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『弱い』

 真っ暗な空間に閉じ込められた。
 妖狐の君が迎えにくる。
 足元でもがく霊魂を連れて行こうとすると手を叩かれた。
「なんで駄目なの。強いなら周りを助けなきゃ」
「弱い奴が本当に弱いとでも? お前はバカか」
ムッとする私に君が。
「奴らは引き摺り込みたいだけだ。お前を、自分より深くくらいトコロに」

『近寄るな』

「弱いヤツに近寄るな」と君はよく言った。
「そいつの中に自分によく似た古傷を見つけても共感するな。同情はいい、でも共感は駄目だ」
 そう言った君が、真っ先にあいつの闇に気がついた。そうして命を取られた。
 近寄るなって言ったくせに。
 君の優しさはゴミかす同然に扱われていい物じゃなかったのに。

『靴底』

「我慢すればよかったのに」と口にして、言ってしまったと思った。
 君は奥歯にある虫歯の痛みを堪えるような顔をしていた。私はたまらずスニーカーのつま先に視線を落とす。
 息を吸う音。多分何か言おうとした。でも。君の靴底がザッと音を立てコンクリを擦る。
 顔をあげる。君は振り返らなかった。

『月の砂漠』

 テレビから出る砂嵐の音で目が覚めた。
 夜中、三時。ローテーブルの下から自分を引っ張り出す。君は私のベッドの上、タオルケットを抱きしめ寝ている。口の端から涎が垂れていた。
 翌朝「夜中のポテチはアウトだけど、みかんゼリーはセーフだよね」と言うと「わけわかんねぇ」寝癖の君は柔こく微笑んだ。

『そんな親は見たくない』

 うちは弁当店を営んでいる。ある日妻が、
「哺乳瓶入りハンバーガーを売り出したいの」
と言い出した。
「そんなの売れないさ」
 妻は折れず、ものは試しに売り出す事に。意外にもデートで大口開けて食べるのを見られたくない女子や一部のバカ親に好評だ。うちの親も孫目線がいいと買っていった。嘘だろ。

『竜の小鳥のはなし』

嫌われ者の竜はある日怪我した小鳥を拾った。小鳥の傷が癒え美しく成長した頃、王が山の近くを通る。王は小鳥をお妃に迎えることに。婚姻の儀の翌朝、王宮はしんと静まり返っていた。朝焼けで輝く空を竜が飛んでゆく。その時小鳥が王宮の窓から飛び立った。竜の背を目標に。彼女の唇は血で濡れている。

『君は月』

「君は月だね。僕は海だ」と彼が言った。
「月は海面に映るけど落ちてこない。引力で引き寄せるけど月までは届かない」
 まどろっこしいから言い換えてあげる。
「君のこと好きに近いけど好きって言いきれない。でも手放すのは嫌。だからキープさせて」
 そしたら彼が笑うから手を繋いで帰ることにした。

『月に囁く』

 窓を開けると月が真っ黒な空にぼんやり浮かんでいた。
 好きになってもらえない相手に恋してる。
 毎晩真夜中目が覚めるのは、毎日好きを更新するこの気持ちを月への捧げものにしろってこと?
 そういえば昨日お月見団子を買った。明日の朝食べよ。
 窓を閉め布団に潜り込む。自分と月に囁く。
 おやすみ。

『狐面』

 その箱は箪笥の上にひっそり置かれていた。中には薄っぺらいプラスチック製の狐面があった。
 手を伸ばすと狐面をつけた全身真っ黒な男の人が目の前に現れる。
「起こしてくれてありがと」「お嫁さんにしてあげるね」と言われた。
「顔を見てから考えさせて」
 そう答えると彼は消えた。ちょっと残念だった。

『ほろ酔いの夜』

「いい式だったね」とほろ酔いの君に腹立って、ホテルの部屋に引っ張りこんだ。
 一日履いたパンプスが私の足から離れたがらない。ムカついてバタ足したら手伝ってくれた。
 ベッドに押し倒し君の上に乗り上げる。
「こんなの間違ってない?」
「私、暗算苦手なので」
 君は苦笑いし、私のからだを引き寄せる。

『一人の夜』

 包丁を振るっていると背後でコロンと音がした。
「誰?」(しーん)
 それはそう。一人暮らしだもの。
 調理を再開する。ザクザク、コロン。
「誰?」(しーん)
 翌日テレビが言った。うちの隣で殺人があったと。頭部は見つかっていないと。
 それはそう。昨日部屋にいた不審者を処理したけど頭はなかったわね。

✳︎
以下、メモ。最後だけ変えたバージョン↓

 包丁を振るっていると背後でコロンと音がした。
「誰?」(しーん)
 それはそう。一人暮らしだもの。
 調理を再開する。ザクザク、コロン。
「誰?」(しーん)
 翌朝テレビが言った。うちの隣で殺人があったと。頭部は見つかっていないと。
 それはそう。昨日処理した不審者頭を抱えてた。自分のは無いくせに。

✳︎
……、説明っぽいというか常識っぽいかな。

『昔の彼』

 夫と連れ立ってショッピングの帰り。向こうから歩いてくる人の顔に私は「あっ」と足を止める。会釈しすれ違う。
「誰?」と夫。
「昔、付き合ったことがある人」夫の目に嫉妬の色がジワリと滲むのを見て苦笑する。
 まだ結婚指輪をはめていなかった……。
 夫の腕をとり歩く。彼の視線を背中に感じながら。

『母親』

「妊娠したんだ。じゃ、あなたにも呪いがかかったね」
と産院の外で会った彼は言った。
 それから六年。息子の発熱に私は動揺している。
 何故この子の苦しみを私のものとして感じられないのか。
 ハッとする。この子と私は違うのに。どうかしている。
「呪いはまだ続いているよ」
 窓の外で彼は悲しげに呟く。

『糸』

金木犀の匂いがのった空気に誘われ散歩していると、小指に糸が絡まっているのに気がついた。いつ付いたのだろう。透明なそれは光の加減で陰る。糸を辿って歩き出す。終点は実家の庭にある椿の木だった。そこに小さな蜘蛛がいてせっせと糸を吐いている。お前も散歩に行きたかったの?

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たみや える
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