楳図かずおさんを見た日
楳図かずおさんが亡くなりました。
ぼくは漫画は読まないのですが、楳図さんの風貌や服の色は知っています。
それで、ぼくは一度だけ、楳図さんを見たことがあります。
15年以上も前の冬だったと思います。
なぜ冬だったと覚えているかというと、忘年会の待ち合わせをしていたからです。
なんの忘年会かと言うと、同人詩誌「生き事」の忘年会でした。
記憶が確かでないのですが、その時に、吉祥寺駅前で立っていたのは、佐々木安美さん、岩佐なをさん、廿楽順治さん、それからそのために岐阜からやってきた阿部恭久さんだったのではないかと思います。
いえ、その内のひとりがまだ来ていなくて、待っていたのだと思います。そうしたら、立っているぼくらの脇を流れる雑踏の中に、見えた人がいました。
「あっ、楳図かずおだ」と、言ったのはぼくだったと思います。みんなで、えっ、と言って、じっと背中を見ていたことを思い出します。
だからどうだと言うのではないのですが、その日の忘年会は、清水哲男さんを招待して、とても楽しかったので、その記憶とセットで、楳図かずおさんを覚えているのです。
忘年会とは言え、最初に清水さんから詩の話をしてもらって、それから大いに呑み、途中で「清水哲男クイズ」などというものをやって、よい時間を過ごしました。井坂洋子さんも中本道代さんも上手宰さんもいました。20人くらいの人たちが来てくれていました。
吉祥寺ビアホールでした。
清水さんも、あの時に通りすがった楳図さんも、もう亡くなりました。
でも、思い出すことはできます。
生きていれば、つらいこともたくさんあります。そんな時には、繰り返し、あの夜のことを思い出そうと思うのです。そしてちょっと、立ちなおろうと思います。