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「人工的な眠り」を追求した科学者たちの数奇な運命


「誰も知らない麻酔薬の歴史」
日本で歴史上初めて全身麻酔を使った手術が行われてから200年以上がたった。

しかし麻酔がなぜ体に効くのか、その仕組みが解明されたのは驚くことに2020年とつい最近である。
謎に包まれたそのメカニズムは別の機会に解説するとして、麻酔は医学の発展に多大な影響を及ぼした。

麻酔が開発される前の手術は惨憺なものだったのだ。
例えば、脚の切断手術の際、医者にはとにかく手早さが求められた。短時間で手術を終えれば、手術中に苦しむ患者の負担を減らせるからだ。
当時のある名医は片足を26秒で切断できたという。当然のことながら、痛みに耐えきれずショック死してしまう人もいたというから凄まじい。

そんな時代の後、19世紀初頭に活躍した麻酔薬を2つ紹介しよう。

「クロロホルム」と「エーテル」である。
ドラマ等でよく主人公が口にハンカチを当てられ気絶してしまうシーンを見かけるが、あそこで使われているのがクロロホルムである。
歴史的にはビクトリア女王が出産の際に麻酔薬として利用していたこともあり、当時は一般的な麻酔薬だった。
なお、量の加減が非常に難しく、素人がドラマのようなマネをすると、
主人公は簡単に死んでしまう。いろんな意味で危ない薬なのだ。

もう1つ有名なのがエーテル(正確にはジエチルエーテル)ですね。
高校化学で習うファラデー定数の生みの親、マイケル・ファラデーがその作用を発見した。
これも19世紀に活躍した麻酔薬であるが、喉への刺激が強いことや、引火性が高いことを理由に現在では(あまり)使われていない。(一部の途上国では使われている。)

そういえば極端な話、お酒も麻酔薬である。
酔ってフラフラするのもアルコールによるある種の麻酔作用で、急性アルコール中毒による昏睡状態は「麻酔の効きすぎ」と表現できる。
なるほど、麻酔中の脳波と昏睡中の脳波が似ているわけだ。
(睡眠時の脳波は全く別)

1920年に米国で禁酒法が発令された時は、多くの人が酒の代わりにエーテルを飲んだ、という話が残っているが、なぜ人がここまでアルコールによる麻酔作用を求めるのかはナゾである。

18世紀に入ると、ヨーロッパ社会に絶大な影響を及ぼす麻酔物質が新たに生み出された。その用途は手術にとどまらず、時に人の運命を狂わせた。
また、自らの身体や家族で麻酔の効果を実験し続けた、医師たちの数奇な人生にも迫ってみよう。

これまで全く語られてこなかった、現代科学の陰の立役者「麻酔」の歴史を引き続きお楽しみいただきたい。
(以下の「限定版麻酔薬の歴史」ですが、刺激的な内容が含まれているため苦手な方にはおすすめできません。)

麻酔薬の歴史 限定版

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