見出し画像

管理不全土地とのたたかい〜Vol.5 ”消えた男”の戸籍が教えてくれること

Xさんは、隣地の所有者である会社とその代表取締役Yを追ってきた。しかし、会社は事実上解散し、Yは死亡していることがわかっていた。

調査をしないで噂に頼っていたり、手続きの放置が簡単に災害の二次被害を生みやすい昨今、Xさんや近隣住民に次に打てる手は、あるのだろうか? 

「同一人物」証明できたはいいものの…

前回の記事までで、Xさんは、隣地(宅地)の元所有者のYと隣地(私道)の所有者の代表取締役Yが同一人物であることの立証に成功し、死亡したYの住民票を取得した。
しかし、私道からXさん宅に覆い被さる樹木を撤去するには、Yが代表取締役を務めていた会社の現在の代表者を突き止め、同様に枝を切除してもらう必要がある。
つまり、Xさんのたたかいは、もはや次のステージに進んでいた。代表者が死亡した会社の代表取締役を何らかの形で突き止めるか、それができないのであれば、一時取締役の選任申立等の樹木の撤去を求める裁判を起こす必要があるのだ。

「監査役」の妻も死亡

そこで、Yの死亡時の住民票(除票)を取得した上で、東京地裁の一時取締役選任申立書のテンプレートを参考資料のひとつとして、台東区に戸籍の除票を請求した。
Xさんが相談していた行政書士の考えでは、死亡時の住民票だけでも、疎明資料としては十分ではないかとの考えであったが、裁判所のテンプレートで必要だというのであれば、戸籍も取得して損はない。しかも、亡くなったXの抄本だけでなく、家族も載っている謄本を取得できるというのだから。
そこで、裁判所のテンプレートも材料として台東区の担当者を説得したところ、Yの戸籍謄本を取得することができた。

昭和一桁世代のY。生まれは下谷区、現在の台東区と生粋の江戸っ子だ。その当時、一家は神田区に住んでいたのか、出生届の受理者は神田区長となっている。これも現在の千代田区だ。

そして、不動産業で財をなし、Xさんが住む家を含む含む一帯の分譲事業にも成功する。そして、50代はじめで大阪から10歳以上年下の妻を迎え、中央区で暮らした。
しかし、会社を廃業後は、江東区の木造アパートで暮らし、江戸川区の病院で息を引き取った。届け出たのは妻だった。
ところが、大阪出身のその妻も、今年8月に富岡市で死亡していたことがわかった。この妻は、会社の監査役として登記されていた人物でもあった。
夫婦の間に子供はいないこともわかった。

Xさんは、かつて聞いたことと全く違うことに驚きを隠せなかった。ボヤが起きたとき、管理人は認知症が進み、息子さんがいて、その人が管理しにたまにくるだけだというのが専ら定説化していたためだ。

一時取締役の選任申立へ…

Yについて妻が相続放棄をし、相続財産管理人の選任がなされていたことは既に官報の調査で明らかになっている。
ここで夫妻の間に子供もいないとなると、Yの会社を親族が相続している可能性はゼロに等しい。
こうなると、裁判所に一時取締役の選任を申し立て、枝葉の撤去を求めるしかなさそうだ。


相続土地国庫帰属制度の対象になるのは大方予想がつくものの、管財人弁護士も民間も、まず現地入りしないで現場周辺の環境をみたうえで売買していないようだ。
自分さえ、今さえ、といった目的の使い方で本当に法律や制度は機能していくのだろうか?

まだまだ道のりは遠い。


いいなと思ったら応援しよう!