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実家

 なんだか疲れているので、休暇を2日取得した。せっかくの休暇なのだが、どこか旅行するというよりはゆるゆるっとしたくて、久しぶりに実家の親をたずねた。
 父が80歳、母も誕生日が来れば80歳ということで、以前より動きはゆっくりで、食事の量も少なくなっていて、こうやって人は最終的に死んでいくんだなとなんだか他人事な感じにぼんやり思った。
 母は5年ほど前から、髪の毛を染めなくなっていた。はじめはひどく違和感があったが、今はそれにも慣れた。目の前の母は面長の羊という風で、だけど言えばきっと傷つくだろうから、自分の胸にこっそりしまっておいた。母親の顔を羊顔と思ったのは初めてではない。自分が小学生の時からそんな風に思っていた。当時は怒られたくなかったので言わなかった。今も昔も羊なのだが、月日の流れとともに羊の顔は間延びした風に変わっていた。重力によるものなのだろうか。鼻の下が一番わかりやすいのだが、下に向かって引っ張られてる感じ。で、さらに白髪になったわけだから、羊要素が半端ない。
 母は、近況についてあーでもないこーでもないと、堰を切ったように話し始めた。近所の変わり者のおばさんの話、お隣のおじさんが高齢にもかかわらず脚立に乗って庭木の剪定をしていることなど、しばらく話し続けていたが、一通り言いたいことを言い終わると満足そうにお茶をすすった。
 そういえば、母の干支は羊。私もお茶をすすりながら、にやける顔を母に気づかれないようにしばらく俯いていた。

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