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あの鐘を鳴らすのは誰や?

今でもときどき新聞を作っている夢を見る。
すみません、すみません、と謝っている。
でも、少しほっとしているのは確かだ。

共同通信のピーコを聞かなくなって久しい。ピーコとは、新聞社の編集局に響きわたるニュース速報を告げるチャイムのこと。「ピーコピコピコ…」という音声で始まるので、ピーコと呼ばれるのだそう。

だが、キンコンカンコーンは最上級の非常事態発生を知らせる緊急チャイムだ。「9・11」のときにはベテラン記者でも一度あるかないかのキンコンカンコーンが何度も何度も鳴った。
わたしは整理部で経済面をつくる面担だった。自分の面を大急ぎで降版し、隣の国際面の補助に入っていた。

デスクや普段は姿を見せない局幹部の怒号も飛び交う中、硬派デスクから投げられた原稿の束が、自分の目の前を通りすぎ、国際面面担のデスクにどさっと落ちる。紙面を組んでも組んでも次から次へと原稿がドカ雪のように降り積もるのを見て、国際面面担はパニックを起こした。

「すまない、手の震えがとまらない」。

急きょ私が再登板し、国際面も組む羽目になったが、デスクからの指示は一つ。

「なるべく大きな活字を使え」

5段の縦見出しなら6.5倍の活字だ。つまり、主見出しは8本、脇見出しは10本。主見出しはたいてい9~10本だから、時間のない上にこの制約は厳しい。100行超の原稿を10分以内に見出しを付けて組む、そしてすぐその差し替え原稿が来る。誰か手の空いた整理部員がゲラをもって校閲さんのところへ駆けていく。

その作業がどのくらい続いただろうか。

現在の仕事である報道分析では、記事スペースを広告換算して指標としているが、新聞のニュース価値はスペースではなく、何よりも見出しの大きさだ。

わたしも随分気合が入っていたのだろう。見出しの書体がゴチックだらけになってしまっていたようだ。

大ゲラを見た局デスクがわたしのところに飛んできて「読者に『読んでくれ』って、張り切っているのは分かるよ。こことこの見出しはゴチックはキツいから明朝体にしよう」と言った。

夢に見たのはこの部分。言い方がソフトな局デスクには今でも感謝している。

すみません。すぐに直します。

店じまいをして家に着いて1時間ほど、ぐだっとした。興奮がなかなか冷めないがどうしようもない。

タモリが正午を告げたのを機に、出勤前の仮眠を3時間とった。

社に上がると、先輩が部長に頭を下げて、新しい物差しをもらったとわたしのところにやってきた。紙面編集で使う物差しをズボンの後ろポケットに入れたまま帰ったらしい。

その翌日もまた翌々日もしばらく編集局は、殺気立っていた。


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