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男はつらいよ

 ジェンダーレスやジェンダーフリーと言う言葉がもてはやされる昨今ですが、やはり男は男らしく、哲学を持ち真っ直ぐに生きるべきではないでしょうか。

「おいどんは、西郷隆盛でごわす。自分に真っ直ぐでごわす」みたいな感じです。ちなみに、男らしさのテンプレートみたいな西郷隆盛は、濃い目のバイセクシャルなんですけどね。

 ともかく、男なら男らしく、格好を付けなくてはならない時があるのです。

 その日、僕はコンビニでお茶とおにぎりを買い、千円札を手渡しました。レジを打ってくれた女の子はニッコリ笑ってお釣りを返してくれます。

 そして、僕は不意に、男としてここで格好を付けなければならないと思ったのです。男が格好を付けたいと思う気持ちは、女子の存在をきっかけに発動します。

 そして、その気持ちの強さは、目の前の女の子の可愛さと比例関係にあるのです。その時、そう言った理由で、僕は猛烈に格好を付けたいと思った訳です。

 受け取ったお釣りを、僕はそのままレジに置かれた募金箱に入れようとしました。コンビニの募金なんて、1円や5円と言った、財布に入れるのも面倒になるような金額に限られているはずです。僕が入れようとしているのは、千円からお茶とおにぎりの代金を引いた分、700円ぐらいです。なんて男らしい。そんなの格好良いに決まってます。

 それなのに募金箱の口が狭くて、お金が上手く入らない。レジの女の子は綺麗な瞳を見開くと、驚いた顔で僕を見ています。なんとしても、やり遂げなくならない。男として、絶対後には退けない。可愛い女の子の期待を裏切ってはいけないのです。

 そんなにも頑張ってるのに、やはりお金は箱の中に入ってくれません。僕は無理矢理箱の中にお金を捩じ込んでやりました。男には、絶対退けないこと、貫き通さなければならないことがあるのです。

 その時、驚きに見開かれていた女の子の眼差しが憐れみに変わり、僕の顔から立ち去っていきました。

「お客さん、それ募金箱じゃなくて、アンケート回収箱ですから……」

 その小さなつぶやきを、僕は今も忘れることができません。そりゃ、お金は入らないわな。僕は黙ったまま、その場を立ち去ることしかできませんでした。おそらく彼女は、高倉健越えの、哀愁漂う男の背中を見たことでしょう。

 男はつらいよというお話でした。



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