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64番② 朝ぼらけ宇治の川霧 権中納言定頼
今橋愛記
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木 権中納言定頼 〔所載歌集『千載集』冬(420)
歌意
明け方、あたりがほのぼのと明るくなるころ、宇治川の川面に立ちこめていた霧がとぎれとぎれになって、その絶え間のあちらこちらから点々と現れてきた川瀬川瀬の網代木よ。
前回はこちら→64番①朝ぼらけ宇治の川霧
今ならば、スマートフォンを横にして持ち、
少し離れたところから明け方の宇治川の動画を撮っている。
その映像の歌ということになるだろうか。
だんだんに霧が途切れて、姿をあらわしてくる網代木。
景をそのまま言葉にした歌。叙景歌。
網代とは、氷魚をとるために川の瀬に杭を打ち並べ、簀を設けたもの。
網代木は、その杭。
宇治川の網代木の景は、冬の風物詩でもあったという。
あらわれわたる
霧のもやもやした感じ。
あらわれわたる
わたる、 画面がワイド版になるような空間の広がり。
あらわれわたる
だんだん見えてくる感じ。
うつくしいこの叙景歌が
恋の歌に飛びつく時分をすぎた心に しんしんと響いてきた。
翻案は朝霧ではなく夜霧に。
濃霧の中の運転、フロントガラス越しの景を歌にした。
あのまちの夜と霧の中 たえだえに あらわれわたる グループホームよ
今橋 愛