東電福島第1原発事故現場の後始末「廃炉工程」終了までの期間は,事故発生の2011年から30~40年後の2051年で終えるとされた,しかしこの「白昼夢的な物語」に根拠はなく,とうてい不可能な日程を提示しただけであり,もとより原子力核工学的な根拠すらなかった
※-0 脳天気な『日本経済新聞』2024年11月3日朝刊のこの記事
最初にともかく昨日であったが,11月3日の朝刊に『日本経済新聞』はこういった内容の記事を掲載していた。
この記事のなかで燃料デブリを試験的に取り出す作業に成功し,5ミリ程度のそれを回収できたというけれども,重量はどのくらいか? ごくほんのわずかである。数グラム単位のそれであった。
この重さの話は直感的に分かりにくいので,つぎのように,比較の材料になりうる硬貨の重量を,ひとまず参考にまで一覧しておきたい。なお,東電福島第1原発事故となって溶融事故を起こした原発3基(1号機,2号機,3号機)内には,約880トンの燃料デブリが溜まっている。
1円硬貨: 1.00g
5円硬貨: 3.75g
10円硬貨: 4.50g
50円硬貨: 4.00g
百円白銅貨幣:4.80g
新500円硬貨 : 7.1g
※-1 本日の記述としてかかげた「論題」を念頭に置き,あらかじめこう断定しておかねばなるまい
まず,東電福島第1原発の事故発生からすでに13年と8カ月近くが経過した現時点になっているが,その間に流れてきた「年数」の経過に関係させた「計算の話」となる。
さて,東京電力は,原発の事故現場において溶融したデブリ取り出しのためにかかる年数として,「2011年プラス40年」を見積もっていた。すなわち2051年にその作業が終了すると見通している。
しかし観方によるが,「2051年-2024年」であと「27年」しか年数がないのであれば,事故発生後の今年までにおける年数のその倍の年数でもって,「デブリ取り出し」などの《廃炉工程が終了できる》とした見通しは,あまりにも甘すぎた。
※-0に紹介した〔昨日の2024年11月3日の〕『日本経済新聞』朝刊の記事は,当座しのぎの不確かな観測気球を揚げたごとき論調であった。ともかく事実関係だけに,当座的にかつ表面的に触れて報道するに留め,このデブリ取り出しの問題をめぐる困難に,多少でも言及した記事の内容としては書いていなかった。
いかにも原発推進派の日経らしい編集方針が徹底されたかにも感じられる筆致であった。
要は,東電福島第1原発事故現場における廃炉工程として,その目標が据えられていた予定の日程は,あと「2051年-2024年=27年」で終了できるとしていたが,そのような可能性はなく,絶無だと断定されてよい。
その点は専門家にいわせるまでもなく,素人の本ブログ筆者でも関心をもって関係の書物を読んで勉強してきたなりに,速攻でも理解できるつもりである。
前段に画像資料で紹介した日経記事の場合,「2051年-2024年=27年」という年次日程が,まともに実現されるわけななどありえないにもかかわらず,それでも,あえていっさい触れようともしない意図でもって書かれていた。そのように解釈せざるをえなかった。
ある意味,事実報道に徹したつもりの記事を制作し,今回の報道をしていたつもりかもしれないが,それにしても「一定限度は故意にズサンな話法」に,その記事は徹していた。というのは,最低限でもその種の記事であれば最低限でも触れておくべき問題から完全に逃避していたからである。
そうした「日経の原発関連記事」(冒頭にかかげたのはその一例)は,以下の記述中でも批判していくつもりであるが,つぎの※-3はまず,5年前の解説となるが,つぎの記述を参照することにしたい。
※-3 エネルギー戦略研究所 “ シニアフェロー” 竹内敬二「No.121 福島原発事故の処理,廃炉は何年かかる? 40年前の米TMI事故炉の廃炉も未着手」 『京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座』2019年4月4日,https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0121.html
福島第1原発事故の8周年が過ぎ,廃炉処理に何年かかるのか,費用はどこまで高騰するのかが,あらためて問題になっている。政府と東電は,廃炉作業は30~40年で完了し,事故の総費用は21. 5兆円(廃炉には8兆円)との数字を示しているが,このほど民間シンクタンクが「35兆円から81兆円」という大きな数字を出した。より多くかかるとした主な理由は,見通しのつかない汚染水処理だ。
過去の原発大事故をみると,40年前に起きた米スリーマイル島原発事故炉では廃炉作業は未着手であり,ウクライナ・チェルノブイリ原発事故(1986年)の処理には今後100年が必要ともいわれる。原発事故は,驚くほどの時間と費用がかかるケースが多い。
a) スリーマイル島原発,燃料を一部残し,廃炉未着手
今年(2019年)3月28日は,米国スリーマイル島(TMI)原発事故の40周年だった。原発の2次冷却系のトラブルで蒸気発生器に水を送る主給水ポンプが止まり,原子炉の冷却がしばらく止まった。炉心の核燃料の多くが崩壊し,一部が溶融した。圧力容器は破れなかったが,炉の下部には,折れて崩れ落ちた燃料が折り重なった。
補注)東電福島第1原発事故現場では,溶融事故を起こした3基はすべて圧力容器内でメルトダウンを起こし,さらに格納容器の底面にまでメルトスルーするにまで至っていた。しかし現在でも,その原子炉と周辺の損害状況が余すところなく詳細に把握できているわけではない。
〔記事に戻る→〕 TMI事故は「多重防護で守られた原発では大事故は起きない」という安全神話を最初に砕いた事故だった。
【参考画像資料】-以下の2点-
事故炉では,1980年から除染作業が始まり,1985年から炉内の燃料の取り出しが始まった。圧力容器の下部には燃料が溶融後に固まった堅い層があり,鉱山で岩石を砕くボーリング機を使ったが,機械の歯の破損が続くなど難渋を極めた。
取り出し作業は一応1990年に終えたが,燃料の一部は除去できていない。事故が起きた2号機とは別に,1号機は運転中だったため,廃炉処理は1号機の停止後におこなうとして,そのままの状態で置かれている。
その1号機は,赤字経営が続いていたが,今年9月に停止する予定で,その後,本格的な廃炉作業に入る。ただ今後,なんらかの補助金などが受けられるようになれば,運転続行もありうるとされる。
補注)その1号機のその後について,本ブログは関説していた。つぎの記述を参照されたい。ビル・ゲイツが登場し,AIを原因とする電力需要の増大に応えるために,すでに廃炉が決まって稼働を休止していた,この1号機を再稼働させる計画を提案していた。
b) チェルノブイリ,処理は「100年事業」
チェルノブイリ原発事故では,炉心の屋根が吹っ飛んで(格納容器がない炉型),溶融した炉心が大気に露呈し,大量の燃料が放出された。炉心周辺で火災が起き,消火作業などで30人近くが死亡した。主に急性放射線障害だった。
事故後,多数の被爆者を出しながら,半年をかけて,コンクリートパネルなどで「石棺」と呼ばれる覆いが建設された。その石棺も老朽化したため,事故後30年の2016年,石棺をすっぽり覆うかまぼこ型の巨大なシェルター(1700億円)をEUが建設した。耐用年数は100年以上。いまは,外から事故炉がまったくみえない状態になっている。
炉心には溶けて固まった大量の燃料が放置されている。今後は,時間をかけて放射性物質の処理方法を検討する。外部に取り出さず,その場で処理,保管する案も有力。時間が経てばそれだけ放射能も弱まることから,処理開始も送れることになりそうだ。「処理には100年かかるだろう」といわれている。
c) 福島,汚染水が難題。「30~40年で完了」は疑問
さて,福島第1原発。経済産業省による2013年12月の試算では,事故の総費用は総額11兆円(廃炉2兆円)だったが,3年後の2106年12月の試算では総額21.5兆円(廃炉8兆円)に跳ね上がった。なかでも廃炉の見積もりが,一気に4倍になった。それほどに予測が難しいことの裏返しでもある。(表2)
東京電力は福島第1原発の廃炉に関する工程表をつくり,逐次改定している。その特徴は「30年から40年で廃炉が完了する」という「短さ」だ。完了時期は2040年代~50年代になる。
主な工程としては,「使用済み燃料の取り出し」「燃料デブリの取り出し」「汚染水対策」「廃棄物対策」と並んでいるが,しかし,デブリの取り出し,汚染水の処理,廃棄物の最終処分などは見通しが立っていない。
溶けた燃料が炉心の底にとどまっているのは,チェルノブイリ事故と似ている。大きく異なるのが,地下水だ。福島の原発3基の壊れた炉心は,地下水の流れの中にあり,常時汚染水を生み出している。
福島では汚染地下水を減らす方策として,つねに電気で氷の壁を維持する「凍土壁」が建設されたが,水の遮断性においては信頼性が低く,失敗とみられている。
今〔2019〕年3月,民間シンクタンク「日本経済研究センター」が,事故の対応総費用は「35兆~81兆円にのぼる」という試算を公表した。大きな部分を占めるのが廃炉・汚染水処理などで最大51兆円とした。そのほか賠償で10兆円,除染で20兆円だった。
今後,どんな処理方法を選ぶかによって,費用は大きく異なるとしている。「溶けた核燃料デブリを取り出さず,廃炉を当面見送って『閉じこめ・管理する』いわゆるチェルノブイリ方式だと,2050年までの総費用は35兆円になる。
汚染水の処理や汚染土を最終的にどう処分するかを決めなければ,事故処理はどの程度の時間と費用がかかるかわからない。「30~40年で完了」は,事故直後に,当局がかかげた希望的な数字の意味合いが強い。
日本経済研究センターは「デブリの全量回収は可能で被災者はいずれ全員帰還できる」という楽観シナリオだけでなく,悲観的なシナリオも含め,その根拠も含めて示すべき」と,現実性のある事故処理,廃炉シナリオで議論すべきとしている。
d) 事故炉でなくても「100年事業」,英国の原子力施設
英国は,ガス炉原発を約40基建設したが,多くが停止している。またウラン濃縮施設,途中まで開発した高速増殖炉など,20地点近くで廃炉作業が進んでいる。廃炉や除染を担う原子力廃止措置機関(NDA)は各地点の廃炉計画を作っているが,どの施設をみても,費用の大きさ,期間の長さに驚く。
英国中西部にある原子力施設が集中しているセラフィールド地区が最難題だ。核兵器に使うプルトニウムを製造したパイル炉2基,旧型ガス炉4基などが廃炉作業中。
昨〔2018〕年運転を終了した再処理工場ソープも廃炉になる。その終了時期はなんと2120年,費用は235億ポンド(1ポンド150円で3.52兆円)にもなる。放射能を扱った施設の処理・廃炉には,事故がなくても膨大な時間と費用がかかることを示している。
(ここまでで※-3の記事紹介終わり)
以上の説明を読んだだけでも,東電福島第1原発「事故現場の後始末としての廃炉工程」の終期が2051年に予定され,据えられていた現状認識は,いったいどのようなつもりで表明されていたかと疑念を抱くほかなかった。これは当然の感想である。
しかも,そうした感想を抱くのに,なにもむずかしい知識は要らない。すでに原発の廃炉問題については,先行する実例があった。しかも,その前途多難な様子はある意味,たいそうな手間ヒマと経費が要求されていた。この当面している「困難な現実」を前提にしたうえで,これから「未来にかけての予見」を試みるとしたらこれだけで,すでに絶望的な気分に落ちこむ。
※-4 岡田広行・東洋経済 解説部コラムニスト「福島原発『デブリ採取より廃炉計画見直しが先決』 松久保 肇・原子力資料情報室事務局長に聞く」『東洋経済 ONLINE』2024年10月18日 5:00,https://toyokeizai.net/articles/-/834105
この原子力資料情報室事務局長・松久保 肇が解説する「廃炉工程」の,それも原発事故を起こした「その後始末としての作業進捗は至難である」ほかない厳然たる事実は,以下のインタビュー記事を聴けば,本当に思いしらされるはずである。
なおこの※-4の記述は,※-1の記事報道(日経の記事を紙面画像で紹介したもの)よりも,以前の段階において公表されていたが,本ブログ筆者が指摘した問題性は基本的に,その後においても解決に有益な方途に向かっていない。この点をさきに指摘しておき,この記事を読みたい。
福島第1原子力発電所の事故で発生した燃料デブリ(炉心から溶け落ちた核燃料)の試験的取り出し作業が難航している。東京電力ホールディングスは〔2024年〕9月10日,取り出し作業に着手したものの,まもなくしてカメラの映像が映らなくなり,作業は中断。
当初の計画になかった,カメラを交換せざるをえないという事態になった。そもそも試験的取り出しの計画じたいに無理はなかったか。いま,廃炉を進めるうえで必要なことはなにか。
「NPO法人原子力資料情報室」事務局長の松久保肇氏にインタビューした。(なお以下では,◆が東洋経済新報の記者,◇が松久保である)。
◆ 松久保さんが事務局長を務める原子力資料情報室は,〔2024年〕9月10日発表の声明文で,燃料デブリの試験的取り出しについて,「意味はほとんどない」と述べています。どういうことでしょうか。
◇ 福島第1原発には,燃料デブリが約880トンあると推定されている。今回の試験的取り出し作業での目標量は,そのうちの数グラムに過ぎない。ごく少量を採取して分析したとしても,燃料デブリ全体の性状がわかるというものではなく,本格的な取り出し方法の検討ができるというわけでもない。
そもそも,今回取り出そうとしているデブリは,格納容器の底の部分に落ちているものだ。将来の本格的な取り出し作業での順番としてはいちばん最後に来るものであり,優先順位は低い。
a) デブリ試験的採取は,リスクの抽出が不十分
試験的取り出しじたいも,当初からうまくいっていません。準備作業で,釣り竿式装置のガイドパイプの並べ替えでのミスに気づかずやり直しとなったうえ,取り出し着手後早々に,カメラ映像が映らなくなりました。復旧作業もうまくいかず,カメラそのものを交換することになりました。
東電はこれまでにもカメラ付きの装置を用い,格納容器の内部を撮影している。そのさいの教訓が生かされていないのではないか。
今回,「回路に電荷がたまったことが原因でカメラが映らなくなったと推定される」と東電は説明している。これまでの経験から,なぜそうしたリスクを抽出していなかったのか疑問を感じる。
補注)この「回路に電荷がたまったことが原因でカメラが映らなくなったと推定される」と指摘された問題点だが,東電側の技術陣でこの程度の問題が事前に予見できていなかったのか。
要は,そういった可能性のある出来事の発生を予測するための原因分析になりそうな一覧を,事前評価としてできうるかぎり広範囲にとりあげ精査したうえで,なんらかの対応・措置を用意していなかったらしい。
本ブログ筆者は,そういうたぐいの素朴で基礎的な「事前の準備の有無」に関心をもつが,このような関連の事実は,報道関係(とくに日経の記事)からだと,ほとんど伝わってこなかった。
本ブログ筆者がここで論じている「デブリ取り出し作業」については,以前からその種の疑問を抱いてきた。東電福島第1原発事故現場においては,下請け関係の従業員も,関連する作業に多く介在してきた事実に照らせば,こちらの事情にもなんらかの影響が,もともとあった。
というのは,東電福島第1原発の事故現場にあって下請け企業の協力は,「東京電力によると,福島第1の廃炉作業には1日約5000人が携わ」っており,その「うち東電社員が約1000人。現場の作業の中心を,元請けや下請けの約4000人が担う」ということであったからである。
つまり,事故現場における人員面に比率では,その8割が下請けの従業員である。くわしくは,つぎの『東京新聞』の記事が,関連する事情を概観したかたちで説明しているので,参照されたい。要は「危ない場所」は下請けの従業員にやらせているということ。
〔記事に戻る→〕 東電およびメーカー,元請け企業などの間で情報共有ができていなかったのではないか。検証が必要だ。
◆ デブリ回収作業では,作業員の放射線被曝も懸念されます。
◇ 今回の試験的取り出し作業の計画では,作業員の被曝線量の目標値は12ミリシーベルトに設定されている。職業人の年間許容被曝量(1年で最大50ミリシーベルト,5年では累積100ミリシーベルト=年平均20ミリシーベルト)に照らしても,非常に高い値だ。
放射性物質を取りあつかうグローブボックスでの作業など,人手を介する作業が多いためだが,なぜもっと自動化できなかったのか,疑問を感じる。本格的取り出しに入るとさらなる被曝をともなうだけに,きわめて困難であることを浮き彫りにしている。
b) 廃炉計画そのものを見直すべき
◆ 原子力資料情報室の声明文では,「このように過酷で無意味なデブリのサンプル採取をおおなうのではなく,国や東電は廃止措置(=廃炉)そのものについて考えるべきだ」と記されています。これはどういうことを意味しているのでしょうか。
◇ 国と東電が福島第1原発の廃炉について定めた「中長期ロードマップ」では,廃止措置の完了時期は原発事故から30~40年後,つまり,遅くとも2051年までとされている。しかし,廃炉終了後の跡地の姿すら明らかにされていない。廃炉の最終的な姿が描けないまま,デブリ取り出し作業の工程だけ立てても意味がない。
そもそも2051年までに廃炉を完了させるという工程じたい,現実性を欠いている。これは,事故を起こしていない,通常の原発の廃止措置の年数を参考にしたもので,過酷事故を起こした福島第1原発に当てはめることじたいまったく意味をなさない。つまり,中長期ロードマップそのものを見直すことが先決だ。
◆ 原子力資料情報室の声明文は,廃炉費用の見積もりにも疑問を呈しています。
◇ 経済産業省が有識者を集めて設置した「東京電力改革・1F問題委員会」の「東電改革提言」と題した報告書(2016年12月20日)では,燃料デブリ取り出しまでに要する費用は最大8兆円と見積もられている。それを踏まえ,東電はその8兆円の捻出のために,廃炉等積立金として2017年度から年平均3000億円を積み立てている。
しかし,8兆円には,デブリ取り出し以降に必要な施設の解体や廃棄物,汚染土壌の処理費用は含まれていない。それらの費用も勘案した場合,廃炉に必要な費用の総額は,東電の負担能力をはるかに上回ってしまう可能性が高い。つまり,廃炉計画は事実上ゆきづまっている。企業としてもなりたたない。
c) 政府の審議会でも議題に上らず
◆ 松久保さんは経産省の審議会である総合資源エネルギー調査会・電力・ガス事業分科会・原子力小委員会のメンバーです。これまで福島第1原発の廃炉計画についてはどのような議論がなされてきたのでしょうか。
◇ ほとんどおこなわれていない。これまでの議論は,既存原発の再稼働や運転期間の延長,原発の新増設にさいしての資金の確保のあり方など,原発推進のための事業環境整備の話ばかりだった。
先般,政府は福島原発事故の賠償費用の上限を引き上げたが,これについても原子力小委では議論のテーマにならなかった。
原子力小委員会の開催趣旨には,「福島の復興・再生に向けた取り組み」「原子力依存度低減に向けた課題(廃炉等)」という文言があるが,福島原発事故の処理のあり方については,第三者のチェックが入る体制になっていない。事実上,経産省がすべてを決めてしまっているのが実態だ。
◆ 福島第1原発の廃炉は今後どう進めるべきでしょうか。
◇ 燃料デブリをいますぐに取り出すことに意味があるのか,強い疑問を感じている。最終的には取り出さなければならないが,非常に放射線量が高く,取り出し方法もみえていないなかではリスクが大きすぎる。
現在の国や東電の説明は,あたかもきちんと廃炉をやり遂げることができるかのような幻想を国民や福島県民に与えてしまっている。実際には,スケジュール優先で現実をみない計画のまま,先のみえない困難な作業をやりつづけているというのが実態だ。
2051年に廃炉を終わらせるという無理なスケジュールが,さまざまな問題を引き起こしている。
(引用終わり)
以上,この※-4に紹介したインタビュー記事は,2024年中に報道された『東洋経済 ONLINE』からの引照してみたが,つぎに,この前年(2023年)にNHKが報道していた「燃料デブリ取り出し」の話題は,どのようにとりあげられ,報道されていたかを紹介したい。
なお,以上に紹介した「NPO法人原子力資料情報室」事務局長松久保 肇に対するインタビュ記事は,原発の本質にかかわる「事故発生後の苦難」を,当面だけ目先だけの打算で誤魔化しつづけている「原子力村」の,実質では非常にみにくいドタバタぶりというか,現実を完全に無視してそのままの態勢で独断専行していこうとする,とくに経済産業省側の基本姿勢を根本から批判していた。
※-5「原発特設サイト 東電福島第1原発事故 日本の原子力政策 原発事故12年 各号機の現状 『燃料デブリ』取り出しへ重要局面」『NHK NEWS WEB』2023年3月10日,https://www3.nhk.or.jp/news/special/nuclear-power-plant_fukushima/feature/article/article_12.html
この記事も長めであるが,全文を紹介する。すでに記述した前段までの記事を踏まえて,さらにこのNHKの報道に接することなれば,内容はNHK風にまろやかに報じているけれども,その根幹の問題がより理解しやすくなるはずである。以下に引用する。
東京電力・福島第1原子力発電所の事故から12年となるなか,廃炉作業は,最大の難関とされる「燃料デブリ」の取り出し開始に向け,重要な局面を迎えています。
a) 廃炉,計画に遅れ
国と東京電力の福島第1原発の廃炉に向けた中長期ロードマップでは,廃炉が終わるまでには最長40年かかるとされ,工程は以下のように大きく3つに分けられています。
▼ 第1期・使用済み核燃料の取り出し開始までの期間(2年以内)
▼ 第2期・燃料デブリ取り出し開始までの期間(2021年12月)
▼ 第3期・廃炉措置の終了までの期間(事故の年から30~40年後)
この計画にもとづくと,事故から12年となる2023年3月時点は「燃料デブリ」の取り出しが開始されているという想定でしたが,まだ取り出しは始まってなく,計画より遅れています。
b) 「燃料デブリ」推定〔は〕880トン
「燃料デブリ」は,事故で溶け落ちた核燃料が周囲の構造物と混ざり冷えて固まったものです。1号機から3号機までの原子炉や外側の格納容器の下部には,あわせて880トンの燃料デブリが溜まっている,と推定されています。
燃料デブリの取り出しは,廃炉作業における最大の難関とされていますが,強い放射線で人間は近づけず,内部調査に使われるロボットも,事故で壊れた構造物に行く手を阻まれるなどして,調査の段階から作業は難航しています。
格納容器内部はいまだに全容がつかめない状況ですが,10年以上かけてロボットによる調査を重ねた結果,少しずつ1号機から3号機までの状況が明らかになってきました。その結果,これまでに1号機から3号機の格納容器の底の付近では,燃料デブリの可能性がある堆積物がみつかっています。
こうした成果を踏まえ,国や東京電力はもっとも内部調査が進んでいる2号機で,2022年内にイギリスで開発されたロボットアームを使い試験的な取り出しに着手する計画でしたが,改良や設計の見直しなどが必要になり,1年から1年半程度,延期することにしました。
これにともない,早ければ2023年に2号機で燃料デブリの試験的な取り出しが始まる可能性があり,ロボットアームの先端に取り付けた金属製のブラシで堆積物をこすりとり,数グラム程度を採取する計画が示されています。この作業が実現したあと,国と東京電力は,燃料デブリを取り出す量を段階的に増やすとしています。
このため燃料デブリ取り出しの第一歩となる2号機での計画の成否は,廃炉全体の工程にも影響を及ぼす可能性があります。
c) 各号機の最新の調査状況
ここからは各号機の格納容器内部など最新の状況をみていきます。
★-1 1号機 格納容器内部の状況把握進める
1号機では,2022年2月からのロボットによる格納容器内部の調査で堆積物の塊が映像などで確認され,東京電力は,この一部が燃料デブリである可能性があると発表しました。
また,2022年5月には,格納容器の底部で,原子炉を支える鉄筋コンクリート製の「ペデスタル」という構造物が壊れ,鉄筋がむき出しになっている状況が映像で確認されました。
今〔2023〕年1月からは堆積物のサンプリング調査がおこなわれ,国や東京電力は,1年ほどかけて元素の種類などを分析するほか,堆積物の広がりを3Dで再現するなどして,内部の状況を詳しく把握することをめざすとしています。
★-2 2号機 調査がもっとも進展,試験的な取り出し開始めざす
2号機は,原子炉建屋が水素爆発を起こした1号機や3号機と比べ,調査を妨げる構造物が比較的少なかったため,3つの号機のなかでもっとも内部調査が進んでいます。
このうち2018年におこなわれた調査では,格納容器の底の付近で燃料デブリとみられる,厚さ40センチから70センチほどの小石状の堆積物があることが確認され,堆積物の硬さなどの調査もおこなわれました。現在,試験的な取り出し開始に向けた準備が進められています。
★-3 3号機 燃料デブリが水没,今後10年程度で取り出し開始めざす
3号機は,2017年の格納容器の内部調査で,厚さ3メートルほどの燃料デブリとみられる堆積物が確認されました。その多くが水中にあるとみられていて,燃料デブリの取り出し方法については,原子炉建屋を巨大な構造物で覆い内部を水で満たして取り出すなど,複数の案が検討されている段階で今後,10年程度かけて取り出し開始をめざすとしています。
★-4 4号機 核燃料の取り出し完了済み
事故当時,定期検査中だった4号機は原子炉に核燃料はなかったものの使用済み燃料プールに1535体の核燃料が入っていました。事故のあと電源が失われ燃料プールの冷却ができなくなったうえ,原子炉建屋が3号機から流れこんだ水素の影響で水素爆発を起こして壊れました。
補注1)この4号機は事故当時,稼働中ではなかったものの,核燃料は原子炉か取りだし,燃料プールに移して保管中だった。しかし,事故が発生した関係で,そのプールに水の補給がなされず,核燃料が冷却できない状態がつづくと,これが溶け出す事態が起こり,非常な大事となる危険性が予見されていた。
ところが,たまたま近くの上部に当たる場所にほかの目的で溜めてあった大量の水があり,大地震の事後における影響によってその水が燃料プールに流れこむという不幸中の幸いが偶然起きた。それで,事故にまでは至らずになんとか済むという僥倖にめぐまれた。
この不運中の幸運がなければ,東電福島第1原発事故によって東日本は,壊滅的な状況に追いこまれていたかもしれなかった。
補注2)以上の補注1の出来事については,「3・11」当時,民主党政権の首相であった菅 直人は,2012年10月に公刊した『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』幻冬舎(新書)のなかで,4号機のそうした偶発的な出来事については「神の御加護」だとまで形容していた(36頁)。
ところが,ここで引照しているNHKの記事は,そうした重大な局面が発生し,菅 直人がそのように戦慄させられた(つまり日本列島の東半分が沈没同然になる事態)寸前にまでいったところだったが,まことに偶然だったけれども非常に幸運だったその出来事にいっさい触れていない。不自然である。
〔記事に戻る→〕 燃料プールの水がなくなり,使用済み燃料などの冷却ができなくなると燃料が溶け出すおそれがあるため,東京電力や国は燃料プールへの注水への対応に追われました。
補注)この段落の説明は,4号機の状況がとりわけ大問題になってもいた推移のなかで,同時並行して発生した1号機,2号機,3号機などの「溶融事故」そのものと,この稼働休止中であって別途に核燃料を保管していた場所をめぐって,とくに4号機に関しては,事故発生の可能性が大となった危険な状態にまで追いこまれていた一件を無視したかのような「NHKの放送の仕方」は,問題があった。
〔記事に戻る→〕 その後,東京電力などは代替の冷却装置などでプールへ注水するとともに,2013年11月から使用済み燃料プールからの燃料の取り出しを始め,1年余りあとの2014年12月に取り出しを終えました。
(引用終わり)
※-6 高木仁三郎『原子力神話からの解放-日本を滅ぼす9つの呪縛』講談社,2011年5月(初版は光文社2000年8月発行)は原子力のことを「消せない火」だと形容した
本ブログ筆者が本ブログ内でしばしば使用した文句は,「原子力は《悪魔の火》だ」というセリフであった。それはさておき,高木仁三郎は,※-4で登場させた原子力資料情報室の(現在の事務局長松久保 肇)の創設者であった。
高木仁三郎は多くの著作を公刊してきた。以下では『原子力神話からの解放-日本を滅ぼす9つの呪縛』講談社,2011年から,つぎの段落を引用しておく。
a)「原子力は,火をつける技術においては進歩したけれども,原子力から生まれた火を完全に消して無害することができないという性格をもっているのです。そこが原子力の基本的困難さであり,……根本には,この問題がある……」(『原子力神話からの解放』48頁)。
b)「巨大な原子力が破綻をきたしたときには,広島,長崎級の原爆のまた百倍から千倍くらいの放射能がそこから一挙に放出され……まさに破局的,カタストロフックな事態が生じるわけで……そういう,一度でも起こってもらってはこまる潜在的な事故の可能性を抱えている点において,やはり原子力テクノロジー,原子力発電は,例にみない困難さをもった技術であると認識しておく必要がある」(55頁)。
結局, “アナタ,原発 止めますか,それとも人類(地球に生きる人間)止めますか” という仕儀にあいなっていた。
原発はいつでも止められるのだが,止めようとはしない人間たちが,この日本にもたくさんいる。あの安倍晋三もそうであった。
最後に一言。
ところが,本ブログ内では「失敗学」という学問構想を提唱し,原発事故問題の解決に資したいと念願しながらだったと思われるが,関連の著作を多数公表してきた畑村洋太郎(元東京大学工学部教授,のちに工学院大学教授)という学究を,徹底的に批判した。
そのわけは,以上のごとき高木仁三郎の指摘,原発は「一度でも起こってもらってはこまる潜在的な事故の可能性を抱えている点」を,畑村はなんの因果があってなのか,その失敗学の思考回路を開削しようとしたさい,あたかも失敗を絶対的に否定しえない自分の立論が,いかなる含意をもっていたいかをに気づかないでいた。
失敗学が「失敗を待って」学問展開の理論切磋をために有用に生かそうとする立場そのものは,本来的に,原発問題に関してのみは御法度であった。失敗学の発想におけるこの種の出立点からして,手抜かりがしこまれた事実に全然気づかなかった畑村洋太郎は,学問以前になんらかの不注意があったことじたいに無頓着でいた。
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