民事責任と刑事責任
例えば、Aの行為が原因でBが怪我をしたとする。この場合、Aは、刑事責任と民事責任の両方に問われる可能性がある。では、両責任には、どのような違いがあるのだろうか?①まず、両責任は、その目的を異にする。刑事責任は、国家による犯罪者の処罰であるのに対し、民事責任は、被害者の救済を目的としている。②また、追及手続が異なる。刑事責任は、検察官の起訴によって裁判が開始し、罪刑法定主義によって支配され、刑罰法規の類推適用も認められていないのに対し、民事責任は、被害者が原告として訴えることによって裁判が始まり、類推適用なども含むより、柔軟な解釈の下で責任の有無の判断がなされる。したがって刑事事件には問われない(無罪となった)ものが、民事責任を負うことがありうる。③刑事責任においては、原則として故意犯のみが処罰されることもあるが、民事責任においては、
故意または過失があれば、責任を負うこととなっており、両者の区別はそれほど大きな意味を持たない。④刑事事件においては、結果が発生せずに未遂でも処罰される場合もあり、また、実害が発生していなくとも法益に対する
危険のみで処罰されるときもあるが、民事責任においては、損害の発生が、責任を問い得るための要件となっている。
ただし、このような違いは、両者の完全な断絶を意味しない。民事責任を果たしていることが、刑事責任における量刑に影響を与える場合も考えられる。また、民事責任に、加害者行為を抑止する効果を期待したり、制御機能を付加したりすることが考えられないわけではない。
参考文献
永井和之 森光 2020 第3版法学入門 中央経済社 130ページ