【農福連携】なぜ農業なのか?「担い手不足」だけじゃない背景
受刑者の立ち直りを重視する更生プログラムとして、刑務所で農作業を行わせて出所後の就農を促す事業が北海道で始まっている。
この手のいわゆる「農福連携」の話題で、農業サイドはいつも開き直って「人手不足」の現状を語りがちだが、個人的にはそういう態度は早くやめた方が良いと思う。
Win-Winの関係です!とアピールしたいのだろうが、農業の実態をよく知らない人にとっては
なんとなく「農業は人手不足」「終わってる業界」という印象を強めてしまう。
「人が足りないから、どんな人でも受け入れるんだね」と思われかねない。
「農家はもっと減っていい」(久松達央著)の受け売りでもあるが、個人的な肌感覚としても、農業は世間が言うほど人手不足ではないと思う。
「もっと人がいれば大規模にやれて、儲かるのになあ」と考える経営者は業界問わずいる。
農家だけが特別困っているわけではない。
なぜ農業は、福祉との連携に前向きなのか?
農業が簡単な仕事だからではない。
人手が足りないからと言って、どの業界も受刑者を受け入れるわけでもない。
シンプルに業界の性格としてそういう懐の深さがあると思う。
「まじめに働いてくれるんだったらウチで働いてみる?」
と言いそうな農家が私の頭に何人も浮かんでいる。
元来、土地や地域社会と結びつきが強い農業。
謎の行事に参加を強制されたり、妙な同調圧力に苦しむ場面があることも事実かもしれないが、
人を助けたり、育てたりすることへの心理的なハードルは相当低い。
誰かに世話してもらって一人前になり、自分もまた誰かの世話をする。
ある程度の年齢になれば、誰もが次世代を育てる責任を負う。
そういう自然な流れが農村にはあると思う。
思い返せば、新卒でとある農村に赴任した自分も
「役に立っても立たなくてもいいけどとりあえず教えてみよう」という農家の態度に救われて、のびのびと成長することができた。
そのうちに、自分がどんな仕事が好きなのかもわかったし、実は人が好きだったのだと気づけた。
私は農村のそういうところが好きだ。
障害のある人や、一度は罪を犯したが更生して社会復帰したい人たちの「働きたい」という気持ちは尊い。
障害の有無や過去の過ち(程度によるが)に関わらず、やる気や能力のある人が働ける仕組みがもっと普及していくと良いと思う。
農業はその仕組み作りに一役買っているのだから、「人手が足りないもので、助かります…」などと謙遜するのはやめてもらいたい。