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偏見と差別の問題,出版社における編集者の力量が低下したのか?

 ※-1 出版物における「偏見と差別の問題」は,最近ではだいぶ改善されてきたが,まだごくタマにだが関連して,出版社における編集者の力量が低下してきた事実を教えられることもある

 「表現の自由・言論の自由」と「差別的用語の問題」は,21世紀の現段階になっても完全に存在しなくなったのではない。

 本日のこの記述はいまから13年前に公刊されていた,佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』2011年に関する疑問点,具体的に指摘するなら「歴史の解釈を奇妙に歪曲する著作」だという正直に抱いた読後感をもって,議論を試みてみたい。

 なお,以下の記述は「前段のその話題」にたどるつくまで,たいぶ寄り道をしていく記述となるので,事前に断わっておきたい。

 まず「〈天声人語〉トランプ人気の懸念」『朝日新聞』2015年12月12日朝刊から引用して,以下に関連する議論をおこないたい。

 これはだいぶ以前の天声人語であるが,当時の話題として,次期の大統領選挙を控えていたアメリカ国内の政治事情に関して,つぎのような寸評をくわえていた。

 聖夜の近づく季節だが,アメリカでは日本ほど無邪気に「メリークリスマス」を口にできない。他の宗教を信仰する人への配慮かメリークリスマス画像ら,あいさつも宣伝も無難な「ハッピーホリデーズ」が広まった。それに憤る牧師を在米中に取材したことがある。

 ▼ 「公立学校では『きよしこの夜』もだめ。クリスマスツリーはコミュニティーツリー。米国の宗教的伝統に対する迫害だ」。クリスマスをとり戻せ,という牧師の活動に広く賛同が集まっていた。

 ▼ 多文化主義の流れのなかで,少数者を尊重してきた国である。一方でそれを「きれいごと」と苦々しくみる人もいる。「建前優先の社会に一石を投じることができた」と牧師は語っていた。そんな10年前の取材を,トランプ氏のニュースに思い出した。

 ▼ 米大統領選への出馬を狙う不動産王は,過激な発言が止まらない。移民などへの暴言や放言を繰り返している。ところがいいたい放題が受けて,共和党の候補者争いでトップを走っている。

 ▼ 「本音で語ってくれる」というのが理由のひとつらしい。多民族社会の建前にあからさまな言葉で穴をあけて,民衆の溜飲を下げるのがうまいと聞く。テロを追い風に,その勢いは,社会の不安や不満を吸って膨らむ風船を思わせる。

 ▼ 遠そうにみえて,メリークリスマスが封じられる不満とトランプ人気は実は近い。建国このかた,多様な移民の受け入れは米国の象徴だった。不寛容と排斥の言葉に社会がからめとられていかないか。海の向こうが気にかかる。

『朝日新聞』2015年12月12日「天声人語」

 アメリカ合衆国に関しては,WASPということばがある。これは White, Anglo-Saxon, Protestant の頭字語であり,アイルランド系・ユダヤ系・黒人などに対し,北米大陸アメリカへの初期の入植者の子孫である「アングロサクソン系でプロテスタントの白人」を,そう呼んできた。

 とりわけ,19世紀後半以降に流入してきた移民たちにとって,アメリカ人になるとは,すなわち,WASPの文化・価値観・生活様式を受け入れ,それに同化することであった。

 WASPによる支配構造は揺らぎつつあるが,その誇りと特権意識は,いまなお健在である。だが,この語は昨今では,マイノリティーの側からの否定的言辞,さらには蔑称として用いられることも少なくない。

 註記)井上 健東京大学大学院総合文化研究科教授,2007年。『コトバンク』https://kotobank.jp/word/WASP-181236 参照。

 前段のトランプによる過激発言は,こうしたWASP側に属するアメリカ内の社会集団の「本音のさらにホンネ」の部分,その根っこに隠されている〔控えている〕「他人種・異民族」に対する優越と差別の意識を,不条理な精神構造を構えていながらも,臆するところなく披露していた。それも大統領選挙に共和党の立候補者として出るための選挙戦術として,トランプはそのようにあえて言動してきた。

 補注)ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump,1946年6月14日生まれ)は,アメリカ合衆国の政治家・実業家。とくに第45代アメリカ合衆国大統領(2017年1月20日~2021年1月20日)を務めていた。

 不動産業の富豪として著名で,リアリティ番組の司会などタレント業もおこなったのち,2016年の大統領選に共和党から出馬して当選し,合衆国大統領を一期務めた。

 またトランプは,今年(2024年)11月に予定されているアメリカの大統領選挙には,共和党から再び立候補する予定だと目されている。

 補注)トランプの政治屋としての基本的な人間特性をめぐって,たとえば,今年2月時点で『東洋経済 ONLINE』が掲載したつぎの記事が参考になる分析をおこなっていた。


 ※-2 トランプの発言問題は,差別社会学や民族社会学,国際社会学などの研究領域にとってみれば,とうてい看過できない問題を投じていた。だが,ひとたび日本国内に目を向ければ,例の〈ヘイト・スピーチ〉が盛んであるこの国は,アメリカの出来事を対岸視できない内情をかかえている

 a) 日本のある首相(すでに過去の人だが)は,このヘイトスピーチを禁止する法制が必要だという声に対して,言論の自由を彼なりに異様に強調したがり,そうした声:意見を,ほとんど無視していた。

 もっとも,この国におけるまともな言論の自由などは,裏舞台からさんざんぱら実質的に禁圧してきたのが,その首相の本当の立場・利害であったゆえ,そのような為政を自分が実際におこなっていながら,まったく無関係でありうるかのようにとぼけていた。その「以前の政権担当者」とは,いうまでもないが,あの安倍晋三であった。

 ここでは,フランスの政情に触れてみたい。いまは,その娘(つぎの画像資料の人物)が当該の極右政党を率いているが,オヤジの時代のときみたく「単純に極右の発想:イデオロギー」を散開することばかりに熱心な政治は推進できなくなってきた。

父子ゆずりの極右政治家マリーヌ・ルペン

 b)『ニューズウィーク 日本版』2015年11月18日(水)18時04分に発信された,ミレン・ギッダ稿「ル・ペンという『テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン』」https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/11/post-4130_1.php という記事は,当時のフランスの政情について,つぎのように解説していた。

    ☆ イスラム過激派の脅威と移民排斥を訴えてきた
        国民戦線が,ここぞとばかりに党勢を拡大中 ☆

 あれだけの惨事〔2015年11月18日にフランスで起きた約130人の死者を出した同時多発テロ事件〕があったいま,パリで笑顔をみつけるのは難しい。先週の同時多発テロの現場や,市中心部の共和国広場では,ろうそくや花束を手に集まった人びとが人目もはばからず泣いている。例外があるとすれば,マリーヌ・ルペン率いるフランスの極右政党「国民戦線」だろう。

 ルペンはこれまでに数えきれないほど,イスラム過激派の脅威について警告し,国境管理の強化を主張してきた。先週末のテロは,ISIS(自称イスラム国,別名ISIL)につながる過激派が実行したとされ,実行犯の1人は遺体の近くにシリアのパスポートがみつかっている。

 ルペンにとって都合のいい「証拠」ばかりである。フランスでは3週間後に全国規模の地方議会選が予定されており,そこで国民戦線が歴史的な勝利を収めるのではないかと危惧する声が上がるのも当然だ。

 補注)なお,こういう続報があった。--(CNN) フランス〔2015年〕12月6日,地域圏議会選挙の第1回投票がおこなわれ,極右政党の国民戦線(FN)が大きく支持を伸ばし,第1党に躍進しそうな勢いをみせていた。

 補注)また,今年(2024年)6月になっての,まったく新しい局面に関する報道であったが,欧州議会選挙とその結果を受けてエマニュエル・マクロン大統領が実施を決めた国民議会(下院)の解散・総選挙の結果は,マリーヌ・ルペンの率いる極右政党「国民連合(RN)」が,これまでにない大躍進を果たした,という。

 しかし,その後の経緯では,そのRNが政権の中枢を占める結果にはならず,総選挙後に「政治空白」が続いたあとの2024年9月21日,マクロン大統領率いる与党連合と,バルニエ首相(73歳)の所属する中道右派の共和党の議員を中心に起用した閣僚名簿との布陣でもって,つまり,右派色の強い顔ぶれが目立つ新内閣がようやく発足した。

この補注1・2は2024年になっての話題

 c)〔この項目は〕「フランス地方選 極右政党が躍進,テロ不安が追い風」『CNN』2015年12月7日,Mon posted at 15:51 JST,https://www.cnn.co.jp/world/35074556.html からの引用を,しばらく挿入して記述している。

 --130人の死者を出したパリ同時多発テロに対する憤りや移民政策に対する反発が追い風となった。FNのルペン党首はCNN系列局のフランス2に対し,今回の選挙結果2件は,同党が「フランスの第1党」であることを示したと語った。

 ほぼすべての開票を終えた時点で,得票は全国的にFNが首位に立っている。サルコジ前大統領が率いる中道右派・共和党がその後に続き,オランド大統領の中道左派・社会党は3番手。最終的な結果は〔2015年11月〕13日におこなわれる第2回投票で決定される。10%以上の得票を集めた党が2回目の投票に進める。

 社会党は2つの選挙区で撤退を決めた。社会党支持者が共和党候補者へ投票することで,FNの議席獲得を阻みたい考え。一方,サルコジ氏は,社会党を有利にするために共和党が選挙区から撤退することはないとの考えを示している。(『CNN』2015年12月7日からの引用終わり)

〔ここから再度,b) の記事本文に転じて戻る→〕 マリーヌ・ルペンはこれまで,父であり同党の創設者であるジャンマリ・ルペンがつくり上げた党の極右イメージを払拭しようと努めてきた。しかし,テロのわずか数時間後の記者会見では態度が一変。「イスラム・テロの拡大」を非難し,国境の厳重な管理で過激派を壊滅させるべきと訴えた。

 歴史的にユダヤ人が多く住むパリのル・マレ地区でも,国民戦線が今回のテロを機に党勢を増すのではないかと心配する人びとがいた。国民戦線は,ジャンマリ・ルペンの時代には,敵意に満ちた反ユダヤ主義で有名であった。

 実際,国民戦線の支持者はお祝いムードだ。退役海軍将校のジャンクロード・フラジュロ(65歳)は,1974年からの同党支持者。国民戦線こそがフランスを救うと,彼はいう。--「テロ攻撃はフランスにとって大惨事だった」と,フラジュロ。

 テロリストの出入りを取締まれないフランス政府も大惨事だという。フラジュロにいわせれば,国民戦線は「解決策もなく,ただそこに居座っているだけ」の現政権とは違う。

 「複雑な問題に簡単な解決策を提示」。同党支持者は人種差別主義者やイスラム嫌悪主義者ばかりだという批判に対しては,「人種差別主義者はどの党にもたくさんいる」と,フラジュロは反論する。「私はナショナリストで,イスラム過激派のことを心配しているだけだ」。

 彼らの主張は,イスラム過激派の市民権を剥奪し出身国に送り返すこと,国境管理も厳しくして過激派予備軍の入国を阻止することだ。国民戦線の支持者の要求は,テロ後のオランド大統領の姿勢にも反映されている。

 ルペンや中道右派のサルコジ前大統領といった政敵からの攻撃をかわすため,同時多発テロを「戦争行為」と強い言葉で非難し,フランスが「(テロとの)戦いを主導する」と宣言した。

 フランス空軍はすでに,ISISが首都と称するシリア北部ラッカへの大規模空爆を開始している。オランドがテロとの戦いに舵を切る一方で,国民戦線も着々と準備を進めている。世論調査での支持率上昇を追い風に,ルペンは2017年の総選挙で躍進し,大統領選をうかがう構えである。

 国民戦線の党員バルラン・ドサンジュスト(60歳)は,パリの議会選に立候補する予定である。ドサンジュストは,本誌の取材に対し選挙では国民戦線が勝利すると語った。「得票を増やすことは間違いない。国民戦線はテロ問題の解決策をもっている」と。

 国民戦線のかかげる「解決策」とは,一言でいえば難民を拒否すること。「これ以上,難民を入れるべきではない」とドサンジュストはいう。「そのうちの何人かがテロリストになる」。

 一方,フランス政府がテロにどう対応するかはまだ明確ではない。テロ実行犯のうち少なくとも1人がまだ捕まっておらず,銃撃戦やテロ予告なども起こっており,国内問題で手一杯。ヨーロッパの難民危機のような複雑な問題に対処できる状態にない。

 テロ発生から数日間で露呈したように,現政権はそれでも今後,ますます勢いづく国民戦線からの攻撃から身をかわし続けなければならないだろう。
(以上で『ニューズウィーク』2015年11月18日からの引用終わり)


 ※-3 フランスのテロ事件は他人ごとではなかったはず-ルペン父娘と安倍晋三の共通性-

 フランスで最近起きた,それも世界の人びとの気持を震撼させたテロ事件(2015年12月7日)はある意味では,欧米帝国主義史がいまとなってみずから必然的に惹起させた〈歴史的に因果の責任にあるそれ〉であった。

【参考記事】-『時事通信』から-

 
 ルペン(親子:父娘)のような極右政治家がもしも,「国民戦線」--この〈国民〉という概念・規定からして問題ありであるが--的に,なんらかの政治思想をもっているにしても,この人物がフランスの大統領にでもなったら,それこそ歴史は不幸に・悲劇的に繰り返される可能性=危険性が大だといわねばなるまい。

 補注)前段にも言及があったように,今年(2024年)の6月から9月にかけてようやくまとまった「フランスの政権確立をめぐる各党間の連立模様」は,その陣容の中身として各党の性格や理念はさておき,日本の場合,とくに野党が政権を獲得するためには,それをみて辛抱強く学習すべき実質があったと思われる。この指摘はもちろん,選挙に挑む事前の体制作りに関している。

 ところが,今(10)月27日に予定されている衆議院の解散総選挙では,自民党を解体させる勢いにはとうていなれないほど,野党側が四分五裂状態ゆえ,自民党の候補者たちは首をすくめつつも薄笑いを浮かべながら,その野党の支離滅裂ぶりを観察してもいる。

 裏金脱税問題も統一教会問題も,当該の政党の議員たちが選挙で再選されれば解消(禊ぎ?)できるような「簡単な問題」ではあるまい。またとくに世襲議員の存在と介在ぶりが,日本の選挙制度の中身を「中世化しつくしている状態」であるにもかかわらず,これを是正しようとする姿勢は自民党に関しては完全に絶無。

補注

 第2次世界大戦後におけるフランスと植民地との政治支配・従属的的な「国際関係史」をよく回顧しつつ,現在,フランス国内で起きている政治紛争テロ問題を観察しなければならない。

 20世紀の歴史を再び「愚かな方途」で反復させないための方策を,いまからでも早急に本気で講じておく必要がある。その関連から日本帝国主義史について考えるに,他人事のつもりでフランスの現状をながめていればいいわけでは,けっしてない。

 この国は,その種の政治・社会・思想などの諸問題に対してとなると,いままで,極力「三猿主義」で過ごしてきた。つまり,その種の問題に関しては〈低度の免疫〉すら接種されていないような国でありつづけようとしてきた。

 しかも,最高指導者(ここではもちろんあの故・安倍晋三)が2012年12月26日以来,7年と8カ月もの長い期間,そもそもにおいてが万事が「幼稚で傲慢」「暗愚で無知」であったまま,それでいて,圧倒的多数を占める国会勢力を後ろ盾に,ただし「みかけだけ」は民主的な独裁政治を,その間強権的に継続していた。

 その点に限って観れば,日本は実質,欧米諸国よりも奇妙・奇怪に極右的に先走った的な,独裁政治が進展させられてきた,といってもなんら語弊はない。

【参考画像】-パロディー的に作成された安倍晋三君の画像

そういえば
麻生太郎もヒトラーを評価するような発言をしていたが


 なんといっても,それがいま〔当時〕の自民党安倍晋三政権の実体なのである〔あった〕。実質的には「民主的にする多数派による絶対的な独裁政治路線」を,それも得意顔でおこなってきた。

 今年の日本,インバウンド効果がいよいよ好調になってきたが,日本の産業経営でビックな大企業は「世界順位では39位になんとか食いこんでいるトヨタ自動車」以外,DXだGXだと叫ばれている割には,全然冴えない日本の産業経済の全般的な動向のなかで,いままで徐々に確実に貧乏国になってきた自国で自慢できるのは,この記事の程度でしかなくなってきた。

現状日本において平均的な庶民は

「外国人観光客たち」が
われわれがふだんは喰えなくなった「高級食材使用のウマい料理」に舌鼓を打つ姿を
指をくわえてながめるだけの立場にまでおちぼれた

いつからわれわれはそのような後進国の人間の態様にまで落とされたのか?
インバウンド効果(!)っていったい誰のためのものか

 以上の記事はつぎの記事とは裏腹の関係で,つまり抱き合わせで読むほかなかった。くわしい説明は不要である。

大勢として・平均的な状態として
われわれの経済生活はいつも赤字傾向の世帯が多い

手持ちの貯金額がじりじり減ってきているが
そうはいってもこの話題は

まだ貯金がまだある程度もてる所得層でのこと


 ※-4 最近読んだある本に関する疑問点

  1)差別用語の問題

 以上までけっこう長くなった記事は,最初のところは実は,冒頭にかかげた主題や副題の文句に関して,ごく序説的な内容のつもりで書いていた。ところが,書きはじめたら,なにやかや長めの記述になっていた。

 フランスの政治,日本の政治それぞれの背景に控えている文化・思想・伝統・歴史に関しては,またそれぞれ特有の性質がある。日本で一番めだつ「偏見や差別の問題」でいえば,たとえば出版物において部落差別の表現がこれまでもしばしば問題にされ,社会の耳目を引く論点を提供してきたことがよく発生していた。

 新聞発行や出版物発行でおいては「差別用語(差別語)」が使用されないための配慮が,最大限なされている。そのせいか,政治・社会の問題となると,あまりにも禁止用語も多いせいか「表現の自由」とのかねあいでむずかしい線引きを,どのようにおこなえばいいのかという問題も回避できない。

 差別用語はウィキペディアをみると,「他者の人格を個人的にも集団的にも傷つけ,蔑み,社会的に排除し,侮蔑・抹殺する暴力性をもつことば」のことをいう,と定義されている。この説明のなかには,元NHK職員だった池田信夫は,こういう指摘・証言をしていたとも記述されている。

なにかと議論好きの池田信夫
 

 「NHKのニュース解説で〈片手落ち〉という言葉を使ったのはけしからん,と部落解放同盟の地方支部の書記長がNHKに抗議にやってきた。協議の結果,この言葉は放送で使わないことに決まった」と。

 2)最近出版された本のなかに出ていた差別的な用語と思われることばの使用法

 さて,最近(だいぶ以前のことだった「当時」),本ブログ筆者が読了した本に,佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』交佐藤篁之表紙通新聞社,2011年があった。だが,この本を読んでいる最中にであったが,前段までの記述と関連させていえば,驚くような表現が登場していた。その箇所を引用する。

 「関東軍主導で選考がおこなわれその結果誕生した松岡〔洋右〕総裁は選考意図とは異なって軍の方針に逆行するさまざまな言動で警戒を呼ぶ。ついには,満鉄にとって重要な改組問題のいくつもの重要事項の進展からつんぼ桟敷におかれるような具合となってしまったのである」(210頁)。

 このように,『つんぼ桟敷』という表現が,2011年〔6月15日〕発行の本のなかで使われていた。現在,部落解放同盟の立場からは,この種の表現に対して,どのような具体的対応がなされていたのか(?)はしらぬが,ここではその詳細を解説することはせず,つぎのような指摘がある点のみ紹介しておく。

 「部落差別」とされて糾弾を受ける表現にはいくつかのパターンがあり,たとえば「特殊部落」「屠殺」「士農工商◇◇」など(◇◇には「サラリーマン」とか特定の商売人とか職業人の名称が入る)である。  

 部落解放同盟としてはいちおう,文脈をみて糾弾する〔か否か〕という建前になっているらしく,実際には同じ文脈で同じ発言をしているのに「差別発言」として糾弾されたり,されなかったりしてもいる。  

 補注)2020年9月30日で営業が終了していたが,http://matome.naver.jp/odai/2136808693535273101, 2013年7月1日の記述が「ここがヘンだよ部落解放同盟『差別発言』糾弾の矛盾と謎-同じ文脈で同じ発言をしているのに『差別発言』として糾弾されたりされなかったり,糾弾される人と,されない人の違いは何でしょう?-」と題して,その具体例をいくつも紹介していた。

 そのサイトの記事を「興味ある人はのぞいてほしい」ところだが,現在は削除されたサイトとなっているので,ほかにも関係する禁句一覧がどこかに掲示されているものと見当を付けておき,ここではこれ以上触れないでおく。   

 この記述でとりあげるのは,佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』2011年に顔を出した「つんぼ桟敷」という用語である。この表現はどうして問題になっていたのか? 

 一般的には,出版物のなかでは特別の理由(前後関係・文脈の都合)がなければ,使用しない用語だと,本ブログ筆者は考えている。すなわち,その語感が障害者や身体的欠陥・病気または身体的特徴を想起ないしは連想させるさい,不用意かつ不注意に悪印象をもたせかねない用法になりがちであるし,常識的な感覚でもその因果は容易に判断できるという点をもって,その特別の理由がないかぎり,使用はなるべく控えたほうがよい用語だと理解されている。

 3)歴史の事実を歪曲したい記述の内容

 ところが,その佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』この本のなかには,ほかにも疑問を抱くほかなかった段落が数カ所みつかった。こちらは差別用語の問題ではなく,歴史の問題をいかに叙述するかについて疑念が生じていた。

 それにしても,その執筆のしかたがあまりにも幼稚だというよりも,なにか特定の意図を控えさせているらしい様子までも感じさせていながら,そういった記述の方法・内容がしかも,「歴史の事実」を曲げる意図があったかのように表現が駆使されていた。確かにそのように感じさせるほかない段落があったと指摘しておく。

 ★-1「満洲事変の理解」について

 まずこう書いていた。「これは関東軍による独断での実力行使であり,実行犯は関東軍高級参謀河本大作大佐であったとされる。これが『満洲某重大事件』としてしられる事件の概要だ」(105頁)。

河本大作・画像

 この記述はいわゆる「満洲事変」の内容を書いていたわけであるが,このように戦前の時点に舞い戻ったかのような書き方をしており,かなり奇妙であった。

 その事変を起こした幹部軍人の1人,その「実行犯は関東軍高級参謀河本大作大佐であったとされる」というような修辞法は,現在では判りきっている「歴史の事実」から故意に目線を離しており,いまだにそれから目を背けていたい旧帝国時代的な価値観を正直に表わしている。

 しかも,前段に引用した少し前の行ではさらに,満洲事変を起こした日本軍(関東軍)による鉄道爆破について,そのために張 作霖が「乗車していた特別列車が爆破に巻きこまれ」たなどと,まるで張が偶然にもこの事変(そもそもはもともと狙われていたにもかかわらず)に「巻きこまれたのだ」とでもいいたいかのように,事実の歪曲も極度にはなはだしい筆法を駆使している。

 ★-2「中国残留日本人」について

 またこうも書いていた。大日本帝国が敗北し,満洲帝国も消滅した時期での記述である。

 「満鉄はもう満鉄ではなくなっていました。満洲国全体がなくなってしまったわけですから,そうなると,満鉄では教育をうけていない人たちが列車を動かす。それは中国人でありロシア人でした。列車は同じでも,運転技術も操作方法もきちんと教育を受けていない人たちが運転する列車には乗れないと考えたひとたちが少なくありませんでした。その結果,残留孤児などといったことが起きたわけです」(169-170頁)。

 この指摘が問題になるのは,満洲国敗戦史の全体構図にかかわるある場面に関して,当時はこのように「きちんと教育を受けていない人たち〔中国人・ロシア人〕が運転する列車には乗れないと考えたひとたちが少なくありませんでした」「その結果,残留孤児などといったことが起きたわけ」だと記述していた点である。

 だが,この点は実証的に説明された説明にはなっていないし,そもそもの指摘からして乱雑な論旨であったどころか,八つ当たり的に筆法を乱舞させた「ものいい」,つまり責任転嫁を平然と犯す論調にもなっていた。

 字面にこだわって批判するほかないが,「きちんと教育を受けていない人たち」であっても,見よう見まねでSLの運転操作ができないのではない。残留孤児を生んだ在満日本人たちは,8月8日のソ連軍参戦後は,引き上げるにさいしてはそもそも列車には最初から乗せてもらえない人びとであった。

 しかも,その類いの「この人びとが少くありませんでした」という説明は,なんら具体的な根拠すらない想像力を働かせての文句であった。だいたいにおいて,そこまでいいたかったのであれば,満州・満洲国関係に関しては2011年時点までであっても,非常に多くの文献・資料がすでに与えられていたゆえ,そのように自分の思いつきだけ語ったような論旨は,完全にバツであった。

 満鉄のなかには,中国人でもロシア人でもそれなりの地位・職位や仕事・職務に採用・従事していた人びとがいないわけでなかった。その事実じたいは,この佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』も関説しており,重々承知であるはずの「歴史(=満鉄史)の事実」であった。

 前段に紹介したごとき,佐藤篁之『「満鉄」という鉄道会社-証言と社内報から検証する40年の現場史-』のなかに散見される奇妙で不可解な段落・記述は,著者の単なる個人的な感傷に留まっていた叙述であった,としか受けとりようがない。それらの論点は,歴史的に確実な根拠のある記述にしあげてから,表現を工夫して書きこむ必要があった。

 それなりにできるかぎりは明確に,関連したその事実史をきちんと調査,解明したうえで,議論したり付説しておくべきところを,「ああ,満鉄!」とでも形容してみたらよいような「懐旧的話題の主観的な次元」においてのみ,それも恣意に先走ったと観られるほかない独断的な解釈論が,もっぱら記述の前面に押し出されていた。

 4) ま と め

 以上の論点をここまで書いて説明した側の立場からいえば,そこには「出版社の編集能力」の問題も伏在していたと推測するほかなかった。この本に限らず,同じ種類の疑問を抱かせるほかない書物を,最近ではなぜかときたま手にすることがあった。

 筆者が1年間にまともに読めとおせる本は,せいぜい3百冊から4百冊程度でしかない。それでも,そういった実情に現に遭遇しているのだとしたら,最近における編集者たち側における「専門的な能力の実際的な水準」に関する疑問は,いったい,なにをどの程度まで心配しておくべきか。

 以前,岩波書店から発行されたある本のなかに(これは本ブログ内で言及してあった点だが),朝鮮戦争のとき朝鮮半島(韓国側では韓半島と呼ぶ)の大地に上には「1㎞平方メートルあたりではなく,1m平方メートルあたりに投下された爆弾の量」が「1トンだった」と書いていた本に出会ったことがある。

 註記)白 宗元『在日一世が語る 戦争と植民地の時代を生きて』岩波書店,2010年,172頁・10行参照。

 結局,出版社側の最終的な校閲ミスだと推理するほかなかった誤植は,その「正しい単位:1㎞平方メートルあたり」を「間違った単位での:1m平方メートルあたり」で印刷された状態のまま,当該の本は出版物として流通していったことになる。

 岩波書店から出版される本は,本ブログ筆者の場合,何百冊を呼んできたか分からないけれども,「 ,」や「 。」などの若干のみだれに数回出会った以上に,とくに気づけた校正の未熟さには,一度も接したことがなかったゆえ,前段のようなミスには本当にビックリさせられた。

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