック約50台を載せられ,災害支援や国際協力活動にも使える。母港は決まっていない。
【参考画像】-いずも進水式の動画-
船体の長さでは,ミッドウェー海戦で沈んだ日本海軍の空母「加賀」とほぼ同じで,「飛龍(ひりゅう)」(全長 227メートル)よりも大きい。海自は「いずもには垂直離着陸型の戦闘機を搭載する構想はなく,攻撃型空母には当たらない。海上交通の保護や災害支援の任務を想定している」としている。
海自艦艇の名称は,部隊でのアンケートなどを経て,防衛相が決める。イージス艦の場合は「こんごう」「きりしま」などの山,補給艦は「とわだ」「ましゅう」のように湖の名前が付けられている。いずもは,機能が似ている護衛艦「ひゅうが」「いせ」に倣い,旧国名から付けた。
補注)いま(その後から現在のこと)となれば,この太字に換えた文言,つまり「いずも」(同型艦の「かが」も当然同じになるが)には「垂直離着陸型の戦闘機を搭載する構想はなく,攻撃型空母には当たらない。海上交通の保護や災害支援の任務を想定している」という定義的な説明は,当初から事実として虚偽であった。時間の経過のなかでその真実は判明していた。
「攻撃型空母≧支援型空母」といえそうだが,大は小を兼ねる要領を最初から採らない手はない。「攻撃型=支援型空母」を予定していたその「攻撃型空母≧支援型空母」であって,いわずもがなの想定が「非想定であるか」のように騙られる姿は聞きぐるしかった。
軍部・軍人であれば,より高性能の兵器・武器がほしいのは自然な欲求であり,いちがいに否定できない普遍的な軍事心理である。しかし,この記事に書かれている海上自衛隊の口ぶりは,こうでもない・ああでもないといっている。
実際には「だんだんと大きく・強くなる兵器(軍艦〔艦艇〕)」を調達・装備していきながら,これはたいした兵器ではない,災害活動や国際協力活動にも「使える」などといって,軍艦本来の使用目的ではない使い道を強調する。これは,本筋を外した説明である。
2)いずも型空母は艦載機も搭載できる〔というよりもそのために建造されていた(はずである)〕
つぎに参照する画像資料は『産経新聞』から借りたものであるが,いずも型空母に関しては直裁に,「改修すればF35Bの艦載も」可能だと説明していた。しかし,むしろこちらの可能性が,最初から現実味のある「予定の発想:行動」であって,いずも型空母の建造にさいしては当然,事前に準備されていた構想であったと受けとるのが自然。
つぎの『産経新聞』の記事(図解)は8年前の2015年3月時点のものあったが,当たりまえのことを当たりまえに指摘していた。
つまり,昔:大日本帝国海軍時代の航空母艦に,ほぼ相当する艦艇を建造・配備しておきながら,これについては当初,
「攻撃型空母≠支援型空母」だと騙りながらも
「攻撃型空母≧支援型空母」なのだから
「攻撃型空母≒支援型空母」へと
実際のところは,すりかえ的に話しをずらしつつ,そしてさらに
「攻撃型空母⇔支援型空母」といえることはくわえて確かだから,
そのさい「大は小を兼ねる要領」を最初から採らないわけもがなく,結局「支援型空母⇒攻撃型空母」があって,当然も当然だよねという帰結に逢着していた。
「帯に短し襷に長し」などといったふうな兵器は,それもとくに軍艦の場合は造らない。帯にも襷にも間に合う,余裕のある間尺(性能諸元)で軍艦は造るほかない。なにせ戦争の道具・手段の話であった。
その肝心な要点は,軍事目的のための軍艦が,それ以外の目的を,しかも派生的な関係しかありえないそれを,わざわざ訴求するかのように説明するのは,不自然な発想,意図的なごまかしである。
船であれば川や海に浮かぶことに関しては共通するかもしれないけれども,軍艦〔潜水艦か,駆逐艦か,巡洋艦か,戦艦か,空母かなど〕であるのか・客船であるのか・輸送船であるのか・油槽船であるのかによって,その用途はまるで異なるにもかかわらず,
軍艦のことを聞かれているのに,「これも船ですから海に浮かぶ〈船〉です」といったかのようなトンチンカンな応答は,禅問答にもならない。それどころか,実に馬鹿げた,それも珍問答以下の〈愚答開陳〉である。それも,意識的になされているご明答であるからには,よけいタチがよくない。
ネット上には軍人でなくともそのあたりの疑念について,こう関説するブログもみつかる。フジテレビ(『産経新聞』系放送局)のニュース報道をとりあげた意見であった。
「海上自衛隊『いずも』型の空母化 “検討報告” から見えてくるもの ~FNN PRIME 2018年4月29日」『ヤマネの森 Livedoor』2018年4月30日,http://yamaneforest.livedoor.blog/archives/528884.html は,より正直にこのように解説する文章を書いていた。
※-3「軍艦と軍人と艦長」(海軍艦艇問答)
以下の記述はしばらく,「rin********さん 2013/3/30 12:27」の「海上自衛隊の空母について質問です。」『YAHOO!JAPAN 知恵袋』,http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13104770043 という問答に聞いてみる。なお,補注の部分は本ブログ筆者の記述である。
--ところで,空母を保有するということは「操船」以外に「航空」の要員とハードが必要となるため,莫大なコストを要する。ならば汎用護衛艦を10隻保有したほうが,という理論は私も賛成です。
空母と引き換えに汎用護衛艦をコストの理由で退役させたなら,たちまち役職インフレが発生し,「艦長になりたくてもめざせない」状況は軍にとってもっとも重要な「士気」低下を招きます。
補註)ここでいわれていることは「戦争のときの話題」ではなく,平時における海軍軍人が「艦長になれる割合の問題」にかかわるものらしい。もっとも,艦長になれるとはいっても,日本の海上自衛隊で軍艦の艦長になるには,士官学校(防衛大学校)を出ていないとなれないゆえ,
高級将校に昇進して「艦長になれる可能性をもつ人材」に限定した話であることに,注意しなければならない。海自兵曹から艦艇の艦長になれる可能性など,ラクダが針の穴を通るよりもっと困難,どだいありえない話であった。
1) 回答1-ヘリ空母保有に関する解説〔を超える説明〕-
回転翼機の運用は,固定翼機と比較し大幅に低コストであり,かつ「ひゅうが」型〔を運用する場合に〕は,平時は3機の運用である(最大11機運用可)。これまでDDH(ヘリ搭載型護衛艦)でも2機運用の艦はあった。そして兵器システムが一般護衛艦と比較してもシンプルであり,砲雷要員は少なくできる。コストの観点からは,退役の大型護衛艦の代替として十分な理由がある。
【参考画像】-空母甲板で垂直離着するシーハリア機-
空母保有については戦後直後から,何度も検討研究され予算化されており,実際にシーハリアー〔垂直離着陸機の戦闘機〕導入も真剣に検討されていた。海上自衛隊としては空母保有は現在でも悲願の構想である。
たとえ回転翼〔ヘリのこと〕といえど,全通甲板にて航空機を運用する事でのノウハウ蓄積,建造中の次期ヘリ護衛艦は19,500トン。旧海軍の空母「飛龍」より大型である。あくまでもヘリ護衛艦となるが,国際情勢しだいでは間違いなく固定翼空母に転用できる工業力を日本は有している。
補注)そのとおりであって,アメリカ軍の指導があるとはいえ,空母をこれから運用していく能力・実力じたいは,いまの海上自衛隊でも潜在的に十分に備えているから,前段の指摘はすでに現実の段階としての「空母の問題」に言及していたことになる。
2) 回答2-憲法第9条との関連,対米従属国の軍隊-
まず「専守防衛」という政治的な理由を念頭に置き,また,自衛隊は艦船建造計画がある場合「相談」というかたちではありますが,必らず米軍の意見を聞く慣習となっており,これまでは第7艦隊の補助艦艇としての海自,と考えていた米軍の意向がありました。
ただし,近年の極東情勢から日本のさらなる負担を求め,空母型護衛艦については米軍も異論を挟んでいない。
補註)ここではあらためてとなるが,空母型「護衛艦」という形容矛盾(自家撞着)の軍艦呼称に注意したい。空母は通常,多数の護衛艦(巡洋艦・駆逐艦など4~5隻以上)の「護衛」付きで作戦行動するものであり,単艦で行動することはない。
自衛隊(海上自衛隊)では,軍艦はなんであっても「護衛艦」と称している。さすがに潜水艦までは護衛艦と呼んでいないようであるが,ヘリ搭載型の空母まで〈護衛艦〉と呼ぶことになると,もう説明がつかない牽強付会のこじつけもきわまった,という感じである。
もっとも,昨日(2023年11月27日)の記述中には,「護衛艦の導入を長く担当した香田洋二・元自衛艦隊司令官は,こういっていた。
『いずもは,空母とはまったく本質を異にする船。空母が将来,必要になるなら,国民に必要性を説明したうえで造るべきだ』」
という自衛隊の高官の説明を紹介してあった。
護衛艦という海軍艦艇に関する名称そのものが,そもそも不自然であった。防衛軍や国防軍であっても,侵略戦争にさいしては「自国防衛」だとか「祖国防衛」だとかいった大義名分をかかげてその侵略の行為を,平然とおこなってきた。
〔記事に戻る→〕 予算的な事情もあり固定翼運用空母を保有しないのは事実です。地上基地から出撃する邀撃機・攻撃機に対し現在では空中給油能力を有しております(いつの間にか5機も空中給油機をもっています)。
艦載固定翼の運用は空自なのか,海自なのか,というテーマもあり,世界常識としては海軍航空隊となりますので,今日・明日の運用がスタートはできないです。
対して,対潜哨戒機は行動半径に制約があり,艦隊随伴の対潜哨戒としてのヘリは一層の拡充が必要となりました。P-3C,P1は艦載には大型すぎます。
潜水艦狩りの最後の詰め,としても固定翼機は必須となります。米空母は12機程度の対潜ヘリを艦載しており,空母戦闘団全体で20機近い運用となります。それだけないと艦隊を守れない,という事になります。
補註)以上,要は「ヘリ空母だけでなく通常型の空母も必要です。日本の自衛隊はいろいろ制約があるので,いまのところは,ヘリ空母で我慢しているのが現状です」という点を,とくに強調・宣伝したかったらしい説明に聞こえた。
しかし,2020年代にもなった現時点になってみれば,そのような説明の内容のうち「我慢」という「現状」は,すでに過去における指摘になったとしか受けとりようがない。
〔記事に戻る→〕 高速の原潜への脅威,という理由もあります。隣国は保有を加速しております。隣国封じこめが現在最もホットなテーマであり,対潜ヘリ空母はクサビを担っております。
なによりも,対戦時に日本近海にて米軍潜水艦により相当数の被害をこうむったトラウマを海自は有しております。また,これも政治的ですが大戦のトラウマにより「有事にさいし,航空母艦を失うインパクトは計りしれず,ヘリ護衛艦ならばインパクト低い」との防衛省幹部発言もありました。
註記)以上の記述は,「rin********さん 2013/3/30 12:27」の「海上自衛隊の空母について質問です。」『YAHOO!JAPAN 知恵袋』,http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13104770043 であった。
補註)ここまでの話は完全に,戦争ゴッコの次元を完全に超えていた。日本周辺海域における対潜水艦作戦に必要な空母と戦闘機の必要を強調したい文章になっていた。
いまの自衛隊は実質的に軍事面での宗主国であるアメリカに,なんでもお伺いを立ててからでないと,万事うまく運ばないという断わりがなされていた。
第2次大戦中,アメリカの潜水艦に,軍艦だけでなく,輸送船を徹底的に撃沈されつづけた日本帝国の記憶を披露しながら,いま,日本の海軍〔海上自衛隊〕は「どの国の軍隊(海軍)」の潜水艦から国を護るというのか?
仮想敵国にアメリカを想定しうるのか? 軍事論からいえばそうしなければならないが,軍事面で完全に対米属国になりはてている「いまの日本」には当面不可能な想定。
となるとそれは,中国か? 韓国か? はたまた通常型の小型潜水艦を相当数保有している北朝鮮か? そしてロシアは?
この程度の軍事関係情報はすでに,海上自衛隊内では承知の範囲内と思われるが,その議論をはっきり外部には示さない,それも一般大衆(国民)には分からないように,手前勝手な〈説明〉だけは工夫・検討している様子がうかがえる。
『防衛白書』を本気になってそのすみからすみまで読む人は,めったにいない。
なお,本ブログがヘリ空母を記述したのは,下記のものである。つぎの ※-4以下につづく記述に関係させていえば,中国も空母(旧ロシアが建造中に廃棄した空母を復旧・完成させた)を保有しているが,この事実についても記述してみた。
※-4「新海自艦『いずも』,中韓刺激 中国紙『侵略の艦艇と同名』」『朝日新聞』2013年8月9日朝刊
1) 中国の関心
海自の「ヘリ空母」進水のニュースを中国各紙が1面で大きく扱っていたという。2013年8月6日に進水式をした海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」をめぐり,中国が敏感に反応している。
〔中国の〕国防省は「高度な警戒」を表明。各紙は「中国を侵略したさいに使用した旧日本海軍の艦艇と同じ名前だ」などと批判している。同艦は全長 248メートル,基準排水量約1万9,500トンで,広い甲板に5機のヘリが同時に離着陸できる。
国際的にはヘリ空母とされるが,憲法上の制約から攻撃型空母は保有できないため,海自は「護衛艦」と位置づけている。中国各紙は8月7日,1面で「准空母が進水した」などと写真付きで大きく報道。
「(垂直離着陸の出来る)F35B戦闘機を搭載すれば,さらに強力な攻撃能力を備えられる」(共産党機関紙や人民日報系の環球時報)。
国営の中国中央テレビも「1~2カ月の改造で通常の航空母艦として運用できる」との専門家の見方を伝えた。さらに中央テレビは,日清戦争で清国からえた賠償金を原資に建造した旧日本海軍の装甲巡洋艦「出雲」と同じ名だとも指摘している。
補註)かといって,日本のヘリ空母に対するこのような報道をする中国も『遼寧』(次掲写真)という空母を保有している〔2013年段階の話題〕。この空母は旧ソ連が建造していた “ヴァリャーグ” であった。
ところが,ソ連崩壊後は,その建造は中断・放置されていた。中国が,この艦体をくず鉄としてウクライナから購入したのち,この航空母艦の未完成だった艦体を航空母艦として完成させ,実際に艦艇として運用できる段階までにした。
中国がスクラップ行きから拾い出し,再生した,空母として生き返った艦艇は,『遼寧(りょうねい:Liaoning)』と命名されていた。つぎにこの遼寧を図解を示しておく。
就役は2012年9月25日,排水量は軽荷で 43,000トン,基準で 53,000トン,満載で 59,100トン。全長 305.0メートル,(飛行甲板 270メートル),全幅 73.0メートル,吃水 11.0メートル。最大速力 29ノット,航続距離不詳。乗員 1,960名,兵装 1130型 CIWS 3基,HHQ-10SAM 18連装2基,搭載機 67機(推定)。
註記)「空母『遼寧(リャオニン)』『MONOSEPIA』についてはつぎの指摘も参考になるが,やや偏執的に反中・反韓の記述。⇒ http://www25.atwiki.jp/monosepia/m/pages/5262.html
補注)「すわ,開戦じゃ。大連造船所で大修繕した中国空母「遼寧」と最新鋭,海上自衛隊ヘリ空母,ひゅうが型,2番艦『いせ』の パロディー」『ようこそ中国へ』2012-10-26,https://da-lian.hatenadiary.org/entry/20121026/1351261207 も参照した。
2) 韓国の関心
韓国の有力紙・中央日報は8月7日付朝刊で1面に写真を大きく掲載し,「広島原爆投下68周年の日 空母級護衛艦進水式」との見出しをつけた。3面で,広島での平和記念式典の様子と対比するかたちで進水式の模様を報道。規模や運用能力からみれば事実上の空母だと指摘した。
※-5 日本国自衛隊にとって有する「ヘリ空母の意味」
1) 小川和久の指摘
憲法で第9条を「他国に対して誇る」この日本国は,さすがに軍事費でアメリカを超えることはありえなかったものの,軍事費(防衛費)を対GNP比率で1%,対国家予算比率で5~6%に抑えているよう努力してきた日本が,それでもその予算が多いときには,第2位に食いこんでいた事実は軽視できない。
なお,以上は為替レートの関連をひとまず除外した話である。もっとも,小川和久『日本の戦争力』アスコム,2005年は,日本の軍事費についてその中身=実質を理解する必要を,つぎのように説明していた。
日本の自衛隊(軍隊)が現状の防衛費で整備できているのは,せいぜい「中くらいの国」としての軍事力である。自衛隊の問題は戦力の中身にあり,軍隊として均勢のとれた総合力を備えていない。譬えていえば,一部は大学院生並みの水準まで高いが,違う部分は幼稚園燃焼組みや新生児の次元である。
具体的にいえば,海上自衛隊は「単能海軍」と呼んでよいほど「単一の機能」が突出し,対潜水艦船(ASW:anti-submarine warfare)能力では世界最先端(トップクラス)であっても,これ以外の能力は備わっていないに等しい。
もちろん空母も戦艦も巡洋艦も原子力潜水艦も強襲揚陸艦もない。航空自衛隊も,その「単能空軍」の色彩が強く,防空戦争能力は世界で最先端の実力である。しかし,長距離の航空攻撃が可能な本格的な戦略爆撃機はもたない。
註記)小川和久『日本の戦争力』アスコム,2005年,42-43頁。以上の説明のうち,いまでは妥当しえない部分はすぐに分かるが,あえて指摘しないでおく。
小川和久の解説によれば,「日本の自衛隊が現わしている戦力面の特性」は,なまじ憲法第9条を看板にかかげている国家日本が「軍備・兵器」の整備・充実を図る方向において発現させざるをえない制約や限界を,それも「歪んだかたち」で正直に反映させている。
ただし,日本の自衛隊が単純に「空母も戦艦も巡洋艦も原子力潜水艦も強襲揚陸艦もない」と断定するのは,日本で他者に追随を許さないトップクラス軍事専門家の発言としては,詰めを欠いていた。
2) 中国海軍空母「遼寧」
海軍軍人であれば,艦艇については原子力潜水艦から本格空母まで「一通りとりそろえたい」と強く願望する。これは,いつの時代においてもかわらぬ海軍魂が発揮する欲求である。
中国のばあい前述に触れたように,旧ソ連邦が1988年11月に進水させていたものの,同国が瓦解したため竣工まで至らず放置された空母「ヴァリャーク」の艦体を,2002年3月に入手してあらためて建造しなおし,艦名を「遼寧(Liaoning)」と名づけて,2012年9月に正式に就役させる段階までこぎ着けた。
本格的な航空母艦しての「船体規模:排水量」を有するこの「遼寧」は,排水量〔基準:53,000~55,000トン,満載:67,500トン(この数値は前述と若干相違があるが,軍事情報ゆえ許容範囲)〕で,全長 305メートル〔うち飛行甲板 270メートル〕,全幅 73.0メートル,吃水 11.0メートル,乗員 1,960名,搭載機 67機(推定)であるが,非原子力空母であり,とくに最大速力 19ノット以上(20ノット前後の速力)は,30ノット〔前後:以上〕の性能が一般的ななかでは,数段の見劣りがする。
「遼寧」は,アジア地域で空母を保有する国家がないとはいえ,アメリカ海軍第7艦隊が横須賀基地に常備され運用する原子力空母「ジョージ・ワシントン」(排水量満載時 104,178トン,最大速度30ノット以上)の敵にはならない。それでも,中国が空母を現実に配備した事実は,アジア諸国にとって,軍事的な脅威を増す要因である。
【追 記】 「中国の空母,半年ぶり大連帰港」という『日本経済新聞』2013年8月26日の記事は,こう伝えていた。
3)「日本の航空母艦:ヘリ搭載空母《ひゅうが型護衛艦》」
それでは,日本が空母を保有していないかといえば,そうではない。空母もどき〔限りなく空母に近いが〕の艦船はすでに建造し,実戦用に配備している。
小川和久は「もちろん空母も戦艦も巡洋艦も原子力潜水艦も強襲揚陸艦もない」と,日本の自衛隊の戦力を表現していたが,指摘したようにこれは明らかに誤導的な記述である。
小川和久『日本の戦争力』は2005年12月5日に公刊されていた。
日本は,2004年度および2006年度の国家予算によってそれぞれ,1万3500トンのヘリコプター搭載大型護衛艦を建造することを決めてきた。2009〔平成17年〕3月にその1番艦「ひゅうが」(16DDHと呼ばれている)が就役し,2011〔平成19〕年3月にその2番艦の「いせ」(18DDH)が就役していた。
小川はまさか,このヘリ搭載大型護衛艦「ひゅうが型護衛艦」(JMSDF DDH Hyuga class)の建造・配備計画を,軍事研究の専門家として事前にしらなかったはずがない。
◎-1 海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「ひゅうが型護衛艦」は,これ〔この記述がなされた当時〕まで,海上自衛隊が保有してきた護衛艦のなかで,最大規模の艦型である。全長 197メートル,排水量基準:13,950トン(満載推定:19,000トン),全幅 33メートル,吃水 7メートル,最大速度 30ノット,最大積載ヘリ機数 11機である。推進動力や搭載されている装備も最新鋭である。
ところで,海上自衛隊ではすべての軍艦(艦艇)を「護衛艦」と呼称している。これは,日本国憲法第9条と「なんらかの深いかかわりがある」名称である。旧日本海軍の話,太平洋戦争中の基準で考えたみたい。
戦闘能力として機動性と汎用性を重視された巡洋艦は,戦艦の小型版として登場していた。ロンドン軍縮条約(1930〔昭和5〕年4月調印)にしたがい,基準排水量 1850トン以上で「空母以外の艦」を巡洋艦と定義し,8,000トンを区切りにこれ以上を重巡洋艦,それ以下を軽巡洋艦とした。
そうした軍艦の分類を適用すれば,重巡洋艦(Heavy Cruser)が巡洋艦のなかで大型のものを指しており,1万トンくらいまでの艦艇を意味する。排水量基準:13,950トン(満載推定:19,000トン)ある,海上自衛隊のヘリ空母『ひゅうが』や『いせ』は,
往時の航空母艦には及ばないけれども,この重巡をしのぐ排水量をもつ「ミニ航空母艦」を,それも「護衛(!)」艦と称して海上自衛隊が保有することの軍事的意味は,どのように受けとめればよいのか?
海上自衛隊の場合,主力部隊である護衛艦隊は4個の護衛艦群からなり,1個護衛隊は8隻の護衛艦で編制される。その内容は,イージス護衛艦とヘリコプター搭載護衛艦とが主力艦となって,これに通常の護衛艦6隻がくわわり,8隻で編制される。
繰り返すが,海上自衛隊の主力艦艇であるイージス艦やヘリ空母さえも護衛艦と呼んでいるところが,軍事専門家にいわせなくとても,いささかならず奇妙に聞こえるほかなかった。
旧日本海軍風にいえば,戦艦や航空母艦にこれを護衛させる艦艇,巡洋艦や駆逐艦などをくわえて編制し,「戦艦部隊」とか「空母艦部隊」と呼んでいたものが,現在の海上自衛隊では,護衛される主力艦艇のイージス艦やヘリ空母までも護衛艦と呼んで部隊が編制されているだから,語感からし基本的におかしいと思わないが,よほどおかしい。
◎-2 旧日本海軍はたとえば,小型空母(軽空母)の代表的な艦艇として祥鳳(しょうほう)--祥鳳型航空母艦1番艦で,もとは剣埼型潜水母艦剣埼を事前の計画どおり空母に改装した(空母として,1942年1月26日に就役)--を保有していた〔1942年5月7日珊瑚海海戦で喪失〕。
この祥鳳の「性能諸元(航空母艦改装時)」は,排水量基準:11,200トン(公試:13,100トン),全長 205.50メートル,全幅(水線幅):18.0メートル,吃水 6.64mで,飛行甲板の長さ:180.0メートル,その幅:23.0メートル,最大速力 28 ノット(計画),艦載機は艦上戦闘機18機・艦上攻撃機9機・補用3機(艦戦)であった。この祥鳳型空母は「《空母》であった」。
◎-3 旧日本海軍さらにたとえば,本格型空母の代表格の艦艇であった瑞鶴(ずいかく)--翔鶴型航空母艦の2番艦,就役 1941年9月25日--も保有していた〔1944年10月25日エンガノ岬沖海戦で喪失〕。
この瑞鶴は,排水量基準:25,675トン(公試:29,800トン,満載:32,105トン),全長 257.5メートル,水線幅 26.0メートル,平均吃水 8.87m (公試状態),飛行甲板の長さ:242.2メートル,その幅:29.0メートル,最大速力 34.2ノットは出した。搭載機は,常用72機(零式艦上戦闘機18機・九九式艦上爆撃機27機・九七式艦上攻撃機27機),補用12機であった。
以上に説明した海軍艦艇の一般的な基準に照らせば,海上自衛隊のヘリ空母型(!?)『護衛艦』は「ヘリ搭載〈型〉の空母」ということで,憲法第9条を強く意識・反映させたのか,いささか奇手めいた兵器の搭載理由を採用していた,そういう軍艦として説明されていた。
このヘリ空母は,通常型の空母に改装(改造)しようと思えば,そのためには一定の時間を必要とするにせよ,新しく空母を建造するよりも手早く,小型ながらも本格空母に向けて装備の転換ができる。
前項の◎-2に説明した,旧日本海軍の小型空母「祥鳳」は,「日本海軍の祥鳳型航空母艦1番艦。元は剣埼型潜水母艦の剣埼であった」といわれ,この空母には戦前〔準戦時体制中から〕における特殊な事情がまとわりついていた。
当時,日本も調印したロンドン海軍軍縮条約(1930年)は,航空母艦保有量を制限していたので,日本海軍は事前に航空母艦に改造可能な艦船を建造しておき,その条約の制限を躱(かわ)す便法を講じておいた。
ヘリ搭載空母「ひゅうが」も,いつ・なんどき,緊急の必要に応じて「小型(軽)空母」に変身しないとは限らない。以上の記述に登場した3艦,ヘリ空母「ひゅうが」,小型空母(軽空母)「祥鳳」,本格型空母「瑞鶴」の性能諸元を,つぎの表に並べてみてみた(筆者作成資料,「註記の文章」については,本日のこの記述に前後させて参考にしてほしい)。
補注)今日の時点となれば明解になっているが,ヘリ搭載空母「ひゅうが」(同型艦の姉妹艦:2番艦が「いせ」)ではなく,本格的な正規空母のヘリ空母としてその後につづいて日本の海上自衛隊が建造した,やはりヘリ空母である「いずも型」のうちまず「かが」が,正規空母への衣替えを終える時期が近づいている。
4) ヘリ空母が護衛艦ならば「虎も子猫と呼んでいい」
以上の説明については,前田哲男『自衛隊-変容のゆくえ-』岩波書店,2007年が,海上自衛隊のヘリ空母「ひゅうが」が就役する以前に,こう指摘していた。
「これほどの大型艦をよぶのに護衛艦とは少し違和感を覚えるが,自衛隊の主要水上艦艇はすべて護衛艦に分類されている。他国や旧海軍のような巡洋艦,駆逐艦といった区別はない」
「排水量7,700トンの〔イージス艦〕『こんごう』も1,290トンの『いしかり』も,ひとしく護衛艦と称する」
「ほかの国の基準でいえば『16DDH』は,『へり空母』ないし『軽空母』にあたる。ふつうの護衛艦は中央部の艦橋(ブリッジ)で前後に二分されるが,防衛省公表の『16DDHの概要図』でみると,艦橋が右舷に寄せられ『全通甲板』が艦全体をつらぬく。まぎれもない空母のシルエットである」
「『持てない兵器を』を名称のいいかえによって手にする,防衛当局の独自解釈・・・である」
註記)前田哲男『自衛隊-変容のゆくえ-』岩波書店,2007年,141-142頁。
「ヘリ空母解説」の仕方について
前田哲男『自衛隊のジレンマ-3・11震災後の分水嶺-』(現代書館,2011年)は,『防衛白書』2010年版資料編にもとづいて,現状における海上自衛隊の装備を,つぎのように解説〔分析?〕している。
事実上の「空母」が誕生するのも特徴である。海自の水上戦闘艦艇は,すべて「護衛艦」と称してきた。「駆逐」艦,「巡洋」艦には攻撃的なイメージがあり,“非九条的” だからだ,戦車を「特車」と称したのとおなじ官僚的発想である。
だが,イージス艦「こんごう」をとると,排水量7,250トン。外国では「巡洋艦」に区分される。また〔20〕09年に竣工した護衛艦「いせ」,〔20〕11年就役する「ひゅうが」は,基準排水量1万3,950トン,満載1万9千トン,195メートルの飛行甲板と2基の搭載用エレベーターをもち,外観上「ヘリ空母」そのものと見える(各種ヘリ10機の運用可能)。
つぎのこの画像資料は,上から「いずも型空母」「ひゅうが型空母」と並ぶ。一番下の「おおすみ」は,海上自衛隊が運用する輸送艦の艦級を示し,「おおすみ型輸送艦」を指す。ただし,英語表示では “ Ōsumi-class tank landing ship ” となり,英語の呼称としての艦種記号では「戦車揚陸艦(LST)」。
それでも依然,海上自衛隊の艦艇はすべて「護衛艦」に一括区分される。さらに,目下〔当時〕建造中で,名前がまだないが「二二式護衛艦」〔 → 22DDH艦:「いずも」のこと〕はいっそう大型化しており(基準1万9,500トン,満載2万4,000トン),
その完成見取り図をみると,だれの目にも「航空母艦」にしかみえない。ヘリ14機搭載,甲板を強化すれば V-STOL(短距離離着陸機)を運用できる〔し,実際そのなっている〕。このような空母型およびイージス型 “護衛艦” が海自兵力の中核になろうとしている。
陸自に2011年度から導入される新戦車。これはアメリカ製でなく,ほぼ完全な国産戦車だが,120ミリ滑空砲という国際級戦車砲をそなえる。戦車砲の口径の大きさは,陸軍戦力のシンボルだから,直径12センチの砲弾を発射する世界第一級の戦車をもちながら,「自衛隊は軍隊ではない」などということのほうがおかしい。
註記)前田哲男『自衛隊のジレンマ-3・11震災後の分水嶺-』現代書館,2011年,152頁,61頁。〔 〕内補足は筆者。
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【未完】 「本稿〔続・2〕」は出来しだい,ここに住所を記入する。
⇒ https://note.com/brainy_turntable/n/ne641ca472dc4
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