ドラッカー『現代の経営』1954年ならびに『創造する経営者』1964年
※-1 文献は正確に読もう! BCG所属の経営コンサルタントの貧弱そうな読解力が気になっていたが,その後改善されたか?
文献は正確に読みたい ものである。かつて観察できていた「BCG所属の経営コンサルタント」の雑駁な読解力は,その後改善されたか?
付記)冒頭画像の出所は,https://www.bcg.com/ja-jp/about/people/experts/kentaro-mori
その「かつて」とは2011年10月時点のことであったが,いまは2023年3月に入った時期である。その後はいかに?
ピーター・F・ドラッカーの名著の1冊であるが,『現代の経営』(The Practice of Management)1954年がすでにいっていたことを,ただ平坦に読み流したらしい経営コンサルタントの読解力が気になっていた。その後12年半が経過したが,気づいてくれたか?
要点・1 文献購読はまずなによりも,その原典を忠実に理解することが第1義的に重要な注意事項
要点・2 ドラッカーは「経営思想の神様」にあらず,オカルト的に追随するのは要警戒
【参考記事】と【画像】
※-2「〈森健太郎と読む「マネジメント」〉(1)経営学の父 求められるもの,平易に説く」『日本経済新聞』2011年10月17日朝刊「キャリアアップ」の解説記事
2011年10月17日付『日本経済新聞』朝刊に掲載されていた上記コラムの「解説記事」は,当時なりにドラッカーの理論を解説していた。
その記述についてはまず,その解説のなかにみいだした “おかしな理解,不正確な説明部分” を指摘する。ともかく,経営コンサルタント森健太郎のその文章全体を,さきに引用しておく。なお,a),b),c) …… の符号は本ブログ筆者である。
a) 連載の初回を飾るのは経営学の父,ピーター・ドラッカー(1909~2005年)著の『マネジメント』〔1973年発行〕です。ソニー創業者の故盛田昭夫氏やファーストリテイリングの柳井 正会長兼社長などドラッカーの愛読者は数しれません。必読の経営書を一冊だけ挙げるなら間違いなくドラッカーの本でしょう。
b) ドラッカーの著作は多岐に及びますが,その中核をなすのが,経営論三部作です。1954年に『現代の経営』を発表,企業の中核機能は「マーケティング」と「イノベーション」であると論じます。1964年の『創造する経営者』では経営戦略を正面からとりあげ,企業の目的は「顧客の創造」であるとしました。
c) そして,ドラッカーが万人のための経営学として世に出したのが,いまも世界中で広く読まれている1966年の『経営者の条件』です。1973年にドラッカー経営学の集大成として書かれた『マネジメント』は,翻訳版は1000ページを超える総合書です。
d) ドラッカーのことばは分かりやすく,数式や難解な理論はありません。若い読者が手にとると,当たりまえのことが並んでいてなにがすごいのかピンとこないかもしれません。最初はそれでもかまいません。
将来,初めて部下をもったとき,全社プロジェクトに抜擢されたとき,壁にぶち当たったときなどに,ふと本棚のドラッカーを思いだして,また読んでみる。すると,ドラッカーは必らず,新たな気づきを与えてくれ,励ましてくれます。私もそうでした。
e) 今回とりあげる『マネジメント』〔1973年〕のなかでドラッカーは,現代社会を「組織社会」ととらえて,マネジメントこそが「社会の要」であり,社会の中核を担う崇高な存在であると位置づけます。
社会の進歩と人の幸せは,企業,政府,NPOなどのさまざまな組織が,マネジメント層によっていかにして運営され,どれだけの成果を生み出すことができるかにかかっているからです。
f) そして,マネジメントは「実践と行動」によって誰にでも学べるものであると説き,企業にとって,管理職にとって,そして経営陣にとって,具体的になにが求められているのかを考察します。 (ボストンコンサルティング)(引用終わり)
※-3 疑問に感じた不正確な記述部分
経営学を専攻してきた本ブログの筆者は,昭和40〔1965〕年10月に新しく日本語訳でもって公刊された『現代の経営 上・下』(ダイヤモンド社)を,学生時代,ある教員のもとで徹底的に読まされた体験を有する。いまも書斎の棚には傍線がたくさん引かれた同書が並んでいるし,これをときどき手にとってつまみ食い的に読むこともある。
さてそこで,経営コンサルタント森健太郎が,前項※-2 の b) で,
☆-1『現代の経営』1954年で「企業の中核機能は『マーケティング』と『イノベーション』であると論じ」,
☆-2『創造する経営者』1964年で「経営戦略を正面からとりあげ,企業の目的は『顧客の創造』であるとし」た
と説明するのは,全然正確ではない。というか,厳密にいえば完全に間違いである。
ドラッカー『現代の経営』(1965年の日本語訳,上)「5 事業とは何か」には,「顧客の創造」という項目が同書の47-48頁に説明されているが,これを受けてさらに「企業の2つの基本的機能」である「マーケティング」と「イノベーション(革新)」が記述されていく(48頁以下)。
以上の事実を飛ばして森のように,1964年の『創造する経営者』では経営戦略を正面からとりあげ,「企業の目的は『顧客の創造』であるとしました」というのは,ドラッカーが『現代の経営』1954年ですでに「顧客の創造」という事業目的観を提示していた点を, ※-2 の b) のように解説することによって,わざわざその事実を10年も遅らす「恣意的な理解=不正確な読解」を,しかも『日本経済新聞』上でわざわざ披露したことになる。
たしかに『創造する経営者』(日本語訳,ダイヤモンド社,昭和39年)も,第6章「顧客あっての企業」のなかで「企業の目的は,顧客の創造にある」(136頁)と書いているが,実は,この段落にはきちんと,ドラッカー自身による「原注」が付けられていた。
ドラッカーは,こう断わっていたのである。
10年まえに,筆者の “ The Practice of Management ”(New York and London 1954)(『現代の経営』現代経営研究会訳,自由国民社,昭和31〔年。これは本書の日本語初訳〕)ではじめて〔その「顧客の創造」を〕述べたことを再言すれば……(137頁)。
付記)〔 〕内補足は引用者。
結 語。 要は,正確に文献を読み,間違ってもデタラメを,おまけに大手経済新聞の解説記事に書くのは止めてほしいと思う。「経営の実践」(The Practice of Management!)にたずさわる経営コンサルタントだから(?)といって,けっしてゆるがせにしてはいけない「文献購読」のあり方であるはずである。
森健太郎は,ケンブリッジ大学物理学部卒業という学歴ももつゆえ,英語力は堪能だと推測しておく。ドラッカーの本を,英語(原語)で読むにしても,また翻訳(日本語)で読むにしても,その内容じたいの理解・判読がおろそかであってはなるまい。
ドラッカーが『現代の経営』1954年に提唱していた重要な企業に関した概念:「顧客の創造」を,『創造する経営者』1964年にまでわざわざ延期させたなると,ドラッカーが提唱したその「顧客の創造」を,不必要かつ不正確に10年も送らせたことになる。
学問・研究の世界では,いつ・誰が・どのように「新規とみなせる定義・概念・理論」を構想したり公表したりしたかという「時期の問題」は,けっしてないがしろにできない。この点は,自然科学・人文科学・社会科学・情報科学のどの分野であれ,あえて指摘するまでもない大事な留意次項であった。
日本にはドラッカー・ファンが大勢いる。本ブログ筆者のしるかぎり,今回のごとき「ドラッカー本」をめぐる「明確な読み違い」を指摘してくれた関係者がいないのは,残念なことであった。
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