「信長の覇道Online~現代にタイムスリップしてきたノブナガはどうしても天下統一っぽいことがしたくてVRゲーム廃人になる~」第1話 信長、タイムスリップ
私の名前は大森蘭。花の女子大生。しかも二年で文学部。この世で最も楽とされているポジションだ。
今日も仕送り片手にショッピングにしゃれ込もうと思っていた。なのに、、、。
え?なんで?何で渋谷に織田信長倒れてんの?
いや、待って。まだ織田信長と断定するのは早いわよね。髪はロン毛、着物は本能寺帰りっぽく燃えてる。あと単純にかっこいい。
「人間~五十年~」
うわなんかうわ言で信長っぽいこと言ってる。
「あの~、すいません。こんなところで寝てると警察呼ばれちゃいますよ~。ねぇねぇ!」
「ん!?ここはどこだ!桶狭間か!」
「桶狭間なわけねーだろ!渋谷ですよ~」
「娘!それはどこだ?」
「私の勘が正しければあなたが生きていた時代から500年後ぐらいの日本ですね」
信長っぽい人は辺りを見回す。さすがにここまでガラッと変わった世界を見たら簡単に納得なんてー
「で、あるか」
マジかよ!すげーよ!さすが織田信長だよ!頭柔らかいなんてもんじゃねーよ!何も考えてねーんじゃねーのかとさえ思うわ!
「あの、本当に理解したんですか?」
「要するに俺は死の間際、本能寺からなんらかの力によってこの500年後の世界に飛ばされたと。その間おそらく日本は海の外にあるはずの多くの国と交流し、大戦も経てここまで文明を作り上げたということなんだろう」
マジかよ。信長完全理解だよ。何なら大まかな歴史も予測で当てたよ。
「あの一応お名前聞いてもいいですかね?」
「俺?俺は織田信長だ」
「でしょうね!信長感半端ないっすもん!」
「知っているなら話が早い。俺もこの世界のことが分かっていない。あの辺で話を聞かせろ!」
面白そうだからいいんだけど、信長、指さした先スタバ!信長、現代に来て最初に入る店スタバ!
とりあえず信長とコーヒーを飲みながら世界の歴史とか今の常識とかを教えた。
「で、あるか」
ざっと説明が終わったころ外はもう暗くなっていた。私もテンション高く話し続けたため喉は枯れていた。喉を潤すために飲んだコーヒーもやはりすでに冷めていた。
「それでラン。俺をお前の家に泊めることは可能か?」
「いいですよ!」
「そんなに即決して大丈夫なのか?」
「はい、何ならずっといてください!部屋も広いし仕送りもたんまりあるんで!」
そう、何を隠そう私の家は金持ちだ。おっさん一人養うぐらいなんてことない。おっさん一人養いながら毎食寿司を食えるぐらいの金持ちだ。
そして織田信長が好きなのだ。ファンといってもいい。正直歴史には詳しくないが、漫画とかテレビとか色んな所で出てくる信長が全部好きなのだ。
更にダメ押しでおじさんがタイプなのだ。
つまり今のこの状況はまさに夢のような状態。信長なんてレアキャラ他のやつに渡してなるものか!このオッサンは私が育てるんだ!
*
信長と共同生活をするにあたり観察日記でもつけようかなと思う。ちょっと乙女チックかしら。
共同生活1日目
信長の理解が早すぎてヤバい。全然カルチャーショック受けない。すぐ『で、あるか』って言う。
共同生活2日目
信長がそわそわしだす。
共同生活3日目
信長が過呼吸になって倒れる。
「おーい!信長ー!どしたの!?ねえ!救急車呼ぶ!?」
「はぁはぁはぁ、悪い、発作だ」
「信長病気なのかよー!3日目でもう逝くなよー!」
この三日間の信長との思い出が走馬灯の様に頭に流れてきて涙が止まらない。三日分だから走馬灯すぐ終わる。しょうがないから何度もリピート再生する。
「病気ではない。いや病気なのかもしれない」
信長が自嘲気味に笑う。まだ余裕あんな、こいつ。
「どうしたら治るの!?」
「、、、されてくれ」
「なに!?もっと大きい声で行ってくれないとわからないよ!」
「だから天下統一させてくれ!」
「え?」
「俺は天下統一っぽいことをしていないと精神的に不安定になるんだ!」
「はぁ!?」
「本当に天下統一しなくてもいいの!なんか天下統一っぽいこと、天下統一感があれば大丈夫だから!お願い!俺に天下統一っぽいことをさせてくれぇ!ぐはっ!」
「いや、でも信長今の現代って―
「わかってる。もう天下統一なんてダサいって感じだろう?オワコンなんだろう?だから本当の天下統一じゃなくていい!っぽいなにかを!っぽいなにかをさせてくれぇ!」
信長の目は本気だ。血走っている。瞳孔も開いている。呼吸も荒い。汗もすんごい。死にそうな顔で私にしがみついてくる。
一度育てると決めた以上、ここで投げだすわけにはいかない!何かないのか!天下統一っぽいもの!さがしだせ!天下統一っぽいものを!
「はっ!あれならもしかして!」
*
「信長おはよー。あれ今日も徹夜?」
あの信長発作事件から一月がたった。
「ああ。天下統一ってめっちゃ忙しいから。ブラック企業だから。あ、そうだ。昨日の夜中にコンビニでパン買って来たから食ってっていいぞ」
信長の順応性は半端なかった。すっかり現代に馴染んだ。むしろもうベテラン感さえある。
「さっすが信長!気が利くー!今なら秀吉より利くんじゃない?」
「はっはっは!俺が本気を出せばサルごとき足元にも及ばんわ!」
「「わーはっはっは!!!」」
「じゃあ行ってきまーす」
あの時私の機転で瀕死の信長を救ったのはVRMMORPG『信長の覇道Online』である。
今では信長は起きている時間の全てを『信長の覇道Online』の中で過ごす廃VRゲーマーとなっていった。
だけどノブナガの目は一般的な廃ゲーマーのそれとは違った。獰猛に光る天下取りの目だ。まあゲームなんだけどね。
そしてそれが逆に痺れるんだけれども。
「あ、みっちょん!おはよー」
「おはよ!ラン」
この子はみっちょん。大学での私の友達だ。友達はあと二人ぐらいいる。もちろんみっちょんだけではない!絶対にあと二人ぐらいいる。はず!連絡先とか知ってるのはみっちょん以外いないけど。
・・・
そんなの戦国時代では当たり前じゃい!!!
「あんたさっきから何一人で変な顔してるの?」
「失礼な!私は変な顔なんかしてないやい!」
「まあいいや。元々変な顔だもんね」
「なにおおおお!!!!」
「ほら、これノートのコピー。あんた最近あんまり来てなかったでしょ。テストもうすぐだよ?」
「み、み、み、み、み、みっちょ」
「いらないの?」
「いります!この御恩は一生忘れないっす!あざーっす!」
「わかればいいのよ」
みっちょんはしっかり者で、テスト前はノートをコピーさせてくれたり、テスト中は私のカンニングに協力してくれたりする親友、いや心の友だ。
「てか最近ラン活き活きしてるわね。なにかあったの?」
「よくぞ聞いてくれました!!!みっちょん、やっぱり人って人からパワーを貰うんだよ。それも天下人ならなおさらさ!くっくっくっく」
「え?全然意味わかんないんだけど」
「くっくっくっく」
「、、、まあいいや。わかんなくても」
「くっくっくっく」
「もう教室つくからそのキモい笑い方やめて」
「くん」
「うん、ね」
みっちょんと一緒に授業を受ける。というか私が取っている授業は全部みっちょんと同じだ。これでテストとか代返とかは完璧。私は100%みっちょんの力でこの大学を卒業するつもりなのだ。くっくっく。
「あんた、なんかまた失礼なこと考えてるわね」
、、、くっくっく。
今日の授業も終わった。みっちょんはこのあとバイトがあるらしい。しっかり者だけあってバイトをしている。
「じゃあまた明日ね。気を付けて帰りなさいよ!」
「みっちょんも今のバイトより稼ぎたいとか欲を出して風俗へ転職しないようにね!」
「するわけないでしょ!」
「でも風俗って給料がかなりいいらしいからさ」
「はぁ、そこまでお金に困ってないわよ」
「ならよし!じゃあまた明日!」
みっちょんの呆れ顔を最後にみて下校する。これが私のルーティンだ。
だが帰宅後のルーティンは1か月前からがらりと変わった。
「ただいまー!お、いい匂い!今日はラーメンかな」
「いや、おでんだ」
まずご飯。今まではコンビニで買うか、出前頼んでたけど、信長が来てからというもの料理は信長が作ってくれている。
私は3日に一度スーパーで食材を買いこんでくるだけ。
さらに信長は料理だけではなく、家事全般もやってくれている。家事は初めてやると言ってたけど、2回目ぐらいからは昭和のおばあちゃん張りの家事スキルになっていた。
天下を取ろうとする男はやはり違う。
「で、今どんな感じ?」
「とりあえずレベルはそこそこになった。これからどこかの勢力を乗っ取ろうと思ってる。ほら、ランもさっさとログインしろ」
「おっけー!」
もちろん私もプレイしている。こんな面白いことに参加しない手はない。
目の前で信長が天下を取るところを見られるなんて、、、。
ビートルズのライブの最前線、いやジョンレノンの真横でガン見、いやいやそれ以上のプレミアチケットだよ!
ちなみに今の私たちのステータスはこんな感じ。
キャラネーム ラン
レベル 34
職業 陰陽師
キャラネーム ノブナガ
レベル 62
職業 傾奇者
ちなみに私のキャラは現実と同じ美少女、ノブナガのキャラはちょうど天下取りを始めたころの自分の姿らしい。つまりお似合いの二人である。どう見ても夫婦。夫婦以外の何ものでもない!
「てかよく見たらノブナガもうレベル60超えてんの?やば!えぐ!キモ!」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「いや褒め言葉として受け取らないで!案外ガチで引いてるから!」
信長の職業『傾奇者』は、妖術を用いて味方のバフ、敵のデバフを行う。だが妖力以外のステータスは全職業中最弱のため、単体での戦闘には向かない職業である。
その反面軍隊の指揮をとる時に便利なスキルを多く持つ職業だ。
だがやはり一人ではレベル上げもままならないため、この職業を選ぶプレイヤーは少ない。
だから一人で、更にこの短期間で、ここまでレベルを上げるのは普通は不可能。でもそれをやってのけるのが織田信長なんだな~。やっぱこのオッサン、ゲームの中でも規格外らしい。
傾奇者の最大の弱点は一番の魅力であるバフ、デバフを自分にはかけることができないことだ。その弱点を信長はあっさりと解決した。
信長はまず敵にバフをかけまくる。最初にみた時は何をトチ狂ったことをやってるんだろうと思った。人間五十年でボケが始まるのかと思ったよ。
でも行き過ぎた強化は自分に牙をむく。
信長は大量のモンスターが集まり、しかしそのモンスターからの攻撃は届かず、更に自分のスキルの範囲内になるスポットを探した。
そして高みの見物をしながら過剰にバフをかけ続けた。
デバフでは殺せない。デバフの最終地点は身動きをとれなくすることだから。
だがバフの最終地点は死だ。強化されすぎた力に体が耐えられなくて死ぬか、自分の動きに対応できずその辺の壁にぶつかって死ぬか、急激に強化されたことにより狂暴性が増し互いに殺し合いを始めて死ぬか、命を燃やし過ぎてあっという間に寿命が尽きて死ぬか。
その他諸々。
という訳で信長は安全な場所で寝っ転がりながら敵にバフをかけ続けるだけで、戦闘は一切せずにレベルを上げたのだ。妖力回復アイテムをポリポリ食べながら。
「ねえ、信長。なんかズルくない」
「ゲームのルール内なんだからズルにはならないだろ。苦労して強くなるのと楽して強くなれるのなら迷わず後者を選ぶだろうが。それに『傾奇者』はレベル60台になってやっと戦えるようになる。それまでは誰かとパーティーを組んでレベル上げをしなくちゃだめなんだぞ」
「だから私もゲーム始めたんじゃん」
「ふん!1日の半分も学校に行ってる怠け者が!天下取り舐めんなよ!」
「いや、逆だから。現代社会ではその見解真逆だから」
なんてやり取りもあって、私のキャラと信長のキャラにレベル的格差が生まれた。
*
ある程度までプレイしたところで、一旦私たちは現実世界に戻って来た。
大事なことを話し合わなくてはいけないからだ。
「それでノブナガ。いったいどこの勢力に入るの?」
レベル50を超えるとどこかの国に仕官することができる。そしてその国で出世して、下剋上とかもやりまくって大名になり、天下統一を目指すのだ。
まずはその土地の支配者にならなければ天下統一なんて夢のまた夢。やり方は人それぞれ。お館様を暗殺したり、政略的にお館様から実権を簒奪したり、その他諸々。
とにかくこの国決めは大事なのだ。弱小国なら実権を握るまでは楽だがその後の天下取りで苦労する。逆に大国であるなら実権を握るまでは苦労するがその後の天下取りでは他をリードできる。
さあ第六天魔王織田信長は一体どこを選ぶのか!
「ダーツで決めよう」
「はぁ?」
なに言ってんだ、こいつ。
「こういうのは運に任せた方が面白いからな。じゃあラン投げろ!」
そう言うと信長は日本地図を壁に貼り、ダーツ矢を渡してきた。なんか楽しそうだ。というか地図とかダーツ矢とか自分で用意したんだ。
「私が投げていいの?」
「お前の方がおもしろい場所を引きそうだからな。俺だと運もめちゃめちゃいいから超有利なとこ引きそう。それじゃ面白くない」
「え、織田軍からやり直したいとかないの?」
「はぁ!?せっかく二回目の天下取りなのになんでまた同じキャラ選ばなきゃいけねーんだよ」
「そんなもんかねぇ~」
「いいからさっさと投げろ!とんでもねえとこ期待してるぜ!」
「ダーツなんてやったことないんだから期待されても困るよ!」
「大丈夫だ。俺はお前のダーツの腕に期待してるんじゃない。お前の運のなさに期待してるんだ」
「ムカッ!そこまで言うならもうどうとでもなれぇ!!!」
これから始まる天下取りの命運を左右する一投が放たれる。私から。
ドス!
「ん?」
「え?」
私の矢が射抜いたのは北海道、函館辺り。
「あれ戦国時代って蝦夷とかはまだ登場してないんじゃなかったっけ?じゃあ投げ直しだね」
「いや、いい。実は『信長の覇道Online』には隠しステージとして蝦夷と琉球が解禁されてるらしい」
「マジで?でも隠しステージってことは行くのも難しいんじゃないの?やっぱり投げ直した方が、、、」
「放たれた矢が再び手に戻ってくることはない。お、この言葉何となくカッコいいな。特に意味はねぇけど。とにかく面白くなってきた。さすがだラン!期待通り!」
ん?信長テンション上がってる?
「そうなの?投げ直さなくていいの?」
「もちろんだ!これでいい。北の島からの天下統一か。おもしろくなってきやがった!はははは!」
ノブナガは楽しそうに笑っていた。
「そ、そうだね!はははは!」
よくわかんないけど、信長笑ってるし、笑っとけ笑っとけ!
「では目指すは北ということだな!」
ということなので私と信長は蝦夷の大地を目指すことになったのだ。
*
再びゲーム内
「でもそもそも蝦夷までどうやって行くの?」
「普通に本州の最北まで行ってそこからは船だろうな。とりあえず行ってみてその辺の漁師辺りから情報を得るぞ」
「結構大変になっちゃったね」
「なに言ってんだ。俄然燃える展開だろう。蝦夷には先住民のアイヌがいる。生粋の狩猟民族だと聞いている。これを戦争に使えたらどれぐらいの力を発揮するか。考えただけでワクワクする」
「でもアイヌって日本に占領されたよね?」
「狩人から兵士になれていなかったからだ。俺なら連中を兵隊に出来る」
「それって結構えぐいことだと思うんだけど」
「俺は戦国じゃあ、民に鉄砲を持たせて一日で兵に変えた。慣れたものだ。だが前よりも難しいかもな。言葉も通じないし、思想も違う。そんな民たちをどうやって戦争に駆り出すか。餌がいる。怒りがいる。誇りがいる。危機感がいる。問題が山済みだ。だがせっかくなんだから前より難易度が高くないとつまらん」
「確かに難易度高い方が面白いかもね!ゲームだし!まあ私は、最初から最強!!!みたいな裏技使って楽に全クリする派だけど」
こうして私たちは一路北へと向かうのであった。
結構急ぐのかと思ったけど、ノブナガはゆっくりと進んだ。東北の国々、集落にしばらく滞在しながら色々試しているようだった。
「なんかゲームの中で東北旅行してるみたい。楽しいね、ノブナガ!」
「蝦夷をまとめたらこの辺は攻め落として俺の国になるんだ。よく知っておかないとな」
「あ、なるほどね。もちろんわかってたよ。ゆっくり進んできたから各土地の気候や地形、住民たちの雰囲気も結構わかってきたもんね。ふふん!私もよくわかってるでしょ?」
「かなり厳しい環境だな。とにかく寒い。冬のために蓄えておかなくてはいけないから、年がら年中節約生活だ。民の裕福度と生存率が他の土地に比べて低い。これじゃあ強い兵が育たないな。それに冬に戦が出来ないのも厳しい。これじゃあ天下統一は夢のまた夢だ。だがここを拠点に出来るということはゲーム的に何か攻略法があるんだろう」
「なんかすごいアイテムがあるとかかな」
「・・・」
私はスルーされてもへこたれないのだ。そういう強い女なのだ。ぐすん。
「あとはアイヌたちが冬でも戦える固有スキルを持っているかだな」
「それもありそうだね。でもアイヌを味方につけるのが一番面倒そうだけど」
「蝦夷に入ったことがあるプレイヤーが掲示板に書き込んでいたが、基本アイヌの平均レベルは80、蝦夷の獣たちも平均60らしい」
「80!?初期レベルでってこと!?しかも獣で60!?本州の獣なんて強くて40ぐらいだよ!」
「過酷な土地なんだろう。隠しステージだけあってな。だから今の俺たちのレベルで蝦夷に入れば、まとめるどころか瞬殺される」
「私なんて瞬瞬殺だよ!やられたことにも気づけないよ!」
「だからこの辺で獣や野武士を狩りながらレベル上げをしないと、そもそも蝦夷に辿り着いてもどうしようもないんだよ」
「マジかよー!隠しステージえぐ!」
「お前はレベル上げを怠り過ぎだ。学校辞めろ」
「いや、ゲームのために学校辞めるとかさすがに過保護な両親も若干怒るから」
「若干ならいいだろ」
「若干舐めないでよ!生まれてこのかた一度も怒られたことがない私にとっては大問題だから!」
そんな感じで私たちは東北でしばらくレベル上げに徹することとなった。そう、私がゲームで一番嫌いな時間だ。
しばらく私たちは東北地方を回りレベル上げを続けた。そして遂に私が音を上げるのであった。
「ノーブーナーガ―!レベル上げ怠いよー。私にも楽なレベル上げの仕方考えてよー」
「自分で考えろよ」
「むーりー。おねがいだよ、ノブえもん」
「ていうかお前陰陽師だろ。強力な式神を使役できればかなり楽にレベル上げ出来るんじゃないのか?」
「ははは!そんなことはわかっているっての。だからその強力な式神を使役する手伝いをしてくれってことさ。ブラザー」
「その話し方イラっとするな」
「それで協力してくれるのかい?相棒」
「わかった。手伝ってやるからそのしゃべり方を今すぐやめろ」
「まったく。兄弟は短気で困るぜ。まるでケツに火のついたカウボーイみたいだぜ」
「どんな状況だよ、そのカウボーイ。あと俺の呼び方統一してくれない?」
私の巧みな交渉が功をそうし、一旦レベル上げを中断し私とノブナガは強力な式神を使役するために旅に出る。
場所は恐山。狙う式神は『火之迦具土神』。
炎系最強の式神である。
全てを焼き尽くすエグイ式神。チート級のめちゃヤバいやつ、
「本当に『火之迦具土神』なんて調伏出来るの?」
「真っ当に戦えば無理だろうな」
「じゃあー
「策はある」
「そっか、ノブナガに策があるんなら何の心配もいらないね」
「わかってるじゃないか」
「なんたって私はノブナガ推しだからね!」
「はいはい」
ノブナガは私の求愛に対して未だに恥ずかしそうにしている。歳の差とかそういうめんどくさいことを考えているんでしょう。可愛い奴め。
「ノブナガはホント私がいないとダメなんだから」
「お前って何かよくわかんないけど、、、うん、突っ走ってる感はあるよな」
「ふふふ、私に置いてかれないでよ!」
「そういう意味じゃねーよ。全く」
ふふふ、ノブナガったら照れてやがるよ。ふふふ。ふはははは!
「とにかく恐山を攻略するぞ。火之迦具土神を調伏するのはその後だ」
「わかってるっての!」
恐山は日ノ本でトップスリーに入るぐらいの難関ダンジョンだ。そしてその恐山のボスとして君臨しているのが火之迦具土神。くっくっく、腕が鳴るぜ!
「じゃあ一人で行くか?」
「ごめんなさい。腕なんて鳴ってないです。うんともすんとも言ってません。どうしたらいいんですか?」
「初めからからそう言え、バカが」
「てかなんで心読めんのさ!」
*
恐山とは麓から山頂へと昇るダンジョンだ。その山頂に火之迦具土神が君臨している。ダンジョン内には強力な炎系モンスターが溢れかえっている。とても私たちのレベルで勝てるモンスターじゃない。
だからノブナガの作戦はこうだ。
攻略なんかしない。
山頂に登るんじゃない。山頂に降りるのだ。
―5時間前
「ノブノブ!さすがに恐山を攻略するのは今の私たちのレベルじゃ無理じゃない!?」
「ああ、無理だな」
「じゃあどうすんのさ!」
「ダンジョン攻略はしない。火之迦具土神の首だけを獲るんだよ」
そう言ってノブノブはなんか悪い顔をしていた。
、、、マジカッコいい。
「作戦おせーて、おせーて!」
「いや、そりゃ教えるけど、そのノブノブって呼び方だけ止めてくんない?シンプルにすんごい嫌」
「もう!ノブノブったら!」
ノブノブは恥ずかしがり屋だ。きっと戦国時代の人はこんな感じなんだろう。私が徐々にこの時代に馴染ませていかないと。
「まあお前が今かなり的外れなことを考えてるのは何となくわかる」
「ん?」
「ただお前相手に何か言っても意味がないことはもうわかっている。簡潔に作戦を説明する。『飛ぶ』『降りる』『斬る』だ」
「どういうこと?」
「説明してる暇はないな。そろそろだ」
「え、なに?」
次の瞬間私たちが立っていた地面が爆発する。
「しっかり掴まっとけよ」
「え、だからなに!?」
こうして私たちは上空に飛ばされた。
*
「ぎゃー!なにこれ!なにこれ!そんでもってあっつー!そして凄いスピードでHP減ってってんだけど!」
「間欠泉だ。これに乗っかるためにここで待ってた。まあ普通に熱で死ぬから回復薬を飲んどけ」
「飲む飲む!飲むに決まってんじゃん!でもこれだけじゃあ」
「ああ、恐山の上まではいけないな。だが俺の『風陣』を3回使って上昇気流を起こせば、この勢いでもっと高く飛べる」
―風陣×3―
風陣はノブナガの支援魔法の一つ。強力な上昇気流を起こして味方の動きをサポートしたり敵の動きを邪魔したりする。
冷静に解説してみたけど、3連で使うなんて聞いたことない。
つまり、、、
「ぎゃあーーーー!高い高い!死ぬ―!」
「ほら見ろ。恐山山頂が下に見えるだろ」
ノブナガの言葉を聞いて目を開くと真下に恐山が見えた。
「いやそりゃ見えるけどやばいやばい!こんな高いところから落ちたら死ぬって!」
飛ぶだけ飛んだ私たちは一気に急降下を始める。
「だから無駄に高い『身代わり人形』をもたせたんだろーが」
死に向かって絶賛急降下中にノブナガがしれっと答えた。
『身代わり人形』とは恐山に来る前にノブナガが私にプレゼントしてくれたものだ。
「え!?これって使う前提で渡されてたの!?」
「当たり前だろ。なんで使うかどうかわからないもののために大金を払うんだよ」
「私を心配してだと思ったんだよー!」
「ゲームでそんなこと考えてもしょうがないだろ」
「いつもは現実ばりに本気なくせに、いきなりゲームだからとか言うの止めてくれない!?どっちのノリでいけばいいのかわからなくなるから!」
「はぁ!?本気のゲームだから楽しいんじゃねーか。天下取りってのは」
「ああ、きたよ!急に来るこのノブナガイズム!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと死ね。その後ボス戦だ」
「人生のパートナーに絶対に行っちゃいけないセリフだよ!それ!じゃあ式神ゲット出来たら私の言うこと一つ聞いてよね!」
「、、、まあいいか。言うことを聞いてやるからさっさと死ね」
「言い方!!!」